『貴州火鍋』のオープン以来、80C(ハオチー)で継続的に読まれているのが、貴州料理に関する記事だ。失礼ながら、中国でもマイナーとされる貴州料理。これまで留学生や駐在員の間でも、行ったことがない省として挙げられることが多かった。
しかし。現在、東京には3つの貴州料理摂取スポットがある。
まずひとつが、孤独のグルメにも登場した新小岩の『貴州火鍋』。次いで、大塚にある羊肉粉(羊肉入り米粉麺)の専門店『菊下楼』。そして、“隠れ貴州料理店”として若い貴州人を中心に人気がある、御徒町の『王さん私家菜』である。
そんな中、烙鍋(ルゥオグゥオ|luòguō|烙锅)の専門店『東京黔大叔烙鍋酒場』が大塚駅そばにオープンした。
烙鍋(ルゥオグゥオ)は貴州式鉄鍋料理。
そもそも烙鍋(ルゥオグゥオ|luòguō|烙锅)とは何か? というと、貴州省に伝わる小吃(軽食)のひとつ。現地では、夜食やおやつとしても親しまれており、「食べながらおしゃべりしたい」「みんなで二次会にいきたい」というようなとき、この烙鍋にお呼びがかかる。
いってみれば、鉄板焼やジンギスカン、日本式バーベキューなどに通じる食べものなのだが、烙鍋ならではの特徴というと、鍋の形状とつけだれだろう。
アツアツに熱した分厚い鉄鍋に菜種油を注ぎ、臭豆腐や豚肉、エノキやニラ、レンコンなどを並べ、香ばしく焼き上げたら、“貴州料理の魂”ともいえるつけだれをたっぷりつけてガブリ!
スパイシー&食感豊かで香り高く、複雑怪味なコクとうまみのあるつけだれが食材に絡めば、箸も酒も止まらなくなってしまうこと請け合いだ。
たまご料理、ポテトフライも烙鍋の具に!?
そんな烙鍋専門店『東京黔大叔烙鍋酒場』を開業したオーナーの李さんは貴州省出身で来日23年目。慣れ親しんだ郷里の味を東京で楽しめる場として、2023年11月18日、大塚に店をオープンした。
開店当初は、現地から取り寄せた烙鍋専用の鉄鍋を用いていたが、鉄鍋で食材を焦がしてしまう人が多いことから、考えた末に鉄鍋を使うのを止めてしまったという。そこで現在用いているのが、パエリア鍋にマッコリカップだ。
烙鍋の具は、肉類11種類に加えて、葉物、芋類、きのこ、たまごなどが13種類。生鮮素材を焼くだけでなく、炒め物や揚げ物など一見料理に見えるものも具として楽しめるので、家のホットプレートで焼く焼き肉等とはひと味違った貴州テイストとなっている。
貴州料理の魂、それはつけだれ。
そんな烙鍋に欠かせないものといえばつけだれ(蘸水)である。そもそも、貴州料理におけるつけだれは鍋の数だけあると言われ、奥が深い。
その主要成分は、スパイス、香味野菜、調味料、香味油など。入れる香味野菜の下ごしらえも含めると、味の表現は無限大。
企業秘密ではあると思うが、『東京黔大叔烙鍋酒場』の配合を聞いてみると「10種類のスパイスに調味料を加え、コクを出すためにピーナッツの粉、食感を増すために揚げ大豆を加えている」と李さん。
唯一貴州とと異なるのは、ドクダミの根(折耳根)がが入っていない点だ。聞けば「なかなか栽培も難しく、近隣で掘っていたら怪しい人になってしまいますよね…」とのことで、やむなくドクダミ抜きでつけだれを完成させたらしい。
とはいえ、店のこだわりが最も現れるのがつけだれであり、この店でもメニューのど真ん中に「タレ」があるのを見ると、その“推し”っぷりがわかる。
また、五味干碟(スパイシー唐辛子パウダー)や麻辣干碟(マーラー唐辛子パウダー)といった粉末調味料も味変要素として重要な脇役。これらを決めたら、あとは思い思いに食材を焼くだけだ。
烙鍋のおすすめの具と楽しみ方。
具は好きなものを注文すればよいが、野菜類はニラ+もやし、ズッキーニ、エノキダケ、ジャガイモなどが定番。
ジャガイモはシンプルにスライスしたものだけでなく、ポテトフライ(洋芋芋坨坨)や、貴州の屋台の小吃として楽しまれているじゃがいも焼き餅(洋芋粑)、玉子千切りじゃがいも平焼き(鶏蛋洋芋絲)、などもあるので、イモと他の食材の合わせ技メニューを選ぶのもいいだろう。
また、肉類のおすすめはメニュー列の最初にある豚バラ肉(秘制五花肉)だ。
皮つき豚バラ肉をゆでてから、玉ねぎ、ピーマンとともに甘じょっぱく調味したもので、皮付きにこだわる貴州人のマインドが感じられる。
そして、豚肉のようにあらかじめ調味された具は、つけだれではなく唐辛子パウダーにバウンドさせるのがおすすめ。甘じょっぱい肉にスパイシーな粉が絡んで、絶妙なジャンキーさがビールを呼ぶ。
さらに、殻ごとバリッといけるよう揚げてあるエビ(8尾)は注文必至。酸っぱく発酵させた唐辛子を用いた漬け唐辛子こんにゃく(酸椒魔芋)など、貴州風味の具も気になるところだ。
烙鍋専用鉄鍋希望者は事前に予約を!
メニューには烙鍋だけでなく、タタキキュウリ(拍黄瓜)といった前菜や、貴州式激辛鶏煮込み(貴州辣子鶏)やキャベツの強火炒め(火爆巻心菜)など、貴州家庭料理を中心とした中国西南地方の炒めものなども用意されている。
烙鍋の前につまんだり、烙鍋の間の箸休めにしてもいいが、烙鍋なしで料理を楽しむというのもアリかもしれない。
また、食材を焦がす人が多いことから撤収した烙鍋専用の鉄鍋だが、事前に依頼があれば出してもよいとのこと。現地の気分を味わいたい人は、せっかくなのでリクエストしてみてはいかがだろう。
ちなみに11月18日~26日のプレオープン期間中は、貴州人を中心とした予約網に予約が鳴り止まなかった。今冬行くなら、予約を入れてから出かけよう。
東京黔大叔烙鍋酒場(チェンダスウ)
東京都豊島区南大塚1-60-19 パルムハウス南大塚(三業通り沿い)(MAP)
TEL 03-3946-6198
営業時間 11:00-15:00 17:00-23:00(土日祝は通し営業)
月曜定休 →年中無休(2024/01/29より)
TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)