中華食材やおつまみとしておなじみの干し貝柱。とりわけ品質の高さに定評のある日本産の干し貝柱は、高級乾貨として香港に輸出され、高値で取り引きされてきた歴史があります。

その使い道は実に多彩。上等な蒸しスープや、ほぐして卵白と炒めた炒飯、白菜と一緒に煮た煮込み料理、広東式の粥、XO醤(エックスオージャン)の材料など、小粒ながらうまみの強い干し貝柱は、中国料理になくてはならない存在といえるでしょう。

レストランはもちろん、家庭料理でも使えます。使い方は、水で戻したのち、戻し汁ごとスープや炒めものなどに加えればOK。干し貝柱を使えば、料理はたちまちふくよかでほのかな甘みを帯び、奥行きのある味わいとなります。

特に凝縮したうまみや、独特の歯ごたえは唯一無二。肉を使わずに複層的で品のよいうまみを出したいとき、これほど重宝する食材はないはずです。言ってみれば、干し貝柱はなんでもおいしくしてくれる“うまみの宝石”。どうやって作られているのか、北海道の生産現場を訪れました。

飛行機の窓から、日本最北の突端が見えてきました。
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>ホタテの水揚げ日本一!北海道最北の村・猿払の歩み。(このページ)
資源を守って豊かになる、ホタテ漁のエコシステム。
美味を生み出す「うまみの宝石」。猿払産干し貝柱ができるまで

ホタテの水揚げ日本一!北海道最北の村・猿払の歩み。

ふるさと納税の返礼品を見てもわかる通り、日本国内のホタテの主要産地は、北海道のオホーツク海沿岸と、噴火湾および青森県の陸奥湾に集中しています。

そのなかでも、干し貝柱の加工場はオホーツク海沿岸がメッカ。北は宗谷から南は常呂まで、約260kmに達する海岸線沿いにおいて、特に知名度が高いのが猿払村(さるふつむら)です。

猿払は、稚内空港からオホーツク海岸を南へひた走ること39km。日本最北の村であるここは、古くから漁場がよいと言われ、ホタテ漁に取り組んできた歴史があります。

オホーツク海の北の玄関口となる稚内空港。

なかでも干し貝柱は明治時代から加工しており、当時から輸出にも取り組んでいたほど。今は「干し貝柱はオホーツク海で加工されるものの約37%が猿払産」と猿払村漁業協同組合の方が話してくれました。

事実、村の主要産業である漁業の中でも、収益性が高く、比較的安定しているのがホタテ漁です。その背景にあるのは、徹底した資源管理と、豊かな漁場の相乗効果。しかし、その歩みは、決して楽なものではありませんでした。

猿払の繁栄に歴史あり。どん底から再起を賭けた起死回生の一手とは?

猿払で漁業がさかんになったのは、明治時代(1868〜1912年)初期に遡ります。当時のオホーツク海は、ニシンが群来し、溢れんばかりの鮭が獲れ、ホタテは湧いてくるように獲れた黄金時代。しかし、計画性のない乱獲によって、繁栄は長くは続きませんでした。

とうとう猿払の海の資源が枯渇し、漁業が成立しなくなったのは1963年のこと。さらに追い打ちをかけるように、戦後に栄えた天北炭鉱が1971年に閉鎖。村は「貧乏見たけりゃ猿払へ」と言われるほど、疲弊してしまったのです。

そこでホタテ漁に村の再起を賭け、大きな夢を抱いて立ち上がったのが、当時、猿払漁業協同組合長だった太田金一氏と村長の笠井勝雄氏です。

その計画とは、日本初となるホタテ稚貝の大規模放流。村がどん底にあった1971年、周囲から反対の声を受けながら、村の税収の約半分を稚貝の購入費に充当し、1,400万粒をオホーツク海に放流するという大勝負に出たのです。

この大規模放流を皮切りに、猿払では翌年、翌々年と稚貝の放流を続け、「育てる漁業」へと方針を転換。緻密な計画と努力が実り、悲願のホタテ水揚げを再び実現できたのは、資源が枯渇して11年を経た1974年のことでした。

今でこそサステナビリティが謳われる漁業ですが、過去の過ちに気づき、いち早く自然との共生に目を向けた猿払村。

「人間は神々と力を競うべきではない 人間は自然の摂理に従うべきだ」

漁協には、自然の摂理に従った漁業を続ける意思を記した「いさりの碑」の文面が額装されており、今もその志を伝えています。

猿払漁協には、過去の過ちを認め、自然の摂理に従った漁業を続ける意思を記した「いさりの碑」の文面が額装されています。
「人間は神々と力を競うべきではない 人間は自然の摂理に従うべきだ」。当時猿払漁業協同組合長理事だった太田金一氏と村長の笠井勝雄氏の連名で締めくくられた「いさりの碑」。

以来、約半世紀にわたって衰退することなく、脈々と続いている猿払のホタテ漁。現在は放流だけでなく、自然発生のホタテも増えているといいます。具体的には、どのように資源を守り、海を豊かにしていったのでしょう。次のページでは、ホタテ漁を支えるエコシステムをご紹介します。

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