今年の中秋節は10月1日(木)(旧暦の8月15日)。そんな季節の風物詩といえば月餅です。月餅の起源は諸説あり、中国語の文献を見ても起源そのものがはっきりしません。しかし間違いなく言えることは、中華系の暦の行事としては新年の次くらいに重要な日ということ。

現代の中華圏では、親しい友人や世話になっている方に月餅を贈り合う習慣が定着。丸い月餅は人々の団円を表し、中秋の名月を見ながら故郷を想い、親しい人たちの幸福を願うのです。

広州の「蓮香楼」は広式月餅の定番、蓮の実餡の月餅の元祖としても知られます。創業は1889年。店舗は広州市文物保護単位に指定。

月餅は地域によって郷土色がありますが、国内外で最も広まっているのは、薄めの生地の中に蓮の実の餡や濃厚な黒餡を入れた広式月餅(広東スタイルの月餅)

広式月餅は横浜中華街でも手に入れやすく、中秋節の前後には、限定の鹹蛋(シェンダン:広東語でハムダン:塩漬けのアヒルの卵)を入れた中秋月餅がお目見えします。しかし、どの店の月餅がどんな味かは、意外と知られていないのではないでしょうか。

「重慶飯店」では毎年ロビーに巨大月餅を展示。今年に限っては、切り分け配布イベントは残念ながらキャンセルになっています。

そこで今回の「横浜オールド中華探訪」では特別編として、中秋節に先駆け、横浜中華街より14店舗15種類の月餅を調達。点心師と80Cライターおよび編集者が一同に会し、食べ比べする特別企画編としました。果たしてどの月餅が皆の支持を集めるのか…!

当初は8種類くらいを食べ比べる予定でしたが、想像以上に集まりました。

トータル1万キロカロリー超え?14店舗15種類の月餅と対峙する期待と恐怖

月餅食べ比べに集まっていただいたのは以下のメンバー。筆者ぴーたんは遠巻きに観戦を決め込むつもりだったのですが、予想以上にたくさん集まってしまったため参戦することに。

アイチー(愛吃)

現地を旅するような視点で、日本で中国郷土料理を楽しむことを提案する『中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。月餅も好きだがコーヒーも好きであることから、今回は月餅に合うコーヒーを持参。食べ比べの直前に、7年前たった1人で横浜中華街の10種類の月餅を食べ比べ、記事を作っていたという事実が発覚…!
★80Cの執筆記事

ツボイ(坪井佳織)

北京に4年、広州で半年、帰国後都内高級店や商品開発などに携わる現役の点心師。北京留学中に中国国家資格点心師(麺点師)を取得し、現在は丸の内「YAUMAY(ヤウメイ)」に勤務。好きな甜点心は榴莲酥(ドリアンパイ)。なにげに月餅が苦手なのだが、現代の月餅がどう変化しているのかこの機会に食べ比べるため参加。果たして今回、好みの味が見つかるか…?

向井さん(向井直也)

中華好きが熱視線を注ぐ、西早稲田の中国茶カフェ「甘露(かんろ)」店主。店では新作スイーツを続々開発、通販を始めるや売り切れ続出の人気店に導く。ZOOMによる「中国全省 大お国自慢大会」や中国語講座などオンラインでも絶好調。「月餅の重たい餡はあまり得意でなくて…」と前置きしつつも、今回は月餅に合いそうな中国茶をチョイス。
★甘露通販とオンラインイベント申込

サトタカ(佐藤貴子)

「80C(ハオチー)」ディレクター兼ライター。貴州・雲南を中心に、胃袋目線で中国を旅する「ROUNDTABLE(ラウンドテーブル)」主宰。食の雑誌・会報誌・機内誌、ウェブ等で中華圏の食に関する執筆多々。さまざまなテーマの中華食事会も企画する。当記事では構成および月餅の撮影を担当。

ぴーたん

80Cで「横浜オールド中華探訪」連載中。アジア樹林文化研究がライフワーク。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に送り込まれたことを機に中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジアの美食を探訪中。

また、月餅の調達基準および得票の計算方法、食べる順番(重要)は以下の通りとしました。

◆月餅の調達基準
① 中秋節限定の月餅がある店は、中秋節月餅を購入
② ①がない場合は、店で最も売れ筋の月餅を確認して購入
③ 小サイズがある場合は小サイズを購入
※ ただし、筆者がおいしそうだと思った月餅を買ってしまった店もある

◆得票の計算方法
15種類すべてを食べ終わった後、各人好みの月餅ベスト4を選出。上から順に4点、3点、2点、1点として集計。

◆食べる順番
同じ餡の月餅を一度に試食。蓮蓉餡の中秋月餅4個を皮切りに、広式月餅を数種類続けたところで、適宜変わり種(蘇式月餅、潮式月餅)を挟みながらフィニッシュ。

みんなが選んだマイベスト月餅、TOP3はこれだ!

ちなみに5人の中で「月餅大好き!」というのは、7年前に1人で月餅食べ比べを敢行したアイチーさん唯1人。残り4人は「甘いものは好きだけど、月餅はちと重い…」とやや及び腰。

参考までに、パッケージ裏面に熱量(カロリー)が記載されている商品を見ると、小月餅(菜香新館)で367kcal、中くらい(同發)で740kcal、大月餅(華正樓)で918kcal。餡の種類や作り方に違いはありますが、大雑把に平均675kcal×15個とすると、総熱量は10,125kcalです(気づかないふり)。これには恐怖からか「もう10年は月餅食べなくていいかも」という声まで(笑)。

想像以上に集まってしまった月餅を前に、若干茫然としている向井さん(左)、アイチー(奥)、ツボイ(右)。

ところが食べ終わり、あれこれ論じているうちに、深夜には「来年またやりましょうか」という流れに。つまり、甘いものに厳しい味覚を持つメンバーからしても、食味は悪くなかったし、いいと思う月餅が見つかったということです。

また、みんなが選んだ月餅は15品中6品に集中したのも興味深いところ。同じ餡の月餅でも、想像以上に個性の違いがはっきりしており、各店がどんな月餅をお客さまに届けたいと思っているのか、作り手に想いを馳せることとなりました。

<1位>飴がけナッツに金華ハム!技術と風味に全員が唸った「翠香園 菓子部」の金銀肉月(金華ハム五目月餅)※期間限定

センターに金華ハム入り。断面を切るやいなや歓声が!!粒のまま入ったナッツの香ばしさもたまりません。

4人が1位、1人が2位。見事全員の心を掴んだのが「翠香園 菓子部」の「金銀肉月」です。伍仁(五目ナッツ)に金華ハムを仕込んだ月餅で、筆者の知る限り、横浜中華街ではこの店でしか作っていない、伝統的な月餅のひとつです。

ツボイ:「ものすごく仕事が細かいですね。金華ハムは肉と脂を分けて下処理しており、ナッツに軽く飴がけしてあるのではないかと思います。そうしないと、こういう風に味に一体感が出ないんですよ。ものすごい手間と仕事量です」

包丁を入れるやいなや、ナッツの香りと金華ハムの香りが飛んできて、鼻腔が刺激されます。口に放り込むと肉のうまみ、脂のうまみ、ナッツの風味が時間差で口の中を駆け巡る…!横浜中華街の老舗菓子屋の圧倒的な貫禄です。

アイチー:「同梱の紙に、1個を8つ程度に切って食べるとおいしくいただける、とありますね。真ん中に金華ハムがあり、周りにナッツがあって生地がある。食べるなら一番おいしく感じる食べ方で食べてほしい、という気持ちが伝わってきます」

サトタカ:「久々に月餅で感動しました。作れって言われても一生作れないし作らない。横浜まで買いに行くならこれですね」

「重ための月餅が苦手」という向井さんも、口にするや「うん!」と力強くうなずく風味のよさ。販売は中秋節の前後2週間のみとなります。

店舗:翠香園(菓子部)
種類:伍仁(ナッツ)
商品名:金銀肉月(金華ハム五目月餅)
金額:1個950円(税込)
販売:中秋節の前後2週間(~15日くらいまでとのこと)

 

<2位>みっちりナッツに柑橘香であと味さわやか「華正樓」の仲秋伍仁月餅※期間限定

ナッツの粒に大小差をつけ、食べやすい食感に。オレンジピールの爽やかさがいい仕事!

次に皆の人気を集めたのは老舗「華正樓」。カシューナッツ、アーモンド、くるみ、ピーナッツ、オレンジピール、松の実、ヘーゼルナッツ、カボチャの種、ゴマ。多種多用なナッツがぎっしり詰まった伍仁月餅です。

ツボイ「ナッツタルトみたいですね!」

ここで皆の舌の記憶に残ったのがオレンジピール。柑橘の香りが時間差で鼻に抜け、裏面の表示を見ると、さらにレーズンや杏、パイナップルも入っている模様。広東省では陳皮(みかんの皮を乾燥させた食材であり生薬)を料理やお菓子に使うので、柑橘の香りを効かせるのは広東らしさを存分に感じます。

サトタカ「柑橘が入ると、あと味が爽やかでいいね。食べ飽きないし、次にいける。もらって嬉しい月餅です」
アイチー「汾酒(ふんしゅ)が入ってるんだねえ!」

そう、アイチーさんが愛する山西省の白酒、汾酒(フェンジウ:ふんしゅ)を加えているのも密かなポイント。香りの使い方がうまく、重さを感じさせないのです。伝統的な月餅でありながら、現代的な和洋菓子と肩を並べられるような、完成度の高いお菓子としてまとまっていました。

店舗:華正樓
種類:伍仁(ナッツ)
商品名:仲秋伍仁月餅 ※通常販売の伍仁月餅とは異なります
金額:1個864円(税込)
販売期間:中秋節前後(9月17日時点で販売中)サイトから商品を選んで電話注文OK

 

<3位>蘇州式の塩気が癒しに!肉入り月餅「馬さんの家 龍仙」の鮮肉月餅

今回の食べ比べは15品中14品が甘い月餅。その中で唯一しょっぱい月餅が、この蘇式月餅(蘇州式の月餅)です。蘇式は上海等で食べられているローカルな味。みんなに食べてほしくて、焼きたてを待って持ち帰りました。

向井さん「甘いものを食べ続けていたので助かります」
サトタカ「しょっぱいのが癒やしになるわ」
アイチー「ピーナッツを細かく砕いたようなものが入っていて、食感のいいアクセントになってるね」

中身は焼き汁気のない小籠包の餡を甘じょっぱくしたような感じ、と言ったら理解しやすいでしょうか?もしも学生だったら、下校時のおやつに食べたいタイプがこれ。特にこの時期は「たくさん予約が入ってて、早く売り切れちゃうよ」と店員さんが言うのも本当でしょう。

点心師のツボイは「肉を使ったものとしては標準的な水準」とのことでしたが、豚肉の入ったおかず系の月餅は、甘いもの続きの舌を癒してくれました。今回の試食では変わり種だったのですが、こんな月餅が手に入るのも横浜中華街の魅力ですね。

店舗:馬さんの家 龍仙
種類:蘇式
商品名:鮮肉月餅
金額:1個250円(税込)
販売期間:通年

続いてはみんなが選んだ6品より、残り3品。これぞ中秋月餅、定番中の定番が登場!

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