家庭料理を格上げする飛び道具として、干し貝柱ほど使えるものはない。煮込み料理やスープに1~2粒使えば、しっかりとしたうまみで味わいの骨格を生み出し、鶏肉をはじめ肉類と組み合わせれば、うまみの相乗効果で、料理にぐんと奥行きを持たせてくれる。

料理をしない方には、駅の売店で売っているおつまみとして認識されているかもしれないが、干し貝柱は、昔から高級中国料理に欠かせない食材のひとつである。前述のとおり、そのうまみは海鮮の乾物の中でもトップクラス。少量でこれほど効き目があるものはそうそうない。

干し貝柱(左)と、水で戻した干し貝柱(右)。たった1粒で威力を発揮する、うまみ爆弾だ。

中国料理店でXO醤(エックスオーじゃん)や炒飯など、さまざまな料理に活用される干し貝柱は、実は家庭料理でも使いやすい食材である。

特に寒い季節においしくなる白菜や大根は干し貝柱のベストパートナー。白菜や大根はいずれも淡泊だが、干し貝柱と合わせることで、野菜の持つ甘みと、干し貝柱が持つうまみがピタリと合い、至高の味わいへと昇華する。

そこで今回は、今の季節にぴったりの、白菜料理のレシピをご紹介しよう。調味料は塩だけ。あとは干し貝柱がまとめてくれる。

調味料は塩だけ。干貝焼白菜(白菜と干し貝柱の煮込み)の作り方

干貝焼白菜(ガンベイシャオバイツァイ|gànbèishāobáicài|干し貝柱と白菜の煮込み)は、元来、毛湯(マオタン:スープ)と干し貝柱のうまみを白菜に吸わせたの煮込み料理である。

しかし、家で毛湯を気軽につくる人は少ない。そこで、今回はスープをとらずに鶏肉を使い、干し貝柱とともに「具を兼ねた出汁」として、白菜にそのうまみを吸わせて軽いスープ仕立てとする作り方を紹介したい。

水分が抜け、甘みとうまみをまとった白菜の主役ぶりも素晴らしいが、皿に残る煮汁もまた飲み干したくなる衝動に駆られる。白菜の旬に何度もリピートしたくなる料理だ。

干貝焼白菜(白菜と干し貝柱の煮込み)材料(1~2人前)

白菜 200g
干し貝柱 Sサイズ2個分。砕けでもOK(ひと晩水に浸して戻しておく→戻し方はこちら
鶏もも肉 100g
生姜 1片(薄切り)※なければなくてもよい
油 大さじ1杯
塩 少々
水 200cc前後

準備
干し貝柱をひと晩水に漬けて戻しておく(戻し方はこちら)。つけ汁も使うので必ずとっておく。

1:白菜を2~3等分のそぎ切りにする。

白菜は煮込むと縮むので、このくらい大きめにカットした方が食べやすく、食べたときの満足感も得られる。

2:鶏もも肉をひと口大に切り、軽く塩をまぶす。フライパンに油を入れ、鶏もも肉の表面を焼いたら取り出しておく。

鶏もも肉は先に焼いてから煮込むと縮みにくい。また、鶏肉にあらかじめ塩をまぶすのは、この後煮込んだときに、鶏肉のうまみが抜け切らないようにするためだ。ともに鶏肉を「出汁を兼ねた具」にするためのプロセスである。ここでは完全に火を通さなくてもよい。

3:フライパンに白菜の根元の部分を入れ、うっすらと透明感が出るまで焼く。

白菜を焼くのは、料理が仕上がったときの水っぽさをなくすためだ。プロは低温の油で揚げて水分を抜く技法を用いるが、家庭で低温の油通しは難易度が高いため、焼くことで味わいを凝縮させる。

鶏肉から出た油が残った状態で、白菜の根元をフライパンに入れると、鶏の油のうまみも活用できて無駄がない。

4:白菜の葉の先端の部分と生姜をフライパンに入れ、うっすらと透明感が出るまで焼く。

火の通りにくい白菜の根元に、ある程度火が通ったら、軟らかい先端の部分を入れて加熱する。先に根元から加熱するのは、根元の方が水分が抜けるのに時間がかかるためだ。このタイミングで生姜も入れて、焦がさないように香りを出す。

5:干し貝柱と戻し汁、表面を焼いた鶏肉をフライパンに戻し、水を加えて煮る。

ここで加えるのは「出汁を兼ねた具」となる食材だ。白菜にこれらのうまみをしっかり染み込ませるため、水を加えて中火で煮る。沸いたらフタをして、白菜がくったりとするまで7~8分間煮込む。くったくたにしたい場合は10分くらい煮てもいい。このとき、好みで紹興酒を大さじ1杯加えてもいい。

6:煮汁を味見し、必要であれば塩を少々加えて完成!

煮ている間に干し貝柱から塩気が出るので、スープを少し飲んで塩気を確認したあと、必要であれば塩を足す。参考までに、このとき足したのは塩小さじ2分の1のみ。塩を加えればうまみがぐぐっと広がり、味わいがボケず、ごはんのおかずにも適する。

味を整えたら、干し貝柱と鶏肉のうまみをたっぷり吸った白菜が主役の一品「干貝焼白菜(白菜と干し貝柱の煮込み)」のできあがり!

干貝焼白菜(白菜と干し貝柱の煮込み)

海鮮系うまみの宝石・干し貝柱と、中国料理のスープに欠かせない鶏肉の共演は、どちらか片方では叶わない、力強いうまみを生み出す。主役は白菜なので軽やかだが、口にすれば見た目以上の濃厚さ、そして野菜の甘みに驚くはずだ。

皿に残った煮汁は、ごはんにかけるなどして飲み干してもいいが、春雨を加えて軽く煮立て、さらに一品仕立てて翌日のおかずにしてもいい。また、煮汁を加えて卵を炒めてもおいしい。最後まで無駄にせず、食材のうまみを食べ切ろう。

次のページでは、非常に簡単なことではあるが、干し貝柱の戻し方をご紹介したい。

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