荻野シェフに学ぶ、唐辛子×四川の可能性

① 唐辛子のテイスティング方法   | ② 荻野シェフ特製!唐辛子チャート
③ 唐辛子の特徴を生かした四川料理 | ④ 荻野シェフのこだわり&お気に入り本

唐辛子、味と香りをどう見極める?

辛い…!でも、じわりとうまい。汗が噴き出る…!でも、クセになる。 そんな中毒性のある食材といえば唐辛子。中華においては、その燃えるような辛さを“辣(ラー)”と呼び、特に四川や湖南、貴州の料理においては欠かせない存在です。

辣子鶏(ラーヅージー)

日本でもなじみ深い「麻婆豆腐」や、ブームを巻き起こした「食べる辣油」、近年は前菜や冷麺でも人気の「口水鶏(よだれ鶏)」や、見た目にもインパクトがある「辣子鶏(ラーヅージー)」など、唐辛子の風味を生かした料理は、今も昔も人気者。気づけばじわじわと日本人の舌に浸透し、定番料理化しているような…。

口水鶏(よだれ鶏)

しかし、これだけ料理にバリエーションがあるにも関わらず、日本の中華厨房で主に使われている乾燥唐辛子は、大きく分けると「鷹の爪」と「朝天」の2種類が主、ということをご存じでしたか。

鷹の爪は固有品種でもありますが、天鷹(てんたか)、三鷹(さんたか)、熊鷹(くまたか)など日本の唐辛子の総称ともなっています。

朝天辣椒(辣椒=唐辛子)、朝天干辛椒(干辛椒=干した唐辛子)とも呼ばれる四川の唐辛子です。こちらも総称と固有品種が混在。

この状況について「日本にある乾燥唐辛子の種類って少ないですよね」と話すのは、福岡「四川料理 巴蜀」の荻野亮平オーナーシェフ。

「それだけに、何を使って香りや辛さを表現するかというのは、日本の中国料理の調理師の悩みではないでしょうか。一口に“辛い”といっても、どの料理も同じ辛さではありませんし。僕の奥さんは成都出身なのですが、よく『香りや味だけでなく、辛みの量と質にも気を遣わないと、四川の味にはならないよ』と言われ、試行錯誤してきました」。
…なるほどこの話、腑に落ちる方もいらっしゃるのでは?

一方、四川省の市場には、豆板醤用の唐辛子、鋭い辛さを出すための唐辛子、色味のいい唐辛子…と唐辛子がずらり。そう、麻辣(マーラー)の本場では、風味を表現するための材料が揃っているのです。

四川省成都市・五塊石綜合市場の風景。(画像提供:荻野 亮平)

そこで今回の「中華マニアックス」シリーズでは、日本の唐辛子シーンから外に出て、四川唐辛子を大フィーチャー。料理を作るには食材を知ることから…!ということで、成都市の五塊石および青石橋の市場で入手した唐辛子8種類と、「巴蜀」に在庫してあった湖南唐辛子2種類を、荻野シェフのご協力で、徹底調査していただきました。

さらに各唐辛子のテイスティングを踏まえ、それぞれの特徴を活かした四川料理もご紹介。おそらく本邦初となる四川唐辛子テイスティングチャートは必見、保存版です!

取材協力

荻野亮平(四川料理巴蜀 オーナーシェフ)

1978年大阪府生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、東京・千駄木の四川料理店「天外天」へ。2001年8月、本格的に四川料理を学ぶべく、四川省成都市にある四川大学に1年間語学留学しながら、現地の味を食べ歩く。

帰国後、北九州市の台湾料理店「欣葉」を経て、2007年、28歳で、四川省の街場の伝統料理・庶民の中国料理を提供する店として「四川料理 巴蜀」を開業。ブログはそのマニアックさから、料理人の愛読者多し。

四川料理巴蜀ホームページ | >ブログ「四川料理巴蜀」のかくし味

 

唐辛子のテイスティング方法

今回調査する品種は日本でもおなじみの「朝天」をはじめ、豆板醤の原料となる「二荊条」、弾丸に似た形で、小さいながらパンチのある辛さの「子弾头(子弾頭)」など、四川料理的にはメジャーな唐辛子はもちろん、荻野シェフ自身も使い慣れていないものもピックアップしてもらいました。

福岡「巴蜀」の荻野亮平オーナーシェフ with 四川の唐辛子。

唐辛子のテイスティング項目は以下のとおり。

テイスティング方法は、まず、唐辛子をカットして、その辛味が最も抽出される胎座(たいざ)を露出。

その後、ぬるい油に唐辛子を入れて弱火で加熱。色が変わりかけた頃に取り出し、油に移った①「香(シャン:香り)」、そして唐辛子そのものの②「色(ソー:色)」を確認します。

続いて、鍋に唐辛子を戻し、焦げる直前くらいまで加熱した油で③「辣(ラー:辛さ)」をチェック。この過程について「唐辛子を加熱すると、まず香りが出て、色が変わり始めた後から辛味がやってくるんです」と荻野シェフ。

香りを感じるのにちょうどいい色合いです。

この状態を過ぎたら、さらに唐辛子を加熱し、焦げ始め、苦味が出る直前で火を止めたところで④「煳辣(フーラー:焦がし唐辛子の香りと突き刺すような辛さ)を確認。「唐辛子が真っ黒になった状態が一番辛さが出るのですが、焦げ臭が出てしまうのでその寸前で止めます」。

煳辣(フーラー)は、四川の代表的な調味法である炝(熗:チィァン)宮保(ゴンバオ)等で、その香りと辛みが生かされているもの。

「炝は二種類あり、一つは和えもの、もう一つは炒めものですが、ここでいう『炝』は、唐辛子と花椒で野菜などを炒めた料理のことです。四川のレストランに入って青菜炒めをたのむと『炝』にするか『蒜(スゥァン:ニンニク炒め)』にするか聞かれますね」

また、肉厚の唐辛子2品種(纵椒(縦椒)・二荊条)は、漬けたり磨り潰したりして使うこともあるため、ゆでた後にミキサーにかけ、⑤「味(ウェイ:味)」も確認することに。

では、それぞれの唐辛子でどんな特徴がみられたのでしょうか。その違いは…? 唐辛子テイスティングチャートは次のページにて!

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TEXT 佐藤貴子
PHOTO 小杉勉、佐藤貴子、荻野亮平(五塊石綜合市場)