荻野シェフに学ぶ、唐辛子×四川の可能性① 唐辛子のテイスティング方法 | ② 荻野シェフ特製!唐辛子チャート |
保存版!荻野シェフ特製 四川唐辛子テイスティングチャート
国内で入手できる唐辛子が少ない中、何をどう使い、四川の香りや辛味を表現するのか――。それは日本で四川料理を追及する、中国料理人共通の悩みではないでしょうか。
そこで80C編集部では、より多彩な唐辛子の食味を伝えるべく、「四川料理 巴蜀」「四川料理 巴蜀」荻野シェフに調査を依頼。四川省成都市の市場で入手した唐辛子8種類の風味をテイスティングしていただき、チャートを作成いたしました。
また、おまけ編として、同店にある湖南唐辛子2種類もチャート化。定番の「朝天」から新顔の「新一代」まで、すべて試した結果がこちらです!
▼ 朝天(ちょうてん) | ▼ 小米辣(しょうまいらー) |
▼ 蘑菇(まこ) | ▼ 灯笼(とうろう) |
▼ 纵椒(じゅうしょう) | ▼ 二荊条(にけいじょう) |
▼ 子弾头(しだんとう) | ▼ 新一代(しんいちだい) |
▼ 湖南(小)(こなん しょう) | ▼ 湖南(大)(こなん だい) |
唐辛子の表記について
四川省の市場同様、簡体字にしています。日本語読みは編集部で漢字(繁体字)を音読みにしたもの、中国語読み(カタカナ)はピンインを参考にしたものです。
朝天(cháo tiān/チャオ ティェン)
【日】朝天(ちょうてん)
バナナ香のぷっくりフェイス
鷹の爪と並んで、日本でもよく使われる朝天。日本で見かけるものは、赤パプリカを小さくしたような丸っこいビジュアルが印象的ですが、「成都市の市場で『朝天』として売られているものは、店によって形が違うことがあります」と荻野シェフ。
その理由は「品種としての朝天と、『天に向かって育つ唐辛子』という意味合いで朝天と名付けて販売しているものもある」ためで、ここで紹介するのは「朝天」という品種になります。日本で見るより、少し面長な形ですね。
食味は辛すぎずほの甜い風味、馥香(香ばしい香り)が特徴で、「手に持っただけで香ってきますね。個人的にはバナナのような香りがすると思います」。キレのある辛さを出したい時にはあまり向いていません。
小米辣(xiǎo mǐ là/シァォ ミィ ラー)
【日】小米辣(しょうまいらー)
小粒ながら香辣良好!
小粒で鋭い辛さを持つ唐辛子の代表格。「この唐辛子は、辛さを生かして沸騰魚などにするといいでしょうね」。パンチやインパクトを感じさせたい料理に使いたい品種です。
ちなみに「通常、小米辣と呼ばれるものはヘタが付いており、プリッキーヌ(※主にタイで栽培されている激辛唐辛子)と同等のものになります。これはヘタが外れているため、それとは異なります。呼称については地域差や個人差があることにも留意しておきましょう」。
蘑菇(mó gū/ムォ グー)
【日】蘑菇(まこ)
きのこ臭漂う個性派
蘑菇とは中国語でキノコのこと。「これは相当辛いですよ。尖った辛さが特徴です。そして漢字の通り、すえたキノコのような香りも。これで辣子鶏を作ると、色鮮やかで辛く仕上がりますね」。
灯笼(dēng lǒng/ドン ロン)
【日】灯籠(とうろう)
しっかり炒ってしっかり香る
その形からか「灯籠」と名づけられた唐辛子。「煳辣の香りがいいですね。唐辛子の中ではピーマンや獅子唐寄りで、辛さよりも香ばしい香りを引き出すのに向いています」。たくさん使っても辛くなりにくいので、見た目でインパクトを出しつつ、食べやすくまとめたい時に使えそうです。
纵椒(zòng jiāo/ゾン ジャオ)
【日】縦椒(じゅうしょう)
ナッツ香のする肉厚族
ぬるい油で抽出しても、煳辣にしても香りが抜群。辛味は押さえつつ、香りで魅了させたい料理に。「ナッツやじゃがいもを揚げたような香りがします。湯に浸して磨り潰すと、辛さが増します」。
二荊条(èr jīng tiáo/アル ジン ティァォ)
【日】二荊条(にけいじょう)
豆板醤や泡辣椒の原料に欠かせない
肉厚なので、磨り潰したり、漬物などに適しており、豆板醤や泡辣椒(塩水に漬けた唐辛子。発酵により酸っぱくて辛い風味になる)の原料として使われている唐辛子です。
「タマリンドのような甘い香りが特徴で、湯に浸して磨り潰すと、甜と酸が引き出されます」。二金条(èr jīn tiáo/アル ジン ティァォ)という表記も。
子弾头(zǐ tán tóu/ズー タン トウ)
【日】子弾頭(しだんとう)
華やかな香りは花椒の如し
荻野シェフが今回“狙い買い”した品種のひとつ。「山椒のような香りがあり、刺激は控えめの唐辛子です。煳辣にすると素晴らしい香りが立ちますね。色が深紅なのも特徴です」
新一代(xīn yī dài/シン イー ダイ)
【日】新一代(しんいちだい)
火鍋向けのニューフェイス
「名前のとおり、唐辛子の中では比較的新顔と思われる唐辛子ですが、地域によっては100年くらい前からあったという説も。火鍋に使う唐辛子と聞いています」。
おまけ編
成都で購入したものではありませんが、「巴蜀」にある湖南唐辛子もテイスティングしました。
湖南(hú nán/フー ナン)(小サイズ)
【日】湖南(こなん)(小サイズ)
湖南(hú nán/フー ナン)(大サイズ)
【日】湖南(こなんサイズ)(大サイズ)
唐辛子を使い分け、表現したい味をつくるには?
このように、一口に唐辛子といっても、品種と加熱の仕方によって、風味も引き出される特徴も実にさまざま。では、どうしたらこれらの唐辛子を使いこなせるのでしょうか?
尋ねてみると、「切って胎座(たいざ)を露出させ、香りで止めるのか、辛さをだすのか? そして香り・辛さの強さなどをどのように表現するか? という選択を、唐辛子の品種を選んで行うのが基本的な考え方だと思います」と荻野シェフ。
また、ここでは調査しなかったものの、日本の乾燥唐辛子として流通し、中華でもよく使われる「鷹の爪」は全般的に辛味が強い、ということも覚えておきたいところです。
「例えば、鷹の爪の中でも『天鷹』は、ほどほどの辛さと唐辛子の香りがあるので、辣子鶏など、大量に使って香りを纏わせる料理に向いていると思います。切ると辛くて食べられませんが、ホールのまま大量に炒めて香りを利用するというのは、たくさん流通していて安価な『天鷹』ならではの使い方ではないでしょうか」。
他にも、スナックのようにも食べられ、食材としても使える唐辛子として(業界では)おなじみの「ピリパリ唐辛子」は「益都」という品種が原料。
こちらは長さ15cm程に育つ大ぶりの品種で、生で食べると辛味はじんわりと感じられる程度。果皮の厚さはピーマンと同等ですが、皮の表面が硬いという点で、乾燥向きの品種になります。栽培する側から見ると、また違った唐辛子の特徴が見えてきそうですね。
さて、次は待望の料理編。ここにある唐辛子の中からいくつかをピックアップして、荻野シェフに3種類の四川料理を作っていただきました。定番の料理でも、意外な唐辛子の使い方に驚くかもしれません。いったいどんな風に唐辛子を加熱・加工し、組み合わせているのでしょうか? 続きは次のページにて!
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TEXT 佐藤貴子
PHOTO 小杉勉
取材協力:三明物産株式会社、PEPPERS.JP