「よる中華」は80C(ハオチー)のFacebookページで連載している中華ディナーレポート。月曜は店舗紹介、水曜はその中から料理1点を紹介する中で(一部例外あり)、今回は料理編のリーチ数ベスト8をご紹介。この店に行ったらぜひこの料理を頼んでほしいと思える“イチ押し”が出揃いました。
※集計期間は2014年12月10日~2015年6月24日です。
渋谷区広尾「中華香彩JASMINE」の春筍のあおさ炒め 張家の肉団子(苔条春笋 外公肉圓) 1138リーチ
上海の父にオマージュを捧げた肉団子
8位は広尾の人気店より、シンプルな中華の肉団子がランクインしています。ややしっかりと揚げられた団子をかじれば、中はフッと力が抜けるように軽やか。揚げ油を一身に受け止めていた面のすぐ裏側で、ジンジンと熱くうごめく肉と脂のうまみが、口中にふわりと満ちる一品です。
そこには重さも脂っぽさもなし。しかし、脂がなければ成し得ない風味と食感がここにはあります。見た目は親指と人差し指で「OK」とキメた、その丸と同じくらいの、まるで測ったかのような美しさ。飾り気がないぶん、技術力が引き立ちます。
中国語でつけられた料理名は「外公肉圓」。外公”とは義理の父のこと。訳すると、山口さんの義理のご尊父・張氏が家庭で作っている肉団子(肉圓)という意味ですね。この表記を見ると、味わいがより一層増す気がするのは、きっと私だけではないはずです。
千代田区神田錦町「龍水楼」の三不粘
1771リーチ
皿に付かない、歯に付かない、箸に付かない、でも粘る北京名菜
7位は北京の老舗「同和居飯庄」で有名になった三不粘(店のHPによるカタカナ読みはサンプチャン)がランクインしています。
この料理、つまんでみると、まるでリアルな「ぐでたま」のよう。もしかすると「ぐでたま」は三不粘にヒントを得たのでは…?と思うくらい、まるで「ぐでたま」です。
料理名の由来は、「皿に付かない、歯に付かない、箸に付かない、だけどよく粘る、だから『三不粘』。そして宮廷料理なのに卵、砂糖、ラード、でんぷんというどこにでもある食材で作れるのが面白い」と箱守シェフ。
ハリと弾力があるようでない食感は、一度食べればその摩訶不思議さに目をぱちくりさせてしまうはず。材料を混ぜるスピード、回数、火力、でんぷんの強弱、油の質(同店ではラードを使用)など、さまざまな条件が重なってこの状態に至るそう。北京との交流を経ながら、40数年間作り続けて至ったこの一皿に、貴さを感じずにはおれません。
中央区銀座「黒猫夜 銀座店」の夏野菜とナマズの冷製トマトスープ(番茄酸凍湯鯰魚) 2066リーチ
夏にぴったり!ハーブを効かせたナマズの南方系冷製スープ
6位は全長30cm超のナマズを丸ごと煮込み、スープに氷を浮かべて提供されたダイナミックなスープがランクイン。
口に運べば、トマトの甘味や酢の酸味とともに、輪切りのライム、ミント、香菜のスッキリとした清涼感が効いていて、タイ料理等にも通じる南方系の味わい。目の覚めるような清々しい味が、熱い夏にぴったりです。
ナマズは茨城県行方市産。しっかりとした白身と、皮の内側に蓄えられたコラーゲンが持ち味で、川魚特有の土臭さは調理法のせいかあまり気になりません。
ナマズは食養生の観点からすると、滋陰養血、催乳作用に優れるとされ、中国南方では産前産後に好んで食べられる魚でもあります。女性にうれしい食材なので、こんな風に食べたら、もっと日本でも愛されそうですね。
世田谷区代沢「光春」の金砂鮃魚(ヒラメの金砂炒め)
2122リーチ
店主自ら釣った魚を、台湾式の“金沙”で堪能!
金沙というと、ほとんどの中国料理店では、香味野菜やスパイスがたっぷり入ったサクサクのパン粉をまぶした料理が出てくるかと思います。これもてっきりそういう料理かと思ってオーダー。するとまったく違った料理が出てきたじゃありませんか。
料理長に尋ねてみると、台湾料理では“金”の色合いを出すために、素材に卵黄と鹹蛋(塩漬け卵)入りの粉を絡ませるのが一般的だそう。その代表的な料理が「金沙軟絲(イカ)」や「金沙軟殼蟹(ソフトシェル)」「金沙蝦仁(小エビ)」。鹹蛋のコクと、ほんのりとした甘さがあり、風味と見た目は、広東料理でいうところの「黄金蝦」みたいな感じですね。
こうした調理法を下敷きにしつつ、実はこのヒラメ料理、客家菜の「黄金豆腐(客家風揚げ出し豆腐)」のソースにヒントを得て調味したもの。鹹蛋ベースのソースがヒラメの淡白な身にはよく合うと考え、この調理法にしたんだそうです。
口に含むと鹹蛋のコクと旨みが広がり、後からヒラメのほの甘い身をじわりと感じる。そこに野菜が食感よく入ってきて、気持ちよく食べ進む…。伝統的な料理をベースにした、見事なアレンジでした。
中央区銀座(移転前)「趙楊」の竹蓀蛋人参鲨鱼园(サメ肉団子とキヌガサタケの子実体、朝鮮人参の清湯) 2151リーチ
気仙沼産・鮫の肉団子と、四川省の衣笠茸のマリアージュ
4位は四川料理の名店「趙楊」で、「サメ」をテーマにおまかせでお願いした中の一品。
日本でふかひれとして最も愛されている鮫といえば吉切鮫(ヨシキリザメ)。どちらかというとヒレが注目されている鮫ですが、実はその身はんぺん等にも使われるほど白くてふわふわ。それをお団子にし、清湯(すましスープ)に浮かべた一品です。
「鮫って臭いんじゃないの?」という声もありますが、そこはさすが趙楊さん。技術があります。聞けば、生の豚の皮の上にサメ肉のフィレを置き、生姜と胡椒、酒が入った水をかけながら、包丁の背で叩いてミンチにしているのだとか。こうするとサメ肉が香りよく仕上がるんだそうですよ。
口に含めば確かに、サメ肉ならではの繊細な口どけ。そしてサメの香りが臭みに転じず、しっかりと素材の味として生かされています。
合わせた食材は、朝鮮人参、湯に浮かべると卵のようなクラゲのような、衣笠茸(キヌガサタケ)の子実体。あっという間にレース状に成長してしまう衣笠茸ですから、この子の方が高価になります。蜀南竹海(四川省南部の“竹の海”で、衣笠茸の名産地)と、宮城県気仙沼市の食材の素敵な取り合わせでした。
新宿区大久保「山西亭」の莜麺栲栳栳(ヨウメンカオラオラオ) 2322リーチ
まさかこの料理が日本で食べられるとは…!580円の良心的価格にもびっくり
生地を筒状にし、蜂の巣のように蒸籠に敷き詰めたビジュアルに思わず釘づけ!3位は新大久保の現地系中華の新星「山西亭」の、山西省名物です。
日本では見慣れない漢字の料理名を分解すると、莜麦(ハダカエンバク)を、栲(コウゾ ※紙の原料となる樹木)で作った栳栳(蜂の巣のように編まれた、穀物を入れるカゴ)のような麺にした…という意味。
莜麦はオートミールの原料(燕麦)の仲間。『中国食物事典』によると、莜麦の方が皮がむきやすいんだそうです。
風味はほのかに蕎麦のようで、噛むと穀物独特の甘みがじわり。莜麦は細かく挽かれていて、食感は思いのほか滑らかです。トマトだれと黒酢だれの両方で味わえますが、まずは何もつけずに食べてみましょう。蒸したての麺の素朴な味わいが、心を山西省に誘ってくれます。
■こちらもご一緒に>旅中華2014(山西省編)
千代田区神田須田町「神田 雲林」の富貴鶏
2739リーチ
叩いて割って、酒をかけて燃やして…!宴会で盛り上がる丸鶏ご馳走料理
2位は杭州名菜・富貴鶏。乞食鶏(叫化鶏)とも呼ばれるこれは、丸鶏に詰め物をして蓮の葉で包み、さらに泥で固めて窯で焼き上げた華のある料理です。
テーブルに泥の塊が出てくるだけでもわくわくしますが、固めた泥を木槌で叩き、白酒(度数の強い蒸留酒)をかけて燃やし、蓮の香を引き立たせるなど、エンターテイメント感もあるのが楽しいですね。
鶏は、ともかく香りがいいことにびっくり。その芳香は、鶏の香りはもちろん、ほのかに熟成されたような、森のような、ここに至るまでに溶け込んだすべてのエキスを湛えているよう。肉質はほどけるように軟らかく、蒸し焼きで抽出された汁には、鶏のエキスと脂が満ち満ちています。
「富貴鶏はパサパサのものも多いと感じますが、『雲林』では鶏から出たエキスを逃がさずにしっとり仕上げること、蓮の葉の香りを十分に鶏肉に付けること、身質は柔らかく美味しいなどに気を付けて作っています」と成毛シェフ。
リピーターも多いそうで、これは私もリピーターになってしまいそう。金額は1羽8,500円で4~6名向け。忘年会、誕生会、壮行会など、これはという会にぜひオーダーしていただきたい一品です!
中央区銀座「赤坂璃宮 銀座店」の漢方燉馬鞭(薬膳蒸しスープ) 3420リーチ
まさかの馬鞭!飲めば100万馬力のすごいやつ
そして1位は、広東料理の名手が揃う「赤坂璃宮 銀座店」の馬鞭の燉湯(ドンタン:蒸しスープ)でした!
広東料理店で気になるものといえば燉湯(ドンタン:蒸しスープ)。日式中華でスープというと、炒飯のおまけでついてくるような存在感ですが、こちらは円卓の華。何時間も煮込んで食材のエキスが満ちた、贅沢な成分をいただきます。
日本語では「薬膳蒸しスープ」とありますが、中身はすごい。植物由来が北芪(黄耆:オウギ)、當参(にんじんの一種の根)、龍眼肉(龍眼の実)。動物以来は鹿茸(雄鹿の幼角)に、熊本からやってきたという馬鞭…!ば、ば、ばべんですよ奥さん!
スープは塩を入れない状態で提供されますが、まずはそのまま、食材の風味が口中で甘くふくよかに広がる感覚を楽しみます。続いて塩を入れると輪郭がキュッと引き締まり、身体にスッと吸い込まれるような感覚に。
さらにここではそれぞれの具を取り出し、オリジナルの醤油だれでトライ。スープを飲むと口角がペタッとする感覚がありましたが、取り出した馬鞭をいただくと、なるほどこいつがこれだけの威力を放っていたのかと…。表面はふよっとしたコラーゲンの塊で、中に軽く芯がある感じ。五感に刻まれ、脳裏に焼き付く体験がここに!
よる中華ランキング料理編、いかがでしたでしょうか。
今回は2軒を除き、すべておまかせコースで出していただいたものですが、広東料理店であれば蒸しスープ、山西料理店なら麺料理と、各地方の特徴が表れている料理がやはり印象的でした。
ひと口に中華といっても、どの地方の料理か、もしくはどんな傾向の料理を出しているのかはさまざまですので、その店らしさが表れた料理を選ぶことが高い満足感へと繋がります。
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「ひる中華」は、80Cスタッフがランチに食べた中華料理を、Facebookで連日レポートしています。おひる前のお腹が空きそうな時間に更新していますので、中華画像を見ながら、食べたい中華・好みの中華を見つけていただけたら幸いです。みなさまも、どうかお近くにある気になる中華料理店のランチがあったら、ぜひ編集部までお寄せくださいね。
Photo & Text 佐藤貴子