一挙紹介!最終審査で審査員を唸らせたコース料理全10品。すべての料理を解説します!

一挙紹介!井上さんの最終審査の料理とは?

最終審査で、8皿10品という断トツ多いフルコースを最後に提供し、審査員を「店に1万円払って食べに行きたい」と言わせた井上さんのコース料理。

それはいったいどんな料理だったのでしょう。読みながら料理の味わいをイメージすると、食べたくなること必至です!

審査風景

―最終審査では、どんなお料理を出されたのでしょうか。

井上 今回は、中国料理として素材を活かすことをテーマにコースを考えました。また、前半4品は店で出したことのない僕の料理、後半4品は普段店でもお出ししている料理にしています。あとはオーソドックスに一皿ドンと置いて、熱々を召し上がっていだだこうと。

最終審査コースメニュー最終審査のコースメニュー。タイトルは「原点回帰~活かす中国料理~」

開胃菜-蕪の漬けもの

蕪の漬けもの

一品目はアペタイザーで、蕪の醤油漬けです。ゲストが部屋に入った瞬間、その香りを十分に楽しんでもらおうと、中央に大きいな赤い鉢を置き、ごま油をあしらって、小蕪を丸ごと漬けて立て、収穫のイメージで盛り付けました。それを僕が切り分けてサーブするところからスタートです。

この料理は、醤蘿蔔(ジャンロウボウ)という大根の漬物の作り方がベースになっています。でも、よくある醤蘿蔔と違って甘酸っぱいんですよ。上海で食べて衝撃を受け「ええっ!?」と思って、どうしても教えてほしくて、現地で教わった思い出の料理でもあります。

前菜-秋田の旨みを盛り込んだオードブル

ハタハタの瞬間蒸し

ハタハタの瞬間蒸し(写真手前)

前菜は僕の地元、秋田県の食材を使った料理の盛り合わせ。1品はハタハタの瞬間蒸しです。

中国料理で蒸し魚というと、熱した油を葱やエシャロット、唐辛子の上にジュッっとかけ、塩や醤油、シーズニングソースなど甘めのたれを合わせるのが定番ですが、食材がハタハタなので、しょっつると葱オイルを使いました。生のハタハタにしょっつるを塗り、2分くらいさっと蒸して葱オイルと組み合わせています。

比内地鶏の蒸しもの・秋田牛の味噌漬け(奥2品)

続いては秋田の比内地鶏を使った蒸しもの。ソースには花椒の香りを効かせています。そしてもう1品は、昨年僕がRED U-35で応募した料理、秋田牛の味噌漬けです。甜麺醤、豆板醤、ひしほ味噌をブレンドした味噌を牛肉に漬け込み、クリームチーズを巻いています。

実はこれ、昨年のREDの二次審査の後、脇屋さんが食べに来てくれて、おいしいねって褒めてくれたんです。自分としても自信があったので、「皆さん、昨年はお召し上がりにいらっしゃいませんでしたよね。今日はどうしても食べていただきたくてお出しました」と言ってしまいました。

付け合わせは、まこも茸と三関芹、老壇子(ラオファンズ:四川省の漬けもの)。中国料理でよく使われているまこも茸は水耕栽培で、秋田でよく収穫されているんですよ。三関芹は根に特徴があるので、根だけを巻いています。

湯-極細切り豆腐のスーラー煮込み

文思豆腐

3皿目は文思豆腐(ウェンスードウフ)です。この料理は揚州発祥ですが、北京の「全聚徳(ゼンシュトク)」で2週間研修させていただいた時に教わりました。

(在籍している)四川飯店グループは、包丁の技術が昔からすごいと言われていて、そういうところを求めてくるお客さんもいらっしゃいます。豆腐を菊の花のように切る料理同様、文思豆腐も包丁の技術が出るもの。そこに四川のエッセンスを入れ、酸辣風味のスープに仕立てました。

海鮮-葱の旨みを凝縮したナマコ料理

葱焼海参

続いてはナマコの料理、葱焼海参(ツォンシャオハイシェン)。北京の名店「大董(ダードン)」の一番大きな店に食べに行ったときに、この料理に感動しました。まるまる1本皿に盛りつけられていて、ナイフとフォークでいただくナマコです。

それまで食べてきたナマコ料理には、どこか海の苦味を感じていたんですが、ここの料理には全くそれがない。そして葱も見当たらない。食べると、タレに葱の風味が凝縮されていて、片栗粉を使わずに煮詰められていたのも印象に残りました。

これをどうにか再現できないかとお願いしたら、自分たちが泊まっているホテルで勉強した人がこのナマコを作っているといいます。そこで頼み込んで教えてもらった思い出の料理を再現してみました。

添えているのは、椒麻(ジャオマー:花椒と葱を刻んだ調味料)にマヨネーズとミルクを加えたソースをかけた、山芋ときゅうりのサラダ。脇屋さんが褒めてくれたのが僕の中で嬉しくて、この時点で「もういいや」っていう気持ちになってしまったくらいです(笑)。

肉-豚肉・車エビ・イカと旬の味覚の唐辛子炒め

豚肉・車エビ・イカと旬の味覚の唐辛子炒め

後半は店でもお出している料理で、まずは宮保(ゴンバオ)。エビ、イカ、豚肉に、秋ならではの舞茸、栗、銀杏を合わせました。

中華では、炒めものにするにも、生ものの下処理はそれぞれ異なります。エビは開いてちょっと醤油をまぶして素揚げ、イカは花切りにしてやさしく油通しをし、豚肉は、よく菰田もやる手法ですが、余計な調味料を使わず、グリルして肉の香りをしっかり出しています。その下ごしらえをポイントにしました。

しかし、これは審査員からカットが大きすぎるという指摘がありました。ひと口で食べられた方がいいんじゃないかと。他の料理とのバランスもあったでしょうね。

野菜-干し貝柱と白菜の柔らか煮

干し貝柱と白菜の柔らか煮

豆腐・飯-鱈の白子を使ったマーボー御膳

鱈の白子を使ったマーボー御膳

甜品-洋梨のソルベをのせた杏仁豆腐

洋梨のソルベをのせた杏仁豆腐
そして、辛い料理の後はほっとしていただこうと、干し貝柱と白菜の煮込み。最後は白子の麻婆豆腐とごはん。デザートには杏仁の種子から抽出して作った杏仁豆腐に、梨のソルベを添えました。

インタビューを終えて

普段は副料理長として勤務していることから、井上さんの料理やキャラクターはあまり表に出ることはありませんでしたが、お話を伺ううちに、柔和な中にもハングリー精神のある、粘り強い方だということが伝わってきました。

実は井上さん、今年の5月には日本中国料理協会の料理大会にて金賞を獲得。そして8月には、郷里秋田の「巨大スイカの重量当てコンテスト」で、小数点1桁まで当ててしまったというから凄い。この流れに乗って、2017年はRED EGGから羽ばたく酉年の年男として、ますます“持っている男”となってほしいですね。

また、料理業界から注目されるRED U-35において、昨年に続き、2年連続で中国料理人が優勝したことで、「もしかして、日本の若手中国料理人は実力派揃いかも?」と思われた方もいらっしゃるはず。ええ、日本の中華のレベルは高いと思いますよ。

ですから、普段中華をあまり召し上がらない方、目が向かなかった方こそ、ぜひ若手が活躍する店に足を運んでいただきたいと思います。まずは今後開催されるかもしれない、スーツァンレストラン陳の「井上祝勝フェア」に期待したいですね!

井上和豊さん


TEXT 佐藤貴子
PHOTO RED U-35 オフィシャルフォト