夏の盛りに旬を迎えるとうもろこし。日本ではトウモロコシの調理法を検索すると、真っ先にゆで方が出てくる。かたや中国料理は、炒めたり煮たり焼いたり蒸したり、あらゆる調理法で楽しまれている印象がある。

なかでも蒸し暑い時期におすすめしたいのがトウモロコシとレンコンとスペアリブのスープ(玉米排骨蓮藕湯|玉米排骨莲藕汤)だ。その理由は三伏(さんぷく)にある。

三伏とは陰陽五行説における季節の捉え方で、夏至から立秋にかけて、一年で最も酷暑となる頃をいう(2024年は7月15日~8月14日)。日本でも古くは時候の挨拶、俳句の季語にもなっているので、耳にしたことがある方もいるだろう。

暑さが極まり、湿度は高くなるこの時季は、身体に熱や湿気がたまりやすく、胃腸が弱りやすい。一方、冷房にばかり当たっていると身体は芯から冷える。うっかり風邪をひいてしまうのは、まさにこんな時である。ゆえに、三伏の期間は胃腸をいたわり、冷やしたものではなく、暑気払いをする食品を選ぶのが正解なのだ。

また、中華圏では「三伏天少喝冷飲(三伏の間は冷たいものを控える)」「冬病夏治(夏の間に冬に現れやすい病気を治療する≒冬に病気になりにくい身体をつくる)」と言われ、この時季は胃腸を疲れさせないよう、食生活に気を遣う人は少なくない。

そこで、体内の水分バランスを調整し、消化器官を整えるトウモロコシとレンコンとスペアリブのスープ(玉米排骨蓮藕湯)の出番である。

元気の源は胃腸から。消化器を健やかに保ち、むくみを防ぐスープを解剖!

トウモロコシ(玉米)は、東洋医学において、主に健脾(けんぴ)、利水(りすい)の効果がある。すなわち消化器(脾)を健やかにし、水分代謝を正常化。食欲不振や胃腸の不調、むくみによい。

そこに合わせるレンコン(蓮藕)は、加熱すると健脾開胃(けんぴかいい)、益血(えきけつ)の働きがある。トウモロコシ同様に消化器を健やかにし、食欲を増し、血を補う。

実は、この2種類の食材に豚のスペアリブ(排骨)を加えたスープは、中国の家庭料理としてよく見るもの。スペアリブというとBBQのイメージがあるかもしれないが、骨付き肉は出汁をとるにはうってつけ。この3種類の食材に、胃を養生する人参や、落花生を加えたバージョンもある。

トウモロコシは煮て甘さが抜けてしまうかと思いきやそうではない。煮る時間にもよるが、甘みや食感はしっかり残り、汁物ならではの魅力を実感できる。

なにより嬉しいのはただ煮るだけ、刀工技術も巧みな火加減もいらないこと。それではいってみよう。

トウモロコシとレンコンとスペアリブのスープ(玉米排骨蓮藕湯)のレシピ

[材料]※大きめの碗に4杯分
・トウモロコシ 1本(270g)
・蓮根 1節(200g)
・豚スペアリブ(400g)
・水 1,200cc(1,000~1,500ccくらいで調整)
※トウモロコシと蓮根の重量は目安です。多少増減しても問題ありません。

・生姜 3~4片(薄切り)
・酒 大さじ1弱
・葱 5cmくらい(なくてもよい)
・大棗(ナツメ)2個(なくてもよい)

・塩(食べるときに別添)

ポイント
・スペアリブは熱湯で軽くゆでて血の汚れを出し、臭みを取る
・具も食べるので煮すぎない。30~45分が目安
・蓮根が変色するので鉄鍋は避ける
・塩は食べるときに碗に加えて調整する

作り方

[1]豚スペアリブを水で洗い、表面や骨の周りについた血を取り去る。

スペアリブをよく見ると、ところどころ血の塊がついていることがある。そこでこれらをあらかじめ取り除き、スープに生臭みがでないようにする。

やり方は、水を張ったボウルに肉を入れ、赤く見える血の塊を洗って取り除くだけ。中国の場合、肉を長時間水に浸しておくことも多い。

[2]水に生姜、葱、酒、豚スペアリブを入れて強火で煮沸し、アクと汚れを出す。

中国料理において、生姜+葱+酒は、肉などの臭みを抜く三種の神器だ。これらを入れた水に豚肉を入れ、強火で煮沸する。

すると、ぶわーっと沸き上がるアクとともに、肉の間に詰まった血が小さな塊になって出てくる。2分ほど加熱したらだいたい収まるので、水で肉を洗い流す。これで肉の下ごしらえは完了だ。

このプロセスの目的は、骨付近や肉に入り込んだ血や汚れを取り除くことなので、手近に薬味がなければ、湯でゆでるだけでもいい。ここで使った葱や生姜は、この後スープに入れて再利用できる。

[3]トウモロコシと蓮根を輪切りにする。

煮る時間と食べごたえとのバランスを考え、それぞれ気持ち厚めにカットする。トウモロコシは2~2.5cm、蓮根は1~1.5cmが目安だ。蓮根の皮は面倒ならむかなくてもよい(ここではむいていない)。

[4]鍋に3種類の材料、水、生姜の薄切りを入れ、蓋をして中火で約30分間煮る。
写真の鍋はHARIOの「フタがガラスのご飯釜」。そこに別の蓋をあてて土鍋として使った。鉄鍋を使うと蓮根の色が悪くなるのでやめておう。

鍋に豚スペアリブ、トウモロコシと蓮根を重ね、水を注ぎ、沸騰するまで強火にする。材料から味を抽出したい場合は「水から煮る」と覚えておこう。

沸騰したら、常時小さな泡が出る状態に火加減を調整し(中火が目安)約30分間煮る。あれば、好みでナツメを入れると、スープに特有の甘みが加わり、コクが生まれる。

ちなみに、広東省や香港などで食されている煲湯(炊き込みスープ)は、とろ火でしっかり炊いて食材の風味を抜き切る。しかし、ここでは食べるスープを目指しているので、煮すぎると食材から完全に味が抜けてしまう。ゆえに、この分量なら短くて中火で30分、長くて45分くらいがちょうどいい。40分以上煮ると、骨から肉が外れるくらい軟らかくなる。それでは蓋を開けてみよう。

スープは想像以上に透明感があり、ひと口飲むとクリアで軽く、しっかりとしたうまみがある。続いてトウモロコシをガブリといけば、甘みがしっかり残り、食感が小気味いい。蓮根はきめ細やかな密度を保ちながらねっちりほっくり。実に噛み心地がいい。

なによりスペアリブのスープは、意外にも鶏ほど主張が強くなく、食材の風味を引き立てる。この味と煮加減が確認できたら、スープを盛り付け、器に塩をぱらりと落として塩味を調整しよう。

ここにあるのは、あらかじめしょっぱくするのではなく、食材の味や栄養を抽出した汁に食べやすい味をつける、という考え方。まずそのままを口にすることで、なんと素材の風味豊かなこと!と思ってもらえたらなにより。塩分を控えた食事をしている方にもおすすめできる食べ方だ。

最後にスペアリブだが、煮込んでも肉のうま味もしっかり残っている状態で、油っぽさは抜け、食べごたえのある肉塊へと変☆身!している。これに豆板醤やコチュジャンなど、ちょっと辛みのある調味料をつけて食べると抜群にうまい。山椒醤油なども合いそうなので、お好みでどうぞ。

なお、あれば干し貝柱を1~2粒放り込んで、翌日また炊き直して食べると、前出の煲湯(炊き込みスープ)に近い雰囲気になる。すなわち、スープは濃くなるが、食材の味は抜ける。これはこれでまた味わい深い。

翌日に温め直して食べたトウモロコシと蓮根とスペアリブのスープ。スープの色は濃くなり、トウモロコシの甘みがさらに出て甘みが増す。

3種類の素材からシンプルにとったスープは、驚くほどクリアで奥行きのある味わいがある。それとともに「食べるスープ」としても優秀なこの一杯、筆者は湿気の多い季節にむくみやすい体質ということもあり、季節になるとこのスープで身体をととのえている。

気に入っていただけたら、日々の味噌汁感覚で、夏から秋の食事に取り入れていただければ幸いだ。


RECIPE・TEXT・PHOTO サトタカ(佐藤貴子)