日本で粽と柏餅を食べる日といえば5月5日。端午の節句にあたるこの日は「こどもの日」として祝日になっています。一方、台湾は旧暦の5月5日が端午節。2024年は6月10日で祝日となり、やはり粽を食べる習慣があります

そんな端午節に欠かせない台湾では、日本以上にいろんな種類の粽が食べられています。

北と南でこんなに違う!台湾粽は「南煮北蒸」「南清北重」

粽について台湾人に質問すると、必ずといっていいほど出てくるのが「南煮北蒸」「南清北重」という2つの言葉です。これは、北部の粽と南部の粽で、作り方と味付けが異なるということ。

北部粽(ほくぶちまき|ベイブーゾン|běibùzòng)は、炒めて味付けしたもち米を笹の葉や竹の皮で包み、蒸して加熱します(熟飯蒸煮)。味付けは濃いめで、もち米は粒粒感がしっかり。具はほとんど調理済みのものを包むので、比較的包みやすいのも特徴です。

「阿Q麺館」のちまき。photo by 阿Q麺館

一方、南部粽(なんぶちまき|ナンブーゾン|nánbùzòng)は生のもち米を包み、長時間煮て加熱します(生米水煮)。味付けはあっさりめで、もち米の食感はモチモチ。ただし生米を包むことから、さっさと包まないと米粒がパラパラと落ちてしまう難しさがあります。作ってみたことがある方なら、南部粽の最大の特徴は、きっと「生米包み」だと感じるでしょうね。

南部粽は味付けしたパラパラの生米と具を包むスタイル。写真は台南で包んだもの。photo by kimachi

具材は、味付けした豚肉(滷肉)、干しシイタケ、筍、栗、干しエビ、落花生、エシャロット(紅蔥頭)、アヒルの塩漬け卵の黄身(鹹蛋黄)など。お店や作る人によりますが、南部粽のほうが、総じて豪華な印象があるようです。

また、台湾では粽に醤油膏(甘い醤油だれ)、海山醬、甜辣醤(台湾のスイートチリソース)、落花生の粉などをかけて食べる習慣があります。大陸では福建省の一部の地域を除いて、そのまま食べることがほとんどなので、台湾ならではの特徴といえますね。

ルーツ、食材、おふくろの○○系…台湾粽を名前で読み解く

さらに、南北の違いに留まらないのが台湾粽の奥深いところ。どんな粽があるかというと…

①地名がわかる粽

まずひとつが、地域名を冠した粽です。代表的なものが、湖州粽(こしゅうちまき|フージョウゾン|húzhōuzòng)や廣東粽(かんとんちまき|グウァンドンゾン|guǎngdōngzòng※廣式粽とも)。

湖州粽はその名の通り、中国大陸東方の浙江省湖州にルーツのある粽で、ちょっと細長い三角錐のような形が特徴。醤油味で肉がたっぷり入っています。

廣東粽は中国大陸南方の広東省から伝わったもので、お店や種類にもよりますが、叉焼や鮑、干貝などかなり豪華な具が入るのが特徴。さらに地域が細分化された、広東省潮州からの潮州粽もあります。

前出の北部粽や南部粽は台湾における位置を示していますが、これらは福建省から伝わったものと思われます。

都内の湖州料理「帆」の湖州粽。

②属性がわかる粽

属性を冠しているのが外省粽客家粽です。外省粽は、先ほどご紹介した湖州粽を指すことが多いですね。なぜ外省と呼ばれるかというと、1945年以降台湾に渡ってきた湖州出身者、つまり外省人から広まったからです。

また、台湾には客家も多く住んでいるので、客家粽もあります。これにはいくつかの種類があり、その一種である客家粿粽(クージャーグゥオゾン|kèjiāguǒ zòng)は、もち米を粉状にし、水で溶いてモチモチの皮を作り、具材を包んで蒸したもの。客家粄粽(クージャーバンゾン|kèjiābǎnzòng)とも呼ばれ、親しまれています。

「ハッピー夢工房」の客家粿粽。

③素材や具の特徴がわかる粽

料理のように素材がわかる粽もあります。例えば、素粽(素食=動物性素材を使わない粽)、菜粽(台南の落花生だけが入る粽)などです。甘い粽は、豆沙粽(小豆餡)棗泥粽(ナツメ餡)芋泥粽(タロイモ餡)など、餡の名前を冠することが多いですね。

「ハッピー夢工房」の手工紫米桂圓芋泥粽(干し竜眼とタロイモ餡入り手作り赤米粽)。

また、鹼粽(台湾語 kiⁿ-chàng(キィザン)台湾客家語 giˊ zung)は、もち米を灰汁に浸してから包んで蒸したもので、日本の九州の「あくまき」、山形県の「笹巻き」に似た、プルンとした食感が特徴。特に台湾南部や客家でよく作られる粽です。

鹼粽の「鹼」はアルカリの意味なので、製法もあくまきと煮ていますね。食べるときは、はちみつや砂糖をかけていただきます。

鹼粽は、はちみつや砂糖をつけて食べます。photo by mari asai

③台湾語で呼ばれ、歌い継がれる粽

素材がわかる粽のなかでも、肉粽は豚肉入りの粽、燒肉粽は豚肉が入ったアツアツの粽を指します(焼肉(やきにく)が入った粽ではないのでご注意を)。

これは昔々、できたてのアツアツの粽を籠に入れ、肩に担いで「Sio Bah-chàng(シゥバーツァン)!」と呼びかけながら売り歩いた言葉の名残。他の粽は中国語で呼ばれることが多くても、燒肉粽は今も台湾語の発音で呼ばれています

台南「再發號」の肉粽。醤油だれがかかっています。photo by Takako Sato

「燒」は調理用語で「煮る」という意味があり、台湾で「燒仙草」というとアツアツに煮た仙草を指すので、これもまた「燒」の同じような使い方ではないかと思われます。

また、燒肉粽はテレサ・テン(鄧麗君)が歌う『賣肉粽』や、ジェイ・チョウ(周杰倫)作詞作曲の『療傷燒肉粽』など、歌になっているものもあります。

食べ物がタイトルに入る歌は意外とあるのですが、粽もあるのは楽しいですね。ぜひ歌の動画を観て、「燒肉粽(Sio Bah-chàng:シゥバーツァン)」の響きを聴いてみてください。

⑤おふくろの味・無印粽

台湾では「阿婆+料理名」という店名をよく見ます。例えば「阿婆肉粽(アーポーロウゾン|āpóròuzòng)は直訳すると「おばあちゃんの粽」。

おばあちゃんや年長の女性が作った粽ということになりますが、日本の感覚でいうと「おふくろの粽」「俺の粽」といったところでしょうか。市場の隅っこでこぢんまりと粽を作って売っていたら、いつの間にか評判になり、とうとう店舗を構えるまでに…!といったパターンです。

「街角饅頭店 吉祥天」の台湾料理教室で作った阿婆肉粽。蒸したてのつやつや!

似たようなものに「無名〇〇」もよく見ますね。読んで字の通りですが、その背景には、名前はなくとも味に自信があるということでしょう。

このように多彩な粽が楽しめる台湾ですが、昨今は日本でも想像以上にいろんな台湾粽を買えるようになっています。次のページでは、日本で手に入る台湾の粽をご紹介しましょう。

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