中華の秋冬の風物詩といえば上海蟹。中国には「菊黄蟹肥(菊の花が咲くころ、蟹が太って食べごろになる)」という言葉があり、10月半ばから冬にかけて最盛期を迎えます。
嬉しいことに今年は豊漁。そのためか、例年よりも上海蟹をウリにする店がやや多いような気もします。そこで80C(ハオチー)では、今一度〈上海蟹の基礎知識〉をお伝えするとともに、気になる蟹の安全性を輸入業者さんにヒアリング。都内23区で上海蟹が食べられるお店もご紹介します。
上海蟹の味わい方と雌・雄の違い
上海蟹の魅力は、なんといっても濃厚な味噌にあります。代表的な食べ方は、蟹を生きたまま丸ごと蒸した「蒸し蟹(姿蒸し)」や、紹興酒漬けにした「酔蟹(通称:酔っ払い蟹)」。
さらに黄色い味噌をたっぷり練り込んだ上海蟹味噌小籠包、ふかひれの上海蟹ソース煮込み、蟹味噌で煮込んだ豆腐、上海蟹味噌入りふかひれスープ、上海蟹肉と蟹味噌を和えた麺など、この季節は様々な料理でそのおいしさが楽しめます。
また、雌蟹と雄蟹では味わいに違いも。雌は濃厚でねっとりとした卵、雄は雌と比較すると身体が大きく身が詰まり、滑らかでとろりとした白子が持ち味。
どちらかというと、蒸し蟹は雄が人気で、店によっては雌雄や大きさを選べるところもあります。また、雌は卵のねっとりとした濃厚さを活かすべく、酔蟹にされることが多いです。
【写真説明】濃厚なコクと香りを持つ上海蟹料理。写真はふかひれの上海蟹ソース煮込み(左上)、酔蟹(上海蟹の紹興酒漬け)(右上)、蟹肉団子と白菜の煮込みスープ(左下)、上海蟹味噌入り小籠包(右下)
上海蟹、その安全性は?
とはいえこのご時世、気になるのがその安全性です。2012年、ある1社が輸入した上海蟹から抗生物質が検出されたことを受け、すべての上海蟹の輸入が滞ってしまったことがありました。
そこで80C(ハオチー)のサイトオーナーである株式会社中華・高橋が、長年上海蟹を仕入れている輸入業者さんに確認してみると、「弊社で輸入している上海蟹は、巷で心配されているような成長ホルモンは投与しておらず、輸入以来、抗生物質も検出されていません」とのこと。
「現在はその影響からか、上海蟹の検疫は同じ食品でも乾物等に比べると頻度が高く、現在は5~6回に1回の割合で輸入時に検査が実施されています。検査項目は抗生物質、抗菌剤、農薬ですね。日本の検疫は厳しいということもあり、実のところ、中国国内で消費されるものより、全般的に品質のいいものが送られてきているんです」
ちなみに、扱いのある蟹の水揚げは上海周辺の「江蘇省、浙江省、安徽省が中心で、一番のブランドは独自のタグが付けられる陽澄湖産」。
しかし、それ以外のエリアだからといって品質が劣るわけではありません。言ってみれば、日本で水揚げされるズワイガニがブランド化され、価格が高くなってしまうのと似たような話。つまりおいしい上海蟹は、前々からおいしい蟹を確保している信用ある業者さんとの取引によって、安定的かつ適正価格で提供されているのです。
大漁!2014年の上海蟹
さて、気になる今年の上海蟹ですが、天候が安定していたことから大豊漁!。10月上旬に発売された香港の人気グルメ雑誌でも、こぞって上海蟹を特集している模様。
上記写真左の『飲食男女』によると、今年は江蘇省一帯の天気が安定しており、水温は8~10度で上海蟹の成長にベストな条件が揃っていたことがその理由と分析。また、同時期発売された『新假期』(写真右)によると、価格はここ10年間で最も安く、20%収穫が増え、10~15%値下がりしているそう。
さらに「中国では贅沢禁止令で高額接待が減少していることもあり、いいものが例年より下がっているんですよ」と話すのは前出の輸入業者さん。その流れを受けて、日本で輸入している蟹も全般的に、例年よりやや廉価に提供されている模様。
中国には、蟹の食べごろを表すのに「九月圓臍十月尖(9月には腹が丸い雌蟹、10月は腹の尖った雄蟹が美味)」という言葉があり、今の暦で10~11月を表します。特に10月下旬から11月にかけては、雌は味噌と卵、雄の身体もしっかり大きく育ってきますので、両方楽しむにはまさに今がベスト!
日本では、店によって9月~2月くらいまで提供されていますが、出盛りは12月ごろまでとなります。一方で、人によっては年明けの方がおいしいという説も…! ともあれここ10年で一番の大漁という今期、秋冬の中華宴会には上海蟹をお忘れなく!
東京23区で上海蟹が食べられる店(順不同)
A.神田 雲林(小川町~淡路町)
上海蟹コース8200円は「5年の甕紹興酒で漬けた酔っ払い上海蟹」と「陽澄湖産活き大上海蟹の姿蒸し」入り。11000円のコースは8200円のコースの2品+フカヒレの姿の上海蟹味噌煮込みが!
B.新世界菜館(神保町)
ご存じ上海蟹の有名店。酔蟹、蒸し蟹、上海蟹味噌入りふかひれスープはこの季節の定番。 満席の場合は、同じ神保町エリアで姉妹店の「上海朝市(MAP C)」または「咸亨酒店(MAP D)」へ。
E.Wakiya 一笑美茶樓(赤坂)
10月27日、28日の「食材研究会」は毎年恒例の上海蟹。脇屋シェフが登場し、めくるめく上海蟹料理の世界に引き込んでくれる贅沢な空間です。姉妹店のTurandot臥龍居(がりゅうきょ)は上海蟹コース13000円。アラカルトでは酔蟹、蒸し蟹に加え「上海蟹のミソと豆腐の煮込み」「上海蟹小龍包」「上海蟹のあんかけ炒飯」を提供中。
中国飯店グループ(F.六本木、G.三田、H.市ヶ谷各店、I.富麗華)
六本木店では上海蟹コースは10000円~34000円まで6種類。違いは料理の内容と蟹の大きさで、どのコースにも名物の上海蟹と北京ダック付き。蒸し蟹はサービススタッフが殻をむいてくれますので、接待にもおすすめです。各店でコース内容と価格は変わりますのでご留意を。
J.海鮮名菜 香宮(しゃんぐう)(西麻布 星条旗通り)
上海蟹コース18000円。姿蒸し、フカヒレ蟹味噌あんかけ、白菜蟹味噌煮込み、酔っぱらい蟹、蟹味噌煮込みソバなど上海蟹尽くしの贅沢なコースで提供。
K.中華香彩 JASMINE(広尾~恵比寿)
陽澄湖産。上海蟹入りコース「金秋菊」8500円は「酔っ払い蟹」「上海蟹みそとフカヒレ 上海風濃厚白湯スープ」「上海蟹みそ入り手包みショーロンポー」「陽澄湖産上海蟹の姿蒸し」と盛りだくさん。プラス2000円でスープをふかひれ姿煮に変更も。12月下旬まで提供、前日までに予約を。
L.光春(池ノ上駅前)
上海蟹コース4700円(2名~)。名物「上海蟹の炒め物」は2名で1杯、3~4名で2杯を調理します。
M.麻布長江 香福筵(こうふくえん)(西麻布交差点そば)
スタンダードコース10000円では8年物紹興酒に漬けた酔蟹、姿蒸し、ほぐしフカヒレ・上海蟹味噌煮込みおこげ添えを提供。オス・メス食べ比べコース18000円は8年物紹興酒に漬けた酔蟹、姿蒸し雄・雌各1杯ずつ、ふかひれ姿の上海蟹味噌煮込みを含む贅沢なコース。12月下旬までの提供です。
N.胡桃茶家(中目黒~池尻大橋)
上海蟹コースは11月8日までがメス、それ以降はオスを使用。料理は蒸し蟹や、「蟹肉入り黒豚団子とわーわー菜の蟹味噌ソース」など。酔蟹は漬け込みに時間を要するため、有無の確認または1週間前までの予約を。
O.礼華 青鸞居(らいか せいらんきょ)(青山一丁目)
陽澄湖産。コースは12000円で、酔蟹、上海蟹入り肉団子の蒸しスープ、蒸し蟹、上海蟹入り坦々麺入り。11月中旬から雄が入荷し、雌と雄を食べ比べできる「ダブル上海蟹コース」あり。 青山店では蒸し蟹を食べやすくほぐして提供。接待にもおすすめです。
P.礼華(新宿御苑)
コースは10000円で酔蟹、蒸し蟹、上海蟹のあんかけ焼きそば入り。ご要望があれば、蒸し蟹をほぐすサービスもできます。
Q.中国料理 古月 新宿(新宿御苑)
メスは卵の食味を活かすために酔蟹で、オスは蒸し蟹で提供。酔蟹の漬け地は塩味ベースで、オリジナルブレンドの香辛料・香味野菜等を加えてじっくり寝かせた馥郁たる味わいです。
R.シェフス(新宿御苑)
酔蟹、蒸し蟹はもちろん、焼売、デミタスカップで提供されるスープなど充実のラインアップ。 中でも「上海蟹味噌担々麺」はたっぷりの蟹味噌がかかった名物料理。見た目のインパクトも十分。
S.中国酒家 辰春(中目黒)
蒸し蟹、老酒漬け、コース料理を提供しています。
T.赤坂四川飯店(永田町)
酔蟹、蒸し蟹に加えて「上海蟹のあんかけ炒飯」「上海蟹の旨味たっぷりフカヒレ煮込み」を提供しています。
U.溜池山王 聘珍樓(溜池山王)
陽澄湖産。蒸し蟹は1杯3672円。
※V.日比谷 聘珍樓、W.池袋サンシャイン 聘珍樓、X.吉祥寺 聘珍樓の各店で上海蟹肉と豆腐の煮込み、上海蟹肉入りフカヒレスープ、上海蟹のショウロンポウなどのオリジナルメニューを提供しています。
Y.新橋亭新館(新橋)
上海蟹コースは9000円では酔蟹、金糸ふかひれと上海蟹味噌煮込み、陽澄湖産の蒸し蟹入り。12000円で酔蟹、陽澄湖産の蒸し蟹、タラバ蟹と鮑、絹笠茸と上海蟹味噌煮込み入り。蒸し蟹はサービススタッフが殻をむいてくれます。
Z.東京チャイニーズ 一凛(新富町)
酔蟹、蒸し蟹、上海蟹の和え麺などを提しています。事前に予約を。
ご紹介している店はごく一部です。また、上海蟹は生きている蟹を使いますので、食事の際は店に有無をご確認の上、予約されることをおすすめします。
業務用のご注文は中華・高橋へ
例年5kg~の取り扱いでしたが、今年は2kg~ご注文を承ります。詳しくはお電話にてお問い合わせください。(TEL 03-3820-0030)
【合わせて読みたい】待ってました!上海蟹2015 気になる2015年蟹市況は…?実は雄蟹がねらい目という説も!
参考資料
『新假期』ISSUE786〈大閘蟹・大豐收〉
『飲食男女』ISSUE NO.1001〈今秋必讀 大閘蟹攻略〉
TEXT 佐藤貴子(ことばデザイン)