活鯉を注文後に肉厚にカット。熱々グツグツの鍋がテーブルに現れ、唐辛子の紅い海に泳ぐプリップリな水煮魚(シュイヂュユー)。
なんとこの水煮魚が招牌菜(看板料理)!そんな四川料理店が8月23日(日)、上野にオープンしました。


その店の名は「翠雲(すいうん)」。翠雲は重慶市渝北区にある地名でもあり、街のもうひとつの呼称が水煮鱼之乡(水煮魚之郷:水煮魚の故郷)。
お店の方曰く、水煮魚が誕生し、のちに全国へ広まったきっかけになった地名を店名に採り入れたのだそう。俄然彼の地に興味が湧いて調べてみましたが、細かな経緯は諸説あるようですね。
現地には同じ名称の店(水煮魚の創始者と息子により全国十数店舗を運営)も存在しますが、そちらとの関係はないとのこと。

スタッフは皆、水煮魚が大好きで、中国各地でも広く好まれるこの料理。日本でも力を入れて紹介したら、きっと好きになる方が増えるのでは…? そんな想いから「翠雲」が誕生しました。
「工夫水煮魚」の調理&香辛料のこだわりとは?
店特製の水煮魚「工夫水煮魚(ゴンフーシュイジュユー)」は、既存のレシピをベースに研究と試作を重ねた末、新たに創り出されたこだわりが凝縮。

使用する鯉は、昼夜それぞれ開店前に、1日2回に分けて仕入れることにより、いつも新鮮なものを提供。調理の際、大切にしているポイントは9つも!
1、良質の魚を見定め選ぶ 2、魚をしっかり打ちたたく 3、鱗を残さぬよう取り除く 4、魚をふたつに切り分ける 5、魚を同じ厚み、且つやわらかで滑らかな口当たりになるようスピーディーに切り分ける 6、調味料に漬け込み下味をつける 7、湯を沸かし、沸騰したら魚の頭を煮る 8、切り身を沸騰手前90℃くらいの湯で8割程度火が通るくらいまでさっと茹で、プリッとした滑らかで瑞々しい食感を生み出す 9、170℃以上の高温の油を注ぎ、新鮮な香りを引き出す |
さらに、厳選された香辛料にもこだわりが。
◎四川省・雲南省・貴州省産の唐辛子の品種「子弾頭(子弹头)」で、濃厚な辛味と香り
◎雲南省産の大紅袍花椒のフレッシュな香りと痺れ
◎四川省凉山彝族自治州産の青花椒で、清々しさとしっかりとした痺れ
その上、八角(スターアニス)・桂皮(シナモン)・香叶(ローリエ)・小茴香(ウイキョウ)・陳皮(みかんの皮)・千里香・白芷(ビャクシ)・肉荳蔲(ナツメグ)・甘草・香茅(レモングラス)・良姜・山奈などなど計38種のスパイスを巧みに使い、奥深い味わいを描き出しています。
これらの食材を用い、スピーディーに調理することででき上がった水煮魚をひと口食べてみれば、キャッチフレーズの「好吃的鱼 舌尖会跳(好吃的魚 舌尖会跳:美味しい魚を食べれば舌先が跳ぶ)」のとおり、舌先のみならず気分も弾むことでしょう!
現代中国を感じる江湖菜(ジャンフーツァイ)が勢ぞろい!
さらに「工夫水煮魚」以外にも“好吃的菜 舌尖会跳”、舌先が跳ぶような美味しい料理はいっぱいあります。
席に着くとうっかり夢中になって見入ってしまいそうになるメニューブックに並ぶのは、江湖菜(ジャンフーツァイ)を中心とした料理の数々。江湖菜とは、
◎土=「乡土气息」郷土の息吹 ◎粗=「粗犷豪放」 豪快大胆で細かいことにこだわらない ◎雑(杂)=「杂交≒兼收并蓄」折衷。内容や性質の異なるものを受け入れ、織り交ぜ、取り入れ、併せ持つ |
を大きな特徴とした、伝統的四川料理とは対照的な、創造性高い新たな四川料理と言われるもの。重慶を中心に今や四川省でも広く見られるように。豪快さ・大胆さは、濃いめの味付けだけでなく、料理名やビジュアルでも表現されています。
こうした、豪快かつ重慶・四川の新たな息吹を感じる料理も、水煮魚と合わせてぜひ楽しみたいですね。





厨房を取り仕切るのは瀘州出身、江湖菜を得意とするベテラン料理人
楽しい料理を作り出す厨房をまとめているのは、四川省瀘州(泸州)出身、中国と日本で合わせて35年の経験を有した、侯方荣(候方栄:ホウファンロン)シェフ。長年にわたり江湖菜の研究に打ち込み、常に新たなチャレンジに果敢に取り組んでいます。

なお、2020年1月に冒脑花(豚の脳味噌のマオツァイ)をご紹介した池袋「蜀签(しょくせん)」の姉妹店ということもあり、候(ホウ)シェフと同郷の叶(葉:イェ)シェフが時々厨房を手伝いに来ていることも。こちらでも威勢のよい声を響かせ、「翠雲」にも活気をもたらしています。
重慶北部地域の水煮魚のふるさと・翠雲(翠云)を旅するように、舌先も気分も跳び弾む体験をぜひ上野で!
翠雲(すいうん)
住所:東京都台東区上野4-4-5 上野c-roadビルディング 6F(MAP)
TEL:03-6284-4565
営業時間:11:00-15:00, 17:00-24:00 ※昼夜ともにラストオーダーは閉店の30分前
text & photo :アイチー(愛吃)
『中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。日本の中華のなかでも、中国人シェフが腕を振るい、郷土の味が味わえる“現地系”に精通。『ハーバー・ビジネス・オンライン』でも執筆中。