もくじ 1 ビーフンと呼べるのは米粉でつくるビーフンだけ! 2 練って練って押しまくる!ビーフンの生地づくり 3 米好きなら止まらない!香り高き蒸したて生ビーフン RECIPE:美味しくて手軽!ビーフンのかんたんレシピ |
中国料理業界で「新竹(しんちく)」といえばビーフン。新竹米粉は、日本でもよく見かけるビーフンの代名詞的存在であり、台湾の重要な輸出品です。台湾国際放送T-roomによると、新竹ビーフンは「一年間に50億元(日本円およそ170億円)を売り上げている」そうで、まさに台湾が誇る一大ブランドと言えるでしょう。
そもそもビーフンは、漢字で“米粉”と書くように、お米の粉が原料。しかしそのほとんどは、米粉とコーンスターチなどのでんぷんを配合しているのが主流です。機械導入による製造の合理化と、台湾人が大好きな「QQ(キュウキュウ=弾力性のある食感)」の追求によって、現代のビーフンは、昔ながらのそれとは違った原料と食感に変化してきました。
そんな折、台湾の大手製粉業者が、食品に使用が禁じられている原料をタピオカなどに使用していたことが発覚。同じく「QQ」系食感が好まれるでんぷん系食材への追及も厳しく、台湾当局が関連法の修正に着手するに至ったのは2013年のこと。
こうした事態を踏まえ、台湾では2014年の7月1日以降、「新竹米粉」という地域ブランドネームは残しつつ、「米粉」と品名に表示できるのは、100%米の粉を原料とするもののみに限定。米粉50%以上のものを「調合米粉」、50%以下のものを「水粉」と表示することとなったのです。
そこで今回編集部が注目したのが、100%米の粉のみを原料に、1世紀以上ビーフンを作り続けている東徳成米粉工廠。台北をはじめ、台湾各地から買い求めに来る人々が後を絶たない名品の背景に迫りました。
うまいビーフンはうまい米から作られる
新竹駅から車で約15分ほど走ったところにある、台湾のどこにでもありそうな路地裏。気を付けて探さないと、見逃してしまうほど控えめな看板ですが、ここで毎朝4時半から、1世紀以上もビーフンを作り続けている工房が、今回ご紹介する東徳成米粉工廠です。
歴史を振り返ると、新竹がビーフンの産地として発展し始めたのは約1世紀前のこと。当時この地域に住んでいた人々が中国の福建省泉州市に赴き、ビーフンの製造方法を習得。108年前に開業した東徳成の初代・郭樹さんも、当時泉州で学んだひとりでした。
というのも、新竹は“新竹風城(風の街・新竹)”と呼ばれるほど、冬の季節風が強い地域。米の収穫はもちろん、ビーフンづくりに適した風土があったのだそう。
「今はどこのビーフン工場でも、米の粉を入れてボタンを一つ押せば、最後には製品が出てくるような仕組みになってしまったね。でも、うちは昔のまんま。ビーフンに適したおいしいお米を仕入れて、米漿(台湾語でビーリン:米汁のこと)を作り、最後は天日干しで仕上げているよ」。
そう話してくれたのは、東徳成三代目の郭連進さんです。
台湾の一般的なビーフンは、在来米の粉を使って作りますが、西螺米を生米のまま使用しているのが郭さんのこだわり。西螺米とは台中市よりやや南方の雲林県で収穫される米で、日本統治時代は天皇家御用達となっていた歴史があります。
そんな西螺米で作るビーフンの仕込みは、米を前日の晩に水に浸しておき、米漿(ビーリン:米汁)が作れる状態に整えることから始まります。あまり時間を置きすぎると米が発酵してしまうため、夏と冬で時間を変えながら、ぎりぎりのタイミングで切り上げるのだそう。
水に浸した米を研磨機に入れれば、すり潰されて米漿(ビーリン)が出てきます。
ビーフンの原料となるのは、この米漿から水分を絞り取った固形分。麻袋に入れ、上から木板を当て、機械で圧力をかけて水分を抜くと、なんともいえないお米のいい香りがふわりと漂ってきます。
袋の口は手結び。担当するのは二代目のご主人・郭木水さん(82歳)です。どんなに袋を圧迫しても口が開くことのない、家伝の八重結びだそう。
こうして最後に袋の中に残るのは、生米の約6割の分量になった米粉。これを元に、米の粘り気を最大限に引き出し、太さ1mmにも満たない極細ビーフンを作っていきます。
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取材・文・撮影 佐藤貴子/ことばデザイン