【酥】sū スゥ
「酥」という字はなんとなく見たことがあるのに、一体何の料理なのかはピンとこない…。特によく見る場所は中華街のお土産コーナー。どうでしょう。なんとなくイメージできますか?
実はこの「酥」、中華菓子の中でもパイやクッキーに使われている言葉なんです。例えば台湾で人気のパイナップルケーキや、香港を代表するお菓子・エッグタルトもその仲間。日本人からすると、パイとクッキーではだいぶ印象が違いますが、中国語では本来「サクサクした歯ざわり」という意味の言葉で、お菓子はもちろん料理にも使います。
料理の場合は、食材を素揚げ、または片栗粉などをまぶして揚げるとこの食感になることから、サクサクとした揚げものに使われることが多いようです。料理名の構成としては、「檸檬烹酥魚(サクサクした魚のレモンソースがけ)」のように、「食材1+酥+食材2」で、「サクサクの食材2を食材1で調味したもの」というパターンか、「紅醋酥炸牡蠣(牡蠣のサクサク揚げ 紅酢ソース)」のように、「食材1+調理法+酥+食材2」で、「ある調理法でサクサクにした食材2を食材1で調味したもの」というパターンが一般的。料理の場合は食材名でなんとなく味がイメージできるところもあるので、お菓子よりわかりやすいかもしれませんね。
では、お菓子の場合はどうでしょうか。いくつか代表的な「酥」のお菓子をご紹介しますので、「酥」のイメージを掴んでいただければ幸いです。
[1]台湾土産の定番「鳳梨酥(フォンリースゥ / fèng lí sū)」
サクサクのクッキー生地にパイナップルの餡がぎっしり詰まったパイナップルケーキは、台湾名物のひとつ。日本語ではケーキと言うものの、その食感からもわかるように、「酥」のお菓子です。今日では、パイナップルだけでなく、金桔酥(きんかん餡)、蔓越酥(クランベリー餡)、芒果酥(マンゴー餡)といったバリエーションも豊富。デパートの地下食品売り場、市場、夜市などで買うことができます。
[2]台中銘菓「太陽餅(タイヤンビン / tài yáng bǐng)」
太陽餅は台湾の中でも台中の銘菓で、円形の薄いパイ生地の中に、麦芽糖や蜂蜜、黒糖の餡が入ったお菓子。名前に「酥」の字はありませんが、このような薄いパイ生地は「酥皮(スゥピィ)」といい、「酥餅(スゥビン)」という酥皮のお菓子が原形となって生まれました。
[3]香港&マカオ名物「酥皮蛋挞(スゥピーダンタァ / sū pí dàn tà)」
酥皮を使った有名なお菓子といえばエッグタルト。中国語では主に「蛋挞(ダンタァ)」と言いますが、生地がサクサクしていることを強調したい時には「酥皮蛋挞」と言います。
ちなみにタルト生地を使ったものは「港式蛋挞(ガンシィダンタァ)」、折りパイ生地を使ったものは「葡式蛋挞(プゥシィダンタァ)」とも呼び分けることも。前者は香港スタイル、後者はポルトガルスタイル、すなわちマカオスタイルという意味ですね。 また、タルトのことを「挞(タァ)」と表現する場合と「塔(タァ)」と表現する場合がありますが、後者は主に台湾で使われる表現です。
[4]北京の伝統菓子「胡蝶酥(フーディェスゥ / hú dié sū)」
胡蝶(フゥディエ)とは中国語で蝶を表す言葉。「胡蝶酥」はその形が蝶に似ていることから名付けられたお菓子です。食感はクッキーとパイを合わせたような感じで、甘さは控えめ。
北京っ子にとっては、昔おばあちゃんが作ってくれた懐かしいお菓子といったイメージがあるようです。
[5]その他の「酥」
中国土産にも使われる菓子折りにもさまざまな酥が入っています。こちらは右下から時計周りに「佛手酥(フォショウスゥ/アーモンド餡)、「如意酥(ルゥイスゥ/蓮の実と5種のナッツ餡)、「棗花酥(ザォファスゥ)/胡桃と棗の餡」、「祥雲酥(シャンユンスゥ)/クコの実餡」の酥。「棗花酥」は、その形から「菊花酥」と呼ばれることも。
「酥」な料理
檸檬烹酥魚 (レモン×衣×酥×魚) ※烹:衣に味付け |
紅醋酥炸牡蠣 (紅醋×酥×炒め×カキ) |
鳳蛋入酥捲 (卵×酥×巻く) |
椰菜香酥浸秋刀魚 (キャベツ×香酥 ×浸たす×秋刀魚) ※香酥:香りよくサクッ |
参考文献
『中国料理技術大系 烹調法』社団法人日本中国料理調理士会 編(2000年)
『中国料理小辞典』福冨奈津子 著(柴田書店2011年)
『台灣糕餅50味-舌尖上的懷舊旅行』張尊禎 著(遠流出版事業股份有限公司 2009年)
Text 山田早苗(古樹軒)