担担面→タンタンメン→坦々麺→汁なし登場で「担担麺」に回帰

担担麺(担々麺)
×坦々麺

日本では、中国料理店だけでなく、ラーメン店やカップ麺でもおなじみの担担麺。今や“日本の定番中華”として定着しているが、その名前の由来は、天秤棒を担ぎ、そこに麺や調味料をぶら下げて売り歩いた四川省の屋台メシ「担担面」にある(中国語の面は、日本語の麺の意味)。

つまり、本来使う漢字は「担ぐ」の「担」。それがいつしか日本では「坦々麺」として広まっていった。

その背景には、大きく2つの要因が考えられる。ひとつは、日本では担担麺が現地とは異なる仕立ての汁麺として広まったこと。もうひとつは、パソコンとかな漢字変換の普及だ。

そもそも、日本で一般的な担担麺は、「四川料理の父」と呼ばれる陳建民(ちん けんみん)氏が日本で創り上げた麺料理である。四川省では汁なしの和え麺として食べられていた軽食をルーツに、建民氏は日本人の嗜好に合わせ、当時日本で手に入る食材をもとに、胡麻味噌ベースの汁あり麺として再構築。この創作麺料理が大ヒットし、今に至るのはご存じの通りだ。

四川飯店の創業者、陳建民氏の著作『さすらいの麻婆豆腐』。建民氏が日本に来た当時、ここには、豆板醤も甜麺醤も芝麻醤も手に入らなかったと書いてある。
汁ありの日本式担担麺。日本のラーメン文化との相性もよく、中華料理店だけでなく、ラーメン店でも提供している店は多い。

さらにおもしろいのは、料理が再設計されたのちに、表記が徐々に変わっていったことだ。振り返ると、1950年代~1990年代は、この麺料理はカタカナで「タンタンメン(またはタンタン麺)」と書かれることが多かった。

その名残と考えられるのが、1964年(昭和39年)、神奈川県川崎市で創業した「ニュータンタンメン本舗」。これは、創業者の五十嵐源吉が町中華で出していたタンタンメンをアレンジし、「ニュータンタンメン」と名づけたことに始まっている。

また、ご当地麺料理として知られる千葉県勝浦市の「勝浦タンタンメン」もカタカナ表記だ。こちらは「元祖 勝浦式担担麺 江ざわ」の前身となる大衆食堂「江ざわ」により、1954年から提供されている。

では、「坦々麺」という漢字表記はいつごろ現れたのだろう。国立国会図書館のNDLサーチで調べてみると、1990年代まではカタカナで「タンタンメン」「タンタン麺」と表記された例が確認された(例:1997年『クッキングパパ』48巻「「家族そろってタンタンメン」ほか)。

それが2000年代初頭以降、「坦々麺」が見られるようになる。例えば、2003年刊行の『美味しんぼ』85巻には「坦々麺のルーツ元祖」とあり、「坦々麺」が使われているのだ。個別の違いはあるにせよ、この表記が広く流通し始めたのは、2000年代初頭と見てよさそうだ。

ワープロからパソコンへのシフトが、誤変換を定着させた可能性

ここで注目したいのが、日本における文字入力ツールの変遷である。1990年代半ばから、日本社会はワープロ(ワードプロセッサ)からパソコン(パーソナルコンピュータ)へ急速に移行。ワープロ時代は、入力する人が今より意識的に文字を選ぶ余地があったが、1995年のWindows95以降、かな漢字変換はPCのIME(文字入力ソフト:ATOKやMS-IME)頼りとなった。

そこに「たんたん」と入力すれば「坦々」が第一候補として表示される。これは、日本で生まれた汁ありの担担麺が、当初「タンタンメン(タンタン麺)」というカタカナ(音)表記だったために、誤変換があったのではないかと推測される。

のちに、日本で食べられる中国料理が多様化し、「汁なし担担麺」が「坦々麺(ここでは敢えて用いる)」のルーツとして広まったからだろう。今はかつてほど「坦々麺」の表記を見なくなった。

汁なし坦担麺。写真は「四川フェス」で食べたもの。屋台料理にぴったりなのが汁なしタイプだ。

2022年『東京新聞』の「タンタン麺は『担』?『坦』? 都内600店調べました 正しくは『担』でも26%が誤字の『坦』」という記事にあるように、昨今は共存するものの、正しい表記が多いようだ。

現在、私のパソコンで「たんたんめん」と入力すると「担担麺」「担々麺」「坦々麺」と3つの変換候補が出てくる。このことは、本場四川の「担担面」が、日本式の「タンタンメン(タンタン麺)」となり、パソコン誤変換の「坦々麺」主流時代を経て、市場が成熟した今、正しく「担担麺」が戻ってきた歩みも感じさせるのだ。

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