【羹】gēng ゴン
味噌汁やお吸いものが日本料理に欠かせないように、中国でもスープは食事に欠かせない存在です。こうした汁物全般を、中国では「湯(タン)」と呼びますが、今回はさらに一歩踏み込み、「湯」に留まらない、そしていかにも中国人に好まれる、とろっとして滑らかな食感のスープ、「羹」をご紹介しましょう。
日本語でいうところの「羹(あつもの)」は、肉や野菜を入れて煮込んだ熱い汁ものを意味しますので、大意はそう変わりません。しかし、中国の「羹」が日本と大きく異なるのは、具とスープが一体に感じられるような“とろみ”があること。食材を小さく切り揃え、必要に応じて下処理を施したものに、スープ(出汁)を加えて調味し、加熱した後、くず引き(とろみづけ)して仕上げたものが「羹」の調理技法です。
また、中国でレンゲのことを「勺子(sháo zǐ/シャオズ)」と言いますが、「羹」の字を用いた「羹匙(gēng chí/ゴンチー)」「調羹(tiáo gēng/ティヤォゴン)」という表現もあります。このことからも「羹」がレンゲを使っていただくもの、すなわちスープだということがおわかりいただけるかと思います。
なお、料理名にする場合は、「食材名」+「羹」という組み合わせが一般的。「○○羹」=で、○○のとろみスープ、と覚えておきましょう。
「羹」な料理
翡翠海鮮羹(青菜×海鮮×羹):海鮮とろみスープの翡翠仕立て
撮影地:台湾台北市「金品茶樓」
同じ「とろみ」でもどう違う?
羹(gēng/ゴン)と 烩(huì/ホェイ)
日本中国料理調理士会が編集している『中国料理技術大系 烹調法』によると、「羹」は「材料を 烩より小さく切って絲(スー/細切り)、鬆(ソン/みじん切り)、末(モオ/みじん切り)、泥(ニイ/すり身)※1 とし、また、烩より若干くずびきの濃度も濃くして、材料とスープが渾然一体となるように仕上げる。これに対し、烩は複数の材料そのものの異なった味わいを賞味することが目的なので、材料は羹より大きく、一つ一つの味がはっきり分かるように切りそろえ、くずびきの濃度も材料がスープの中で浮遊する程度にとどめる」とあります。(※1:カッコ内は編集部にて追記しました)
そう、実は「羹」には似て非なる「烩」という調理法があるんです。以下にその違いをまとめてみました。
烩
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羹
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本意:熱して合わせるという意味があり、素材の味を引き出すことを目的としている
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本意:食材がスープと一体となり、溶け込んでいる状態にする
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食材:少なくとも2~3種類を使用する
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食材:1種類~五目までさまざま
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切り方:素材の味や食感がわかるよう、スライスすることが多い
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切り方:食材は細切り、みじん切り、すり身などにされる
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料理名表記:烩+食材
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料理名表記:食材+羹
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代表的な料理:餡かけ系全般
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代表的な料理:とろみスープ全般
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このように、同じような調理法に見えても、ちょっとした違いの積み重ねで、料理の仕上がりや、料理から受ける印象はまったく異なるものになってしまいます。
注文する時は、食材とスープのどちらを楽しみたいのか、またどんな食材の組み合わせなのかを考えて注文すると、期待しているものにより近いものがいただけるはずですよ。
(写真右)レストランはもちろん、屋台料理でも「羹」や「烩」は身近な存在。屋台の場合「烩」は特に「烩飯(あんかけご飯のようなもの)」として、炒飯と並んで提供している店が多いですね。
美容と健康のためにチャレンジしたい蛇の「羹」
五蛇羹(五種類の蛇×羹):蛇のとろみスープ
蛇は香港で比較的ポピュラーな食材。滋養強壮と美肌効果があると言われており、蛇料理の専門店もあります。
こちらの写真は、服飾品や電気製品の問屋がある深水埗(Sham Shui Po)にある「蛇王協」の「五蛇羹」というとろみスープ。5種類の蛇の細切りがとろみの付いた特製スープの中にたっぷり入っており、大サイズと小サイズから選ぶことができます。写真は小サイズで、2人でいただくのにちょうどよい大きさでした。
蛇肉は意外とクセがなく、さっぱりとしていて鶏のささみ肉のような感じ。美容と健康のために、老若男女問わず、試してみる価値はありそうですよ。
参考文献
『中国料理技術大系 烹調法』社団法人日本中国料理調理士会 編(2000年)
『中国料理小辞典』福冨奈津子 著(柴田書店2011年)
Text 山田早苗(古樹軒)
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