世界三大炊き込みごはんを選べるなら、パエリア、ビリヤニ、煲仔飯(ボウジャイファン)を推したい。
生米と具を素焼きの土鍋で炊き上げ、タレをかけて食べる煲仔飯は、香港の冬の風物詩だ。ずらりと並んだコンロの上で土鍋を勢いよく熱する光景は、食いしん坊じゃなくても惹きつけられるものがある。
蓋を取り、湯気とともに立ち上るのは、香ばしいジャスミンライスと具が織りなす芳香。甘じょっぱいタレをごはんとともに上下かき混ぜれば、もう言葉はいらない。
具の組み合わせは鶏肉と椎茸、腸詰と鶏肉、塩漬け発酵魚と挽き肉など無限大。さじを入れれば鍋肌のパリパリとしたおこげが取れて、にんまりしてしまう。
今回ご紹介するのは、そんな香港名物・煲仔飯の作り方。専用の鍋や、特別な食材がなくてもいい。日本の土鍋を使い、鶏肉、干し椎茸といった身近な材料で作ることができるのだ。
「喜記(ヘイゲイ)」の山﨑浩一さんに、煲仔飯(ボウジャイファン)のレシピを聞きました。
向かったのは、東京・銀座の「喜記(ヘイゲイ)銀座店」。「喜記」は香港に本店を構える郷土料理店で、にんにくの効いたクリスピー&スパイシーな調味料でマッドクラブやシャコを豪快に調味した「避風塘」と呼ばれる料理を生み出したことで有名だ。
今回料理を教わるのは、その銀座店で料理長を務める山﨑浩一さん。ミカドビル時代の「赤坂璃宮」で料理人人生をスタートし、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ「彩龍」、マンダリン オリエンタル 東京「センス」、「香港1997」ほか、広東料理一筋に今年で25年のキャリアを持つベテランで、香港の怡東酒店(Excelsior Hotel)のレストラン「怡東軒(イートンヒーン)」での研修経験もある。
そんな山﨑さん率いる「喜記(ヘイゲイ)銀座店」の特色は、本店の名物も用意しつつ、焼味(ロースト料理)、点心、例湯(季節の土鍋炊きスープ)、雲呑麺など、誰もがイメージする香港の味覚をアラカルトで楽しめること。
煲仔飯は2022年現在ランチで限定5食、ディナーは「是日煲仔飯(今日のボウジャイファン)」としてほぼ週替わりで用意しており人気は上々。プレオープン中にも非常に評判がよかったメニューであり、この味が再現できると思うと否が応でも期待が高まる。
ふつうの土鍋・ジャスミンライス・オイスターソースがあればいい
煲仔飯をつくるにあたり、これだけは用意してほしいものがある。土鍋、ジャスミンライス、オイスターソースだ。この3つがあれば、いろんなバリエーションの煲仔飯が作れる。上から順に説明しよう。
◎ふつうの土鍋でつくれます
まず煲仔飯を炊く道具だが、「直火にかけられる陶器の土鍋ならOKです」と山﨑料理長。今回は7号サイズの土鍋を使ったが、同じ分量で6号でも再現できる。
おこげをつけるためにしっかり焼くと、鍋底に焦げ跡が残ることがあるので、気になる方は黒や茶色の鍋底のものを使おう。耐熱性能に優れているのは萬古焼(ばんこやき)の土鍋だ。焦げ付くことを前提とすると、決して高いものを使う必要はない。
◎米はジャスミンライスで
長粒米のシャキッとした食感は、煲仔飯の軽快なおこげに直結する。店では「タイ産のジャスミンライス『ゴールデンフェニックス』を使っています」と山﨑さん。
アジア食材店や通販などで買いやすい銘柄なので、見たことがある方もいるだろう。また、300g入りの袋で発売している「タイ香り米」はお試しにちょうどいいサイズだ。
◎老抽の代わりにオイスターソースを活用
煲仔飯は最後にかけだれをかけるのが定番。一般的に、老抽(たまり醤油)、生抽(濃口醤油)、オイスターソース、砂糖などを使って味を決めることが多い。
老抽は色、甘み、香りづけに用いられるが、やや日本で手に入りにくいのが難点。そのため今回はオイスターソースを使った。炒めものなどにも使えて買って損がないので、なかったらぜひ入手してほしい。牡蠣から抽出したシンプルなオイスターエキスもおすすめだ。それではさっそく作ってみよう。