「おいしい」は中国語でいうと「好吃(hǎo chī|ハオチー)」だ。なにを隠そう当サイト『80C(ハオチー)』も、中国語の「好吃」を、8=ha、0=o、C=chiと強引に当て字にしたものである。

しかし、中国を食べ歩くと、食の動詞は「吃(食べる)」だけではとても済まないことに気づく。食のるつぼ・中国で、飲み食いに関わる単語は非常に多いのだ。

食べる|吃(chī)

重慶の老重慶火鍋。

麻婆豆腐、炒飯、餃子、スイカ、錠剤など、固形物を口に入れ、飲み込む行為は基本的に吃(chī|チー)である。最も汎用的に使える食の動詞だ。

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飲む|喝(hē)

山東省淄博市の市場に並ぶ酸梅湯。

この単語は、酒好きの方ならご存じだろう。酒、お茶、スープなど、液体を食べる(=飲む)ときは喝(hē)だ。漢方薬も、煎じた液体を飲む場合は「喝」を使う。

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すする|嗦(suō)

広西チワン族自治区の老友粉。

麺類をずずーっとすするアクションを、嗦(suō|スゥオ)という。

特に、米粉(こめこ)の麺をよく食べる地域……その中でも、広西チワン族自治区では嗦粉(suō fěn|スゥオフェン)という言い回しをよく耳にする。この2文字で「米粉をすする」という意味になるのだ。

また、小麦粉などでできた麺をすする場合は嗦面(suō miàn|スゥオミェン)となる。単に食べるというより、汁があり、香り高い麺類を食べるときにしっくりくる食の動詞である。

米粉(mǐ fěn|ミーフェン)をすする楽しみ
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串をギューッとしごいて食べる|撸串(lū chuàn)

山東省淄博名物の淄博烧烤(ズーボーシャオカオ)。※トマトは一般的に入れません。

中国で二次会、三次会の定番といえば串焼きだ。東京でも、中国東北地方の吉林省、北方の内モンゴルをはじめ、各地の串焼きが楽しめる店があるので、経験している方もいるかと思う。

串焼きの種類は、羊の肉や腎臓、茄子やジャガイモなどなんでもあるが、このように串に刺さったものを、歯でしごくように食べることを、撸串(lū chuàn|ルーチュワン)という。撸の漢字を分解すると、手偏(てへん)に、山東省を意味する魯(ルー)だ。

山東省の淄博(zībó|ズーボー)といえば、烧烤(串焼き)で中国中にその名を知られる地域。肉が焼けたら、薄い小麦粉の生地で包み、串を一気に引き抜いて食べるのだが、からはなんとなくその光景が思い浮かぶ。気合いと量を感じる言葉だ。

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余談だが、猫をモフるときも撸(lū)を使う(撸猫|lū māo)。いずれにせよ、この言葉には「没頭する」「がしがしやる」ニュアンスがある。

ガブリと噛む|咬(yǎo)

山東省のどこかで食べた煎餅。

咬(yǎo)はガブリと噛むアクションをいう。この言葉を思い出すのは、立春の咬春(yǎo chūn|ヤオチュン)だ。

咬春とは、立春に生大根や生野菜の盛り合わせ(春盤)、春餅をかじって春を迎えること。春餅(chūn bǐng|チュンビン)は、小麦粉を薄く伸ばして焼いた皮に具材を包んで食べるもので、主に中国北方で親しまれている。

哈爾濱(ハルビン)市内にある春餅専門店「老昌春饼」の春餅。

年中食べられている春餅だが、立春にピリリと辛い大根やナズナを巻いて食べる咬春は特別な意味を持つ。このひと噛みが、冬の身体を目覚めさせ、シャキッと新しい春を迎えられるだけでなく、春の間、春困(春の眠気)に悩まされなくなると考えられているのだ。

日本の恵方巻きも同様に、季節の節目を“かじる”風習には、古今東西、人々の想いが重なっている。

哈爾濱(ハルビン)市内にある春餅専門店「老昌春饼」では、立春前に「立春吃老昌春饼」の横断幕がかかっていた。

咬下一口煎饼|yǎo xià yì kǒu jiānbǐng
煎餅(ジェンビン)をがぶりと一口

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こそげ取るようにかじる|啃(kěn)

啃(kěn)は、骨や芯に沿ってこそげ取るように食べる様子をいう。スペアリブ、鶏手羽などの骨付き肉、トウモロコシなど、しゃぶりつくように囓る様子をいう。

中国では肉や魚を食べるとき、よく動かしている首の周りなどの肉や、骨の周りの部位はおいしいと考えられていることから、啃(kěn)はよく見る光景だ。例えば、池袋や日暮里などでも売っている鸭脖(yā bó|ヤーボー|アヒルの首肉の煮込み)は、まさに啃にぴったりのおつまみといえる。

ちなみに、啃老族(kěn lǎo zú|ケンラオズー)は親のすねをかじっている人々をいう。ガブリとかじる「咬」ではなく、しゃぶり尽くす「啃」を使うところにリアルさが伝わってくる。

彼は羊の骨をしゃぶっているよ
他在啃羊骨头(Tā zài kěn yáng gǔtou)

モンゴル族の羊飼いに受け継がれるラムの味『草原の料理 スヨリト』at 神楽坂

言葉でも中国料理を味わい、楽しもう!

食の中国語はほかにもまだまだあるが、食べる動作に関わる言葉を見てみると、一字で端的にディテールを表現する言い方がたくさんあると感じる。

もちろん、食感や調理法の表現も多彩だ。こちらは「中華メニューの解読法」にまとめている。中国料理のメニューを読むとき困ったら、辞書がわりにぜひご活用いただきたい。

>合わせて読みたい、食の中国語
中華メニューの解読法


参考資料:百度
TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)