中華の香味油というと、家庭では辣油やごま油が使われることが多い。かたや、高級中国料理店の厨房では、葱油(ネギ油)が欠かせない。

素材の風味を中華らしく引き立てる葱油は、さまざまな料理に使われる。ゆで鶏のたれ、魚料理の香りづけ、炒めもの(炒菜)、和えもの(凉拌菜)の香り付けなど、その用途は無限である。

さらに、葱油を作ったあとに残る揚げ葱もまた食材として非常に有用だ。

例えば、上海を代表する小吃、葱油拌麺(ツォンヨウバンミェン)。ネギの揚げカスをこんもり乗せれば画竜点睛、香ばしく煽情的な一皿ができあがる。

混ぜまくった後に現れる、茶色に輝くテラテラの麺がまたいいのだ。レシピはこちらで。

また、豚肉と一緒に煮れば、揚げ葱は香りとコクを増す調味料と化す。例えば、台湾では魯肉飯を肉を煮るとき、エシャロットを揚げた油葱酥を入れるのがお決まりだ。葱油を作る際に出た葱の揚げカスもまた、あの役割を担うことができる。

そこで当記事では、香り高い葱油の作り方葱油を和えた素食(ベジメニュー)のレシピ葱油拌麺のレシピに続き、豚肉と葱の揚げカスを煮込む滷肉(ルーロウ:肉味噌)のレシピを紹介して、葱油の四段活用を締めくくりたいと思う。ほぼ煮込まず、ササッと作れる方法だ。

葱油で一石二鳥!煮詰めずササッとできる滷肉(肉味噌レシピ

豚肉は必ず粗挽き肉を使う。なければ塊肉を細かくカットする。

材料:直径22cmのフライパン1つ分 ※所要時間15分
豚肉(粗挽き)250g ※豚肉の粒感が大事すぎるくらい大事
干し椎茸 1枚(20gくらい)
にんにく 1かけ
醤油 大さじ3分の2
老抽 大さじ3分の1 ※醤油と合わせて大さじ1杯。醤油を多めで
八角 1個 ※なくてもよい
葱の揚げカス(油葱酥)30gくらい ※葱油を作った後にできるもの
油 大さじ2分の1くらい ※にんにくを炒めるもの
▼盛り付けの仕上げ(お好みで)
香菜 適量
高菜漬け 適量

※老抽は中華食材店で手に入る。「業務スーパー」では「照りだし専用醤油(海天招牌老抽王)」という名称で小さいボトルを入手可能。全量を普通の醤油にするよりも、色よく、しょっぱくなく仕上がる。

作り方のポイント
・豚肉は粗挽きで作る。肉の粒感がおいしさに直結する。なければ、塊肉を小さくカットすることを推奨する。
・煮込み過ぎない。台湾の魯肉飯は、細かく切った豚肉と豚皮を煮込み、コラーゲン豊富なトロトロの食感に仕上げることが多いが、こちらは粗挽き肉のみを使うので、煮すぎるとパサついてしまう。
・葱の揚げカスがなければ、エシャロットを揚げた油葱酥(市販品)を使って作ってもよい。
1:干し椎茸、にんにく、葱の揚げカスを刻む。
豚肉の粒感が重要だ。細引き肉だとまるで別物の雰囲気になる。

干し椎茸を耐熱容器に入れ、完全に被るくらいの水を注ぎ、ラップをしてレンジで軟らかくなるまで加熱する。取り出して、8mm~1cmくらいの角切りにする。

椎茸を切ったとき、少し硬くても中に乾燥した部分が残っていなければ、このあと煮るので気にしなくてもいい。戻し汁は煮込むときに使うので捨てない。時間がある場合は、干し椎茸を水に浸し、一晩おいてゆっくり戻してもいいだろう。

にんにくは包丁の腹で繊維を潰してから粗みじんに刻む。そうすると、食べたときに口に角があたらない。

葱の揚げカス(油葱酥)は3分の1くらいの長さに刻む。その際、まな板にクッキングシートを被せてから刻むと、まな板が油だらけにならずに済み、後片付けが楽になる

小さなまな板にクッキングシートを被せてから揚げ葱を切ると、まな板が汚れない。ニトリル手袋をはめてやれば、手も汚れない。
2:にんにくを炒めて香りが出たら、粗挽きの豚肉を入れて炒める。

フライパンに少量の油を入れ、にんにくを炒めて香りを出す。この後加える粗挽きの豚肉と葱の揚げカスに油が含まれているので、ここでは極々少ない油でいい。

にんにくから香りが出たら、粗挽きの豚肉を入れ、表面の色が白っぽく変わるまで炒める。

豚肉の表面が白っぽくなったら次の工程へ。
3:干し椎茸、葱の揚げカスを加えて炒める。
干し椎茸を投入。うまみを蓄えた戻し汁も一緒に加える。

フライパンに干し椎茸と戻し汁を加えてさらに炒め、全体に椎茸の香りが移ったら、葱の揚げカスを加えて混ぜ合わせる。これで香りが一気に増す。

刻んだ揚げ葱を投入。香りが一気に増す。
4:醤油、老抽、八角を加えて煮込み、肉に色と香りを移す。

醤油と老抽を加える。量は合わせて大さじ1杯が目安(醤油を多めに)。老抽を入れると、たちまちこっくりとした深い茶色に仕上がる。

香り付けに八角を加え、水または酒を大さじ2杯加え、フタをして煮る。豚肉に干し椎茸、揚げ葱、醤油、八角の香りが移ったらできあがり。中弱火で8分が目安だ。

葱香る!即席肉味噌で楽しむ滷肉飯(ルーロー飯)

長く煮込まなくても、葱の揚げカス、干し椎茸、八角によって、コクとうまみ、香りが増し、本格的な風味に仕上がる。この滷肉(ルーロウ:肉味噌)を白ごはんにのせ、高菜漬けと香菜を添えれば完璧。気分でゆで卵を添えてもいい。

また、ビーフンと一緒に炒めるのもおすすめだ。肉味噌が調味料替わりとなり、食べごたえを増してくれる。

写真の焼きビーフンは、ビーフン60g(乾燥のもの。約1人前)、肉味噌100g、豆もやし45g(ひとつかみ)、小葱1本(みじん切り)、水100g、塩ひとつまみ、醤油大さじ2分の1、白胡椒少々で仕上げたもの。

ビーフンの種類にもよるが、シャキッと仕上げる場合は先に水に浸さず、直接フライパンに入れ、水を加えてほぐしながら炒めるといい。

また、食材は火が通りにくいものから炒める。この材料なら、豆もやしを炒め、ビーフンをシャキッと炒め終わってから肉味噌を加え、塩、醤油、白胡椒で調味し、小葱を入れてさっと煽ってできあがりだ。

葱の可能性を油で引き出そう

葱は本当に使える食材だ。葱油を作り、その香り高さを満喫する野菜料理を楽しみ、葱の揚げカスで葱油拌麺を楽しみ、さらに残った揚げカスで肉味噌も仕込める。なにひとつ無駄にするところがない

そして、洗練された中華の香りも、下世話で親しみやすいおいしさも、葱油さえあればお手のもの。少しだけ時間に余裕のあるとき、ぜひ一度葱油を作るところから楽しんでみてほしい。家中華の幅がぐんと広がるはずだ。

▼中華の香りは葱油でつくる。自家製葱油シリーズ
まずはここから>葱で香りを極める45分。自家製葱油(ネギ油)の作り方
野菜を美味しく>葱油で引き出す野菜の品格。素八鮮(旬野菜の精進和え)のレシピ
泣く子も黙る!>ド直球のうまさ!至高の即席麺「葱油拌麺(葱油和えそば)」のレシピ
簡単即席肉味噌>葱油香る“あの味”を煮詰めず再現!滷肉飯と焼きビーフンのレシピ


RECIPE & PHOTO & TEXT サトタカ(佐藤貴子)