横浜中華街の善隣門そば、東成軒製麺所の跡地に、紹興酒専門のバー兼販売店「夏酒屋 châvin(シャヴァン)」が2025年5月にオープンした。

オーナーは紹興酒のふるさと、浙江省紹興市で生まれ育った夏良根(なつ りょうこん)さん。日本の高級中国料理店によく行く方なら、「『夏之酒』の夏さん」と聞けば、ピンと来る方もいるだろう。

夏さんは、日本の有機栽培と酒造りに魅了されるうちに、「紹興酒も日本酒のように、原料のもち米にこだわれば、もっとおいしい酒ができるのではないか」と考え、紹興の在来品種を有機栽培で育て、そのもち米を醸した自身の紹興酒ブランド「夏之酒」を作った人物。

「夏之酒」の仕込みは2018年から。3年以上熟成させるため、ファーストヴィンテージの販売は2021年から。現在は2018~2020年に仕込んだ紹興酒が揃う。

従来、紹興酒の価値は熟成年数で語られることが多かったが、「夏之酒」はブレンドなしのシングルオリジンを提唱。さらに、慣習となっていた色づけのカラメル添加を止め、ピュアでナチュラルな風味の紹興酒を造り上げた。

発売後は、レストランとのコラボレーションによる賞味会や、コレド日本橋でのポップアップ販売などで精力的にPRを行ってきたが、続けるうちに「場」の重要性を再認識。同じ大学の先輩のサポートを得て、横浜中華街に待望の店を開く運びとなった。

店は横浜中華街の善隣門の斜め向かい。東成軒製麺所の跡地に開業した。

プレミアム紹興酒とカクテルで、“その先”の味を愉しむ

店内で楽しめるのは、「夏之酒」のほか、夏さんが取り扱うプレミアムな紹興酒や、紹興市内の老街で人気の珈琲紹興酒、紹興酒カクテルなどだ。

なかでも飲み比べセットは人気で、甘辛、カラメルフリーなど、さまざまな切り口で紹興酒の個性の違いが味わえる。

左から、「夏之酒 2019冬醸」「女児紅 熟成7年」「珈琲黄酒(珈琲紹興酒)」。
飲み比べセットも充実。さまざまな切り口で紹興酒が楽しめる。

また、紹興酒カクテルもおすすめだ。そのひとつが、珈琲黄酒(珈琲紹興酒)に、愛媛の「ポンジュース」を合わせた「珈琲オレンジ」。

「紹興酒を割ると薄く感じがちなところ、ウォッカとシロップを加えることでボディ感や香りを調整し、風味を損なわずに仕上げています」と話してくれたのは、昼間に店頭に立つ林さん。

飲むと、それぞれが持つ酸の輪郭がくっきりするとともに、ビターなコーヒーが味を引き締め、上品な甘みに心がほぐれる。

珈琲黄酒とオレンジジュースのカクテル。レシピはカクテル作りが得意な中国人協力者のアイデアをベースに、イベント等で好評だったものを採用した。

飲みやすさで選ぶなら、紹興酒「鑑湖 春風(はるかぜ)あまくち」と紅茶、ジンジャーエールを合わせた低アルコールのロングカクテル「紹興酒アイスティー」もいい。

紹興酒の熟成由来のうまみや、紅茶が持つタンニンの風味が合わさり、スッキリとした飲み口ながら、紹興酒のほのかな余韻が楽しめる。

紹興酒「春風」と紅茶を合わせたロングカクテル。低アルコールなので、酒があまり強くない人にもおすすめ。

林さんはお酒が好きなこともあり、紹興酒を使ったオリジナルカクテルの開発に意欲的だ。これから夏に向けて、ビールのようなライトな飲み口のものも考えているという。

日中店頭に立つ林さん。夏さんとともに4年間紹興酒を広める仕事に従事してきた。自身も酒が好き。

紹興酒選びのサポートや、学びと交流の場として盛り上げたい

目下、バー兼酒屋として開業した「夏酒屋 châvin」だが、夏さんが最も重きを置いているのは、交流や商談の場として、紹興酒をハブに人のつながりを作ることだ。

「まずはシェフや飲食店のオーナーなど、飲食関係者に来ていただき、試飲を通じて自店舗で採用する酒の選定サポートをしていきたいです。また、2023年にスタートした紹興酒ソムリエ制度の本格稼働や、紹興酒を学ぶ教室の運営、試飲会、コンクール、メーカー同士の連携などを通じて、紹興酒を知り、楽しむ場を増やしたいですね」

安かろうまずかろうではなく、丁寧につくった本物の紹興酒を、その文化ごと届けたい。「場」をきっかけに、夏さんの夢は広がる。

また、7月末にはすぐ隣に葱油餅(ツォンヨウビン)の店が開業予定だ。こちらは上海から人気店の料理人が来て、自ら焼いて販売するという。

焼きたての葱油餅をほおばりながら、紹興酒カクテルを楽しむのもオツなもの。大人の隠れ家として、横浜中華街に行った際にはぜひ立ち寄ってみてほしい。

夏酒屋 châvin(なつさかや シャヴァン)
横浜市中区山下町202 (MAP)※五叉路交差点の近く。上海料理四五六菜館の隣
営業時間 10:00-18:00 ※2025年8月にグランドオープン
年中無休
Instagram @natsuzakaya


TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)