「やや会場はせまめですが、チチハル出身の老板(ラオバン/店主)の自慢の東北料理を是非お楽しみ下さい。当日の昼より大鍋で羊一頭を煮るらしいので乞うご期待。
7種類の東北伝統の酒の肴と、手づかみで食べる骨付き羊肉、甕からおわんに酌む紹興酒と、羊出汁の麺料理。ざっくりとおおらかな中国東北地方の雰囲気をお楽しみ下さい(中略)。
ちなみに、北京で東北料理を食べてきた私ですが、この店の東北料理は胸を張り推薦できます」
そんな触れ込みに誘われて、今回80C(ハオチー)が取材してきたのは、羊齧協会プレゼンツ「羊と紹興酒の会」です。
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羊を喰う、ただそれだけのために大人たちが真剣に取り組み、本気で遊ぶ会の仕込みはいったいどんなものなのか? 会に先駆け、ひと足お先にお邪魔したのは、会場となる中国東北料理店「味坊(あじぼう)」です。

店に着くと、老板の梁宝璋(リョウホウショウ)さんがこぼれるような笑顔で出迎えてくれました。
日本に来て18年、この地で故郷の中国東北地方の羊肉料理を提供してきた方です。

「これが今晩のごちそう『手把羊肉(ショウバーヤンロウ:手づかみで食べる羊肉の煮込み)』になります。下処理して、骨付きのまま水から煮込むのが中国北方のやり方。漢方薬も入っています」
そう話す梁さんの目の前を覗き込むと、大きな寸胴が羊を飲み込み、沸々と煮えたぎっています。
羊肉と一緒に煮込むのは、棗(ナツメ)、クコ、蓮の実、花椒、霊芝(レイシ)、当帰(トウキ)、天麻、党参(にんじんの一種)、香叶(月桂樹)。そこに生しょうが、生レモンを丸のまま投入。
この日参加する約50人の会員のために、仕入れた羊はなんと丸ごと1頭22kg! 通常「店で1日で使い切る羊の量は15kgくらい」といいますから、今回は特別。「羊はオーストラリア産ね。皮付きのままゆでた方がおいしいです」と梁さん。

日本でメジャーな中華系羊料理というと、クミンなどのスパイスの効いた炒め物や焼き物が定番ですが、「中国北方では、羊はみなゆでて食べるのが普通。その方がいくらでも食べられるんです。でも、日本は水がおいしいから、中国で食べるより絶対においしい。これは間違いないです」と梁さん。いやあ、期待が高まります!
酒池肉林!山賊風にワイルドに羊を喰らう
そして5時間後。再び厨房の寸胴を覗き込むと、中にはしっとりと柔らかそうな羊塊が鎮座していました。
これを大皿に盛り付けたのが本日のスペシャリテ。『手把羊肉(ショウバーヤンロウ:手づかみで食べる羊肉の煮込み)』です。
羊は各自手袋をし、ワイルドに手づかみでいただきますが、これがあっさりとしていて、いくらでも食べられる!これぞ、おいしい羊の喰らい方!
コラーゲンたっぷりの皮をぺろんとはがし、肉を手づかみでわしっ。
まさに肉塊。羊肉は体内の脂肪を燃焼させる「L-カルニチン」が豊富に含まれているのでどんどん食べちゃうぞー。そして、そんな羊肉を最高においしくしてくれるのがこちらの調味料。
胡麻を粗くすり潰し、塩や香辛料で調味してあります。さらに、にんにくの絞り汁などもつければ、香り高く野性味あふれる風味に激変。これは止まらないし、くせになる…!
「三国演義」の甕入り紹興酒がどどんと24リットル!
さらに今日のもうひとつの主役である紹興酒は「三国演義」の陳年10年甕入り。陳年とは寝かせた年数のことで、平たく言うと10年ものです。
一般的に出回っている甕入りは、3年前後のものが多いので、陳年10年はかなり高級。羊囓協会の菊池主席曰く「おいしいのに値ごろな甕」。ここからひしゃくですくって、お椀で紹興酒を振舞います。

「麦茶はいかがですか~」と席を回るののは書記の原田さん。※中身は紹興酒です。
そして待望の〆は、22kg分の羊を5時間煮込んでとったスープ、そこにたゆたう湯麺!
スープは煮込む時に入れていた花椒のキリリとした刺激が絶妙。これはやみつきになりますね。
協会たるもの繋がり合おう
さて、こんな宴会を企画してしまう羊囓協会ですが、その背景には「羊料理というタグでもって、多くの人が出会い、つながり、それで世の中を少し面白くできたら本望ですね。また、羊料理を通じて、その料理が生まれた土壌や他民族を理解し、文化を学ぶとっかかりとなればさらに面白いかな…と思っています」という菊池主席の思いがあります。
そのため、羊囓協会では知り合い同士で固まらないよう、席はクジ引きとしているそう。ただ、今回は人数が多いこともあり、奥から順に詰めて座るスタイル。偶然ですが、私の斜め向かいに座られたのは落語家の古今亭駿菊師匠でした。
また、会のメンバーには東北支援ボランティアに取り組んでいる人方も多数いらっしゃいました。
というのも、菊池主席は岩手県釜石市出身で『東北を長期的に緩やかに応援する会』を主催。話芸やリフレクソロジー、東北の食材の斡旋(あっせん)や紹介など、自分たちのできることをできる形で提供し、震災後の東北応援に取り組んでいる人々も集っていたのです。
さらに今回はWEB解析士協会との「協会間交流」も裏テーマ。世の中には、から揚げ、羊のようなゆるやかなものから、資格認定を行っているところまで数多の協会がありますが、「協会たるもの繋がり合おう」というフレンドシップもモットーとしているようです。
名前からは一見怪しい組織のように思えて、その根底には「羊で繋ぐ世界の友好」がある羊囓協会。ここから「羊婚」や「羊旅」など、さまざまな縁や企画が生まれるのも、そう遠い日のことではなさそうです。