中国料理をとっかかりに、日本と中華圏の相互理解を深める――。壮大なビジョンを掲げた消費者団体が発足しました。

「中華料理もっと向上委員会」発足!
100の胃袋が銀座に集結

中国料理をとっかかりに、日本と中華圏の相互理解を深める――。そんなビジョンを掲げた消費者団体「中華料理もっと向上委員会」が発足しました。

8月下旬「Blue Lily 青百合飯荘 銀座チャイニーズビアホール」にて行われたローンチイベントは「中国八大料理を食す!」という気合いの入った内容。

会場を見渡すと、西安出身の麺点師による麺打ちパフォーマンスや、総店舗数400超、中国料理だけで300店舗以上を構える際コーポレーションの中島武会長も登場!

料理はずらり20種類超!

西安出身、藩さんの手延べ麺

際コーポレーションの中島会長

司会者の三遊亭楽生師匠。圓楽師匠の総領弟子です。

さらに今、売れに売れているという期間限定焼きそば「味覇(ウェイパー)」味の焼きそばや、中国料理に欠かせない青島ビール144本、中国を代表する白酒・五粮液(ごりょうえき:ウーリャンイェ)など協賛も続々!

「よくわからないけどおいしい中華食べたい!」という食いしん坊から、この協会設立に参画したメンバー、協賛各社まで総勢100名超が集結しました。


料理はビュッフェスタイルで提供。右は委員長の中川正道さん。

中華には「もっと」できることがある!

ところでなにが「もっと」なの? その質問に「中国料理はそのポテンシャル、実力に対して、まだまだ世間に評価されていないんですよね」と答えてくれたのは、委員長の中川正道さん。

きっかけは2017年の春に開催した「四川フェス」。2万人超の大盛況を肌身で感じ「これは中華圏というキーワードでもまだまだ世の中をおもしろくできるんじゃないか?」と実感したのだとか。


四川フェス

そこで「四川にとどまらず、より大きなくくりで活動を繰り広げるべく立ち上げた」のが「中華料理もっと向上委員会」。今後は、

①中国料理の魅力を伝え、世の中の中華リテラシーを向上させる
②中華業界に食べ手の声を伝えて刺激する
③中華圏のイメージをよくする
④中国料理を媒介に、日本と中華圏の相互理解を深める

といったことを目的に、中国料理をはじめ、中国文化に関する各団体(コミュニティ)と連携し、ひとつの大きな組織として、スケールメリットのある活動に取り組んでいく方針です。

一挙紹介!中国八大料理とは?

そして、中華料理専門ウェブマガジン「80C(ハオチー)」としてぜひご紹介したいのが、当日提供された料理の数々。

聞けば、中島会長から際コーポレーションの中国人料理人たちに「自分たちのふるさとの料理を、作りたいように作るように」とお達しがあり、腕利きの料理人が銀座に集結したのだとか。


会長直々に料理の説明も。

料理テーマとなった「中国八大料理(八大菜系 ※「菜」=中国語で料理)」は、山東料理、江蘇料理、浙江料理、安徽料理、福建料理、広東料理、湖南料理、四川料理。

由来は諸説ありますが、これらの地方出身の役人が、自分の故郷からお抱え料理人を連れて行ったため、各地方の料理が広まったと言われています。ここでは当日提供された料理の中から、中国八大料理の代表的なものをご紹介していきます。

八大菜系

◆山東料理(魯菜)

北京料理の原型ともいわれる山東料理。日本でおなじみの木須肉(卵、きくらげ、豚肉の炒め)も山東菜(魯菜)にあたります。かつて四谷にあり、店主の半生が映画や本にもなった「済南賓館」は山東菜の店。孔子信仰の本拠地でもあり、孔子に捧げるための料理も発展しました。


九轉大腸(九転大腸:豚の大腸炒め)
清代の名店で「九」が大好きな「九華楼」の店主が名づけたと言われる山東料理の代表格。
豚の大腸をゆで、揚げ、香辛料や調味料で炒め、煮込んだ手のかかる料理で、コリコリとした食感と、複雑な甘辛い味付けが特徴。大腸をぶつ切りにした形が定番ですが、ここでは腸を開いた状態で炒めています。

羊肉鍋貼串(露店の羊肉餃子串)
中国では餃子は主食。昨今、北京の露店ではおやつ向けに串刺し餃子も売っているそう。北京出身の麺点師・魏建亭さんが作りました。

◆湖南料理(湘菜)

中国の俗諺に「四川人不怕辣、湖南人辣不怕、貴州人怕不辣」、すなわち四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くとも恐れず、貴州人は辛くないのを恐れる―――という言葉がある通り、辛さがデフォルトの湖南省。

四川の麻辣(マーラー)に対し、湖南は酸辣(スゥァンラー)、酸味のある辛さが特徴です。毛沢東主席が湖南省出身であることから「毛家菜」(マオジャーツァイ)とも。

剁椒魚頭 魚頭(魚の頭の発酵唐辛子蒸し)
剁椒(発酵唐辛子)を刻み、川魚の頭にたっぷりかけて蒸した、湖南を代表する名菜。ここでは鯛のおかしらで作りました。

◆四川料理(川菜)

麻辣(マーラー)と呼ばれる、花椒の痺れと唐辛子の辛さが融合した味付けが特徴。激辛料理が揃っていると思われがちですが、辛い料理はその中の一部。「四川飯店」創業者・陳建民氏が日本式にアレンジして広めた担担麺、回鍋肉も四川料理です。

麻婆豆腐(マーボードーフ)
もはや説明不要!日本においては、中国料理を代表する一品。成都市の「陳麻婆豆腐店」が発祥です。

回鍋肉(葉ニンニクを使ったホイコーロー)
合わせ調味料の普及で、家庭のごはんのおかずとしてメジャーに。四川ではキャベツではなく葉ニンニクを使います。

◆広東料理(粵菜)

新鮮な海鮮を生かした料理や、素材の滋味を抽出した蒸しスープ、点心とともにお茶を楽しむ飲茶など、多彩な食の魅力がある地域です。

美食の都・香港の料理も広東料理の系列。「食在広州 厨出鳳城(食は広州にあり 料理人は鳳城(順徳)から出ずる)」という名言もここに。横浜中華街の老華僑には広東省にルーツを持つ方も少なくありません。

煲仔飯(田鶏(写真上)・鹹魚(写真下)の土鍋炊きごはん)
煲仔飯(ボウチャイファン)は香港の冬の風物詩。素焼きの砂鍋に、長米と具を入れて炊き込みます。上の写真はカエルのぶつ切り、下は塩漬け発酵魚。いずれも現地定番の具です。

肉絲伊府炒麺(豚の黄ニラの煮込み焼きそば)
卵で生地を練り、揚げてからスープを煮含ませるようにして炒めた麺料理。肉の細切り(肉絲)と黄ニラがいい味出してます。

◆江蘇料理(蘇菜)

江蘇省は上海の西~北側、長江の河口域にある地域。明の時代の都で、小説『紅楼夢』の舞台でもある南京、揚州炒飯で有名な揚州、文人が集い、東洋のベニスとも呼ばれる蘇州など各都市に文化と名菜が。上海料理の原型ともいわれます。


雪菜毛豆百頁(押し豆腐と枝豆の雪菜和え)
上海近郊で愛される定番のおかず。押し豆腐(布豆腐)と枝豆に、雪菜の塩気と旨みを絡めて仕上げる、しみじみおいしい和えものです。

◆浙江料理(浙菜)

上海の南に広がり、東シナ海に面した地域。西湖を中心に、風光明媚な景観が素晴らしい杭州市、紹興酒で有名な紹興市、金華ハムで知られる金華市、湯圓が名物の寧波市など、個性豊かな都市が集まったエリア。


東坡肉(トンポーロー)
北宋の文人で役人・蘇東坡(蘇軾)が考案した豚の角煮。とろけるようなバラ肉の脂と、ねっとりとした皮、ほぐれるような肉が三位一体となった名菜。「楼外楼」「天香楼」ほか、杭州市内の各レストランでは東坡肉が1切から味わえます。


油爆明蝦(殻付き車海老の強火炒め)
殻も頭もバリッと食べられるエビ料理。コクのあるあまじょっぱい味付けで、殻の内側から出てくるエビの旨みがまたおいしい。

◆安徽料理(徽菜)

前出の江蘇省、浙江省のさらに西、内陸部に位置する安徽省は、筍、キノコ、ジビエなどの山の幸、川の幸を調理した料理が中心。世界三大銘茶の祁門紅茶(キーマン・キームンこうちゃ)の産地でもあります。

香菇板栗(しいたけ、栗、鶏の炒め)
山の幸と鶏との組み合わせ。栗のほの甘さ、しいたけの旨みと香りが、鶏をいっそう引き立てます。お弁当のおかずにしたくなる醤油味。

◆福建料理(閩菜)

福建省は海を挟んで台湾の北西エリアに広がる地域。海沿いは魚介類を使った料理や、干し牡蠣、海苔などの乾物を使った料理、山側は発酵筍を使った料理があり、台湾料理に似ているものも。あまりのいい香りに、お坊さんが壁を乗り越えたという逸話がある「仏跳墻(フォティァオチィァン)」も福建名菜。

広東省と並んで老華僑が多いエリアでもあり、熊本名物「太平燕(たいぴーえん:タイピンイェン)」も、ルーツは福建料理。中国各地にある「沙県小吃(シャシィェンシャオチー)」の店も福建省が発祥です。


焖土冬粉(海鮮と野菜の五目ビーフン)
福建省は伝統的な米粉(びーふん)の産地。台湾の新竹米粉も福建に学んで発展したもの。海が近いので、海鮮と米粉は定番の取り合わせです。

◆麺・その他

その他、中国各地で愛される醤羅葡(大根の醤油漬け)や青椒土豆絲(じゃがいもとピーマンの細切り炒め)、水煮花生(殻付きゆでピーナッツ)なども登場。

盛り上がったのは麺点師手製の麺で、山西省発祥、刃物で生地を削るようにして麺を作る刀削麺(とうしょうめん:ダオシュェミィェン)、陝西省で好んで食される、手で伸ばして作る寛麺(かんめん:クァンミィェン)、同じく陝西省で、ちぎって成形する手撕麺(ショウスーミィェン)も。

刀削麺・寛麺・手撕麺(刀削麺、幅広手延べ麺、手ちぎり麺)

寛麺はあまじょっぱいタレと香菜の拌麺(和え麺)スタイルでいただきました。

知られざる中国料理を大勢で楽しみ味わい、
中華圏への理解を深めよう

ところで「こんな料理、いったいどこで食べられるの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし心配は無用。今の東京およびその周辺エリアには、ありとあらゆる中国料理店があり、選べる状態にあるのです。

古くから日本にあり、慣れ親しんだところでは、焼き餃子や中華丼が楽しめる個人経営の日式中華料理店や、広東・福建系の老華僑が牽引したホテル・飯店系中国料理店。

中華といえば餡かけ焼きそば!浅草橋で40年超、大衆中華の人気店「水新菜館」

ここ10年の流れでは、中国東北部や四川省などから来日した新華僑が手掛ける、現地系中華料理店が続々開店。直近では、店の味に惚れ込み、ひとつの料理や小吃を徹底的に修行した日本人が開業する、現地の暖簾分け単品料理専門店も見逃せません。


左は蘭州拉麺の老舗「馬子禄(マーズルー)」で修行した日本人が暖簾分けで神保町に開いた店。右は北池袋チャイナタウンの一角にオープンした鴨脖(ヤーボー:鴨の首肉などの煮込み料理)店。いずれも中国人が愛する小吃です。

俯瞰してみれば、リアルチャイナタウン・北池袋だけでなく、西川口、赤羽、南は蒲田、東は亀戸~平井など、山手線の外側にどれだけ中国料理店の多いことか。美食という視点だけでなく、社会学的な視点から見ても、中国料理は非常におもしろい状況にあるといえます。

そんな中、さまざまな中国関連コミュニティおよび団体が参画する「中華料理もっと向上委員会」では、各団体と連携を取り、これら中国料理店でユニークなイベントを実施していく運び。

大陸に行くのはちょっとハードルが高いという方も、イベントで現地系中国料理店の扉を開けてみれば、中国料理、ひいては中国へのイメージが変わるかもしれませんよ。

それぞれのコミュニティを運営している「中華料理もっと向上委員会」幹部の皆さん。今後の活動が楽しみですね。


text 佐藤貴子
photo 廣田比呂子(ビュッフェ台、集合写真、四川フェス、「水新菜館」あんかけ焼きそば)、小杉勉(都内街並み)、際コーポレーション(香菇板栗)、佐藤貴子