伝統的な料理には、往々にして秘められたエピソードがあるものです。卵黄と卵白のコントラストが美しいこの料理もそのひとつ。現在は上海でよく見る一皿ですが、元々は清朝時代の宮廷料理だったのが賽螃蟹(サイパンシェ|赛螃蟹)です。
語り継がれているのは、清代末期を生きた女帝・西太后のエピソード。ある日、西太后は「どうしても蟹が食べたい」と所望しますが、北京は海から遠く、新鮮な蟹をたやすく手に入れることができません。そこで宮廷料理人たちが知恵を絞り、白身魚と卵の白身を使って生み出したのが、「蟹(螃蟹)に匹敵(賽)する」と名付けられたこの料理です。
では、西太后をも納得させ、お気に入りになったというその味は、どうやって生み出されたのでしょう。ここでは、『神田 雲林』成毛幸雄オーナーシェフの作り方のポイントをご紹介します。

まず、用意するのは白身魚と卵。下味をつけた白身魚(写真の料理はイシモチを使用)を片栗粉でまぶし、さっと油通しします。身をしっとりとさせ、蟹肉の食感に近づけてくれるのが短時間の油通しの効能。粗熱が取れたら、卵白と生クリームを合わせた主材料に混ぜ合わせます。
そして、中華鍋の油慣らしはいつもより丁寧に。使用済の油であれば少なくとも3回、新しい油であれば5回程繰り返し、しっかりと鍋に油をなじませましょう。油をよく馴染ませることによって卵白が焦げ付きにくくなり、蟹らしい見た目と食感に仕上げることができます。
続いて130℃の低温に油を加熱し、白身魚・卵白・生クリームを合わせた材料を投入。蟹肉のように細長い状態に仕上げるべく、休まず箸でかき混ぜます。油が熱すぎるとザラザラとした食感となり、蟹らしさが半減してしまうので要注意。
最後に生姜を効かせて炒めたら、何はなくとも黒酢でめしあがれ。黒酢で頂くことで、より蟹らしい風味を満喫できること請け合いです。
料理:成毛幸雄(神田 雲林)
撮影:2014年6月 古樹軒の料理教室にて
中国語料理名:赛螃蟹 (sài páng xiè / サイ パン シェ)
text 近江文代(日本橋 古樹軒)
photo 西田伸夫








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