トマトのうまみと香りがぶわっ!池袋「沙漠之月」英英さんのトマト卵炒めレシピ

まず最初にご紹介するのは、池袋「沙漠之月」の英英(インイン)さんがつくるトマト卵炒めだ。

英英さんは中国西北地方、シルクロードの要衝だった甘粛省張掖(ちょうえき)市の出身。この地域出身の女性らしく、小麦粉使いの達人であり、手延べのラグメン、爆竹のような形をした爆竹麺、短冊のような麺片などはお手のもの。L字カウンターの中の小さなキッチンで、みるみる手延べ麺や餃子を目の前で作り出す様には毎度見惚れてしまう。

「沙漠之月」の英英さんはチャキチャキの江戸っ子ならぬ張掖っ子。英英さんとの会話もまたこの店のスパイスだ。
文化人も続々来店。郷里の張掖の写真とともに色紙などが飾られている。

この店の卵トマトを初めて食べたときは驚いた。なぜなら、かなりの「つゆだく」だったからである。しかし食べて納得。トマトの味が濃く、汁気がたっぷりと入って、おいしいトマトスープと卵料理を一緒に食べるような贅沢さに、箸が止まらなかったからだ。

そしてさらに驚いたのは、ここに麺を入れて食べたときのおいしさである。そんな一度で二度おいしい「沙漠之月」のトマト卵炒め。さっそく作り方を見ていこう。

材料(1皿分:2~3人前目安)

トマト(中)1個
卵(LLサイズ)2個(殻付きで141g)
サラダ油 大さじ3

▼薬味
にんにく 1片をみじん切り(5g)
しょうが 薄切りを数枚をみじん切り(5g)
白ねぎ 斜め切り数枚をみじん切り(7g)

▼調味料
トマト水煮(缶詰。カットタイプ)大さじ山盛り3
水 大さじ4
砂糖 小さじ1
塩 ひとつまみ(小さじ1/5)
白胡椒 少々
中国たまり醤油(老抽) 極々少々(たらっ、とたらす程度)
ごま油 小さじ1

作り方
<ポイント>中国料理定番の薬味3種類に、生トマト、水煮トマト、砂糖、水を加え、香りとコクを立たせた「食べるトマトソース」をつくる。卵はたっぷりの油でふんわりとまとめ、一度取り出してトマトソースで軽く煮るように仕立てる。

①にんにく、しょうが、白ねぎをみじん切りにする。

まずは中国料理定番の薬味、にんにく、しょうが、白ねぎを、それぞれみじん切りにする。
にんにくは叩き潰さなくてもいいのか聞いてみると「きゅうりの和え物のように、香りを立てる必要がある料理の場合は叩くけど、この料理は叩かなくていいよ」とのこと。

②トマトを小さめの乱切りにする。

ヘタを取り除いた後、1個を10片を目安にカットする。同じ10片に切るにも、串切りだと薄過ぎて加熱するとほぼ崩れてしまうし、角切りにすると食べる時にスッと口に入らない。

このような乱切りにすると、炒めたときにしなっと軟らかくなる部分と、食感が残る部分の両方が味わえる。

③卵をボウルに割り入れ、白身を切るように溶きほぐす。

卵(LLサイズ2個)は、菜箸などで白身が固まったところを切るように溶きほぐす。均一な質感にする必要はない。泡立ててしまうと仕上がりが変わってしまうので、ラフな感じで混ぜ合わせよう。

④深めのフライパンに油を多めに入れて火にかける。

卵の炒めものは油を遠慮してはいけない。一般的な炒めものよりもたっぷり多めの大さじ3杯を目安に入れる。しっかり熱された油の中で、卵をふわ~っと膨らませるからだ。

⑤熱した油に卵液を注ぎ、卵をふんわりと加熱してまとめ、取り出す。

油がしっかりと熱されたところで溶き卵を注ぎ入れ、しばらくすると卵がむわーっと膨らんでくる。火加減は中火~中強火が目安。弱すぎると卵が膨らまず、強すぎると卵がすぐ焦げてしまう。

膨らんできた卵をへらでひっくり返し、表面に生っぽいところがないように焼く。へらは細かく動かさず、卵がなんとなくいくつかの塊にまとまるよう誘導する。

卵は追ってトマト汁の中で軽く煮るため、表面が固まれば、中は完全に火が通っていない状態でもOK。まとまってきたら、ボウルなどに取り出す。

⑥フライパンに残った油でにんにく、しょうが、白ねぎを炒める。

卵を取り出した後、フライパンに残った油で、焦がさないよう薬味を炒めて少し香りを出す。英英さんの炒め時間は10秒程度。後でさらに加熱するため、この段階ではしっかり炒めなくてもよい。炒め油が少ないようなら少し足す。

⑦トマトを炒め、さらに水煮トマトを加えて炒める。

フライパンにトマトを加え、炒めて少し周りがしんなりしてきたら、トマトの水煮を大さじ山盛り3杯ほど加えて炒める。

生トマトと水煮トマト、どちらか片方だけでは英英さんの味は作れない。両方入れることで、生のトマトならではの瑞々しさと、水煮トマトの美しい赤色とコクとを合わせることができる。

なお、水煮はホールではなくカットトマトを推奨。あらかじめ刻んであり、汁気と固形分がバランスよく混ざっているからだ。

⑧水と調味料を加えて、生トマトと水煮トマトを煮て、トマトソースをつくる。

水大さじ4、砂糖小さじ1、塩ひとつまみ、白胡椒少々、中国たまり醤油(老抽)を加え、トマトと水煮トマトを煮る。

砂糖は入れる派と入れない派がいるが、「日本のトマトは生で食べるように育てられていて、普段買うものはあまり甘くないので砂糖を入れるの」と英英さん。「シルクロード沿いの張掖の標高は1,500~3,000m。ここ池袋は31mでしょ?そりゃ味が違うよ。張掖のトマトはもっと甘い!」。

なるほど、トマトは南米のアンデス高原が原産といわれるので、涼しく乾燥し、寒暖差がある場所のほうがぐっと甘みのあるものができそうだ。なお、中国たまり醤油は色付けのために使い、極々少量「たらっ」とたらす程度の量でよい。ない場合は普通の醤油で代用、または省略してもいいだろう。

⑨炒めた卵を加えて、混ぜ合わせる。

⑧で作ったトマトソース(しっかり調味してあり、もはやソースと呼べる)の中に、⑤で取り出しておいた卵を入れ、へらを大きく動かして、卵が崩れすぎないように全体を混ぜ合わせる。

トマトソースで軽く卵を煮るようにして全体がなじんだら、ごま油をたらっとたらして香りづけし、火からおろす。

⑩縁に高さのある器に盛り付ける。

汁が多いため、少し縁の高い器に盛り付けたらできあがり。 湯気の上がるうちにいただこう。

生トマトと水煮トマトに薬味の香ばしさが加わると、それはもはや食べるトマトソースであり、うまみたっぷりのトマトスープのようでもある。そこにふわふわの卵が絡んでいるのだからたまらない。もっともっとたっぷり絡めて食べたくなる。

するとちょうどいいタイミングで英英さんが「麺いれる?」。そう聞かれたら、YES以外の選択肢はない。この料理の、第二ラウンドの始まりである。

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