| 当シリーズは、江南料理を愛し、極める中国料理人・山口祐介さんの江南食文化をテーマにした聞き書き連載です。浙江省台州市天台在住時代から続くバックナンバーはこちらからどうぞ→連載を読む |
お久しぶりです。山口です。浙江省の天台(てんだい)から帰国して早3年。その後もときどき中国に行っていたのですが、先日、杭州(こうしゅう)で開催された大宴会に参加してきました。その名も「爆食ツアー」です!
このツアーは、幡ヶ谷「龍口酒家」の石橋マスターが企画し、これまで9回にわたり開催されているもの。従来は唐や清の時代の宴席メニューなど、古典料理の再現が中心だったようですが、今回のテーマを聞いてすぐ「これはいかねば!」と即決しました。
なぜなら、会の案内に「胡忠英(こ ちゅうえい)の料理人人生をかけた大宴会」と書いてあったからです。
『中華満喫』と胡忠英

なぜ僕が「胡忠英」という名前に反応したのか。それは、今から約20年前に出合った1冊の本がきっかけです。
本を手にしたのは、横浜中華街の中国貿易公司。現在は場所を移転し、以前より縮小しての営業となっていますが、当時、ここで中国をテーマにした書籍を扱っていたのです。
店の書棚には、中国で出版されたものもあれば、日本で発売された中国関連本もずらり。食にまつわるものや、毛沢東に関する本など所狭しと並んでいる中で、ふと目に留まったのが、南條竹則さんの著書『中華満喫』でした。
そこでパラパラと本をめくり、立ち読みしたらなんともおもしろそう。買って帰り、早速読み始めたらもう止まらない!
その本で、僕は南條さんが中国で3回も満漢全席(まんかんぜんせき)を開催した人だ知るのですが、その南條さんが初めて満漢全席を任せた料理人が、胡忠英(こ ちゅうえい)さんだったのです。

こんにち杭州料理の巨匠として知られる胡忠英さんは、2016年に杭州で開催されたG20のリーダーシェフを務めたことで、広くその名を知られるようになった方。杭州料理の担い手であると同時に、四大料理の概念や地域性を超えた革新的な料理体系「迷宗菜(ミーゾンツァイ)」を生み出したことでも知られます。
「迷宗」とは「宗派を持たない」という意味合いで、「正宗(伝統を継承するもの)」に相対する言葉。例えば、南の食材を北の技法で調理するといった、地域の枠にとらわれない中国料理もそのひとつ。
胡忠英さんは、若かりし時に東欧(チェコスロバキア)で中国料理を提供していた経験がありますが、こうした考えは、食材の入手が困難な海外経験も影響しているのかしれません。例えば、フォワグラを紹興酒文化圏に取り入れたり、スナップエンドウなどの新しい食材を導入したのも胡忠英さんの影響と言われています。
思えば、当時の僕は23~24歳。これまでにも何度かご本人と会えそうな機会はあったのですが、会うことはありませんでした。それが20数年の時を経て、いよいよ現実になるかもしれない……! またとないタイミングに、僕は仲間を誘って杭州へと旅立ちました。
すべての料理が安定感抜群!「杭州酒家」で味わう杭州伝統料理

今回の「爆食ツアー」は、そんな胡忠英さん総指揮のもと、昼夜それぞれ杭州を代表する老舗で宴席が開かれる趣向。待望の昼の宴の会場は、西湖を見下ろす場所に立つ「杭州酒家 延安路店」です。

この店舗は以前来たことがありますが、直通エスカレーターでは上がれない最上フロアに、眺めの良い大きな部屋があったとは……この日初めて知りました。部屋には広いバルコニーがついており、杭州の象徴でありランドマークである西湖が一望できる、まさにVIPルームです。


卓上にあるコースメニューを開くと、すべてが杭州料理ど真ん中。中国料理全体で見ると、杭州料理は香辛料やにんにくを使う料理が少なく、原汁原味(ユェンジー ユェンウェイ)、すなわち素材の味を生かすことが身上とされていますが、こうした料理がずらりと並んでいます。
なかでも杭州料理の代表格といえば、東坡肉(トンポーロウ)。豚バラ肉は香り高く、皮には厚みがあって濃密なコラーゲン感。煮込んでいるのに、肉の“鮮味(うまみ)”がしっかり残っているのは、その日に煮た豚肉しか使わないという鉄則があるからでしょう。

僕の大好きな料理でもあり、この宴席で最も印象に残った料理もまた東坡肉。そのことが嬉しかったです。
また、東坡肉と一緒に供されたのは酒醸饅頭。もち米の発酵食材である酒醸(ジウニャン)で膨らませた饅頭で、これを添えて食べるのも伝統的な杭州スタイル。ふんわりとして、ほのかな酒醸の香りに気分が上がります。

香り高い東坡肉。その決め手は「一斤肉一斤葱」
食後、料理長に東坡肉の感想を伝え、仕込みについて尋ねると、店では1日約50頭分の豚肉が東坡肉になるのだそう。これは1日100枚の豚バラ肉に相当する量です。

豚バラ肉は豚の身体の左右についており、1枚あたりの重量は4〜5kgほど。杭州では1枚の豚バラ肉から12個の肉塊を切り出すのが基本なので、1日あたり1,200個の仕込みということになります。
この肉塊を1つの鍋の中に75個隙間なく並べ、じっくり煮ること2時間半。想像すると、これだけでも相当な手間と時間がかかることがわかりますね。
そんな東坡肉の調味に欠かせないのは葱、醤油、紹興酒。料理長曰く「一斤肉一斤葱」、つまり500gの肉に500gの葱を入れて煮込んでいるといいます。もちろん、杭州で“葱”といえば“小葱”一択。東坡肉を口にしたときに遠くに感じる葱の甘み、そして奥深い風味はこの小葱でなければ出せません。
さらに、醤油は杭州産の「湖羊醤油(湖羊酱油)」、紹興酒は「会稽山」の紙パック入りもマスト。料理を味わったあと、こうして調理の現場に想いを馳せるのも楽しいひとときです。
| ▼東坡肉についてもっと知る 中国二大『豚の角煮』の違いに迫る!東坡肉(トンポーロウ)と紅焼肉(ホンシャオロウ) |








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