5月7日のオープン以来、いや、正確にはプレオープン時からでしょうか。Facebookのタイムラインに「行ってきました」と日々画像が上がってくるこちらの店。私が中華好きだからかもしれませんが、連日連夜の盛況ぶりは間違いなし。

南三 エントランス

店名は、雲南・湖南・台南という中華圏南方3地域を合わせて「南三(みなみ)」。エキゾチック中華の旗手、水岡孝和さんが5月7日に開業したお店です。

 

ハーブ、スパイス、発酵、薫製、謎食材…!
女子力高めのデザートも見逃せない

料理は当面5,000円のコース1本勝負。例えば5月のおまかせは、ハーブやスパイスを駆使した前菜盛り合わせに、自家製の薫製肉やウイグルソーセージの盛り合わせ。台湾野菜×薫香あふれる湖南式干し肉の炒めに、ニラやミントがどっさり乗った羊のローストがどどーん。

前菜5点盛り(羊舌のフェンネルマスタード和え※写真手前 台湾緑筍 マヨカラスミ和え 雲南木耳とキュウリの木姜油風味 鯖のプーアル茶スモーク 酔っ払い甘エビ)
台湾産オオタニワタリと自家製ベーコン炒め(腊肉炒山蘇)
羊のスパイス焼き ニラミントソースがけ(韭菜薄荷烤羊肉)

ぷりっぷりの蒸しナマズには「オープン予定が伸びたので、計らずも1年漬け込んじゃいました」というらっきょうと唐辛子のソースが絡み合い、羊のから揚げに鼻腔を刺激された後は、20年物の切り干し大根を風味付けにした麻油鶏(マーヨウジー:台湾料理。ゴマ油と生姜を効かせた鶏のスープ)と油飯(おこわ)がやさしく胃袋を温める…といった具合。

湖南式発酵唐辛子とラッキョウを乗せた魚の蒸しもの(剁椒魚)
羊スペアリブのから揚げ 湖南唐辛子炒め(辣子羊排)
台湾おこわ(油飯)
台湾産20年物の切り干し大根入り 鶏と生姜とごま油のスープ(二十年老菜脯麻油鶏)

そしてメリハリのあるコースの〆には、とろけるような杏仁とイチゴのデザートが登場したりするのもまたニクい。このへんのさじ加減、本人をして「僕、女子力高めなんです」というのもうなずけます。

イチゴのシャーベットと桃の樹液入り杏仁豆腐(草莓桃胶杏仁)

ガスコンロ1台が生んだ創意工夫

お客さまからは「調理法がバリエーションに富んでいますね」と驚かれるそうですが、実は店舗のガス容量が少なく、それでもコースで提供できるカタチを模索した結果が今のスタイル。

「強火で炒めものができるガス台は1つだけ。そこで、これまで研究していたウイグルソーセージや、しっかりと薫製をかけた湖南式の干し肉を仕込んだり、蒸しもの、オーブンは電気で賄うようにして、調理法を分散したんです」。

自家製干し肉と水岡さん

そして水岡さんが「裏テーマ」にしているというのが自家製の加工肉。特に長年改良を加えながら作り込んできたというウイグルソーセージは、めちゃくちゃ完成度の高い仕上がり。そりゃあ語れます。

ウイグル、台湾、欧州の技法が詰まったソーセージ

「ウイグルにいったとき、羊の内臓がぎっしり詰まったソーセージの歯ごたえがいいなと思って、作りたくなったんですよね。でも、もうちょっと中身がバラけないでまとまった方がいい。

そこで思い出したのが、以前留学していた台湾の屋台料理・糯米大腸(ヌォミィダーチャン)です。もち米、ピーナッツ、干しエビなどを腸詰にした素食のひとつなんですが、そうだ、もち米を入れればまとまるなと。

そしてソーセージといえば、イタリアのモルタデッラをはじめ、ヨーロッパでは肉と脂を乳化させて作る技法があるんです。エマルジョンタイプって呼ばれるんですけど。

このタイプはかまぼこみたいなぷりっとした食感が持ち味で、羊も肩肉と背脂を低温で練りまくると、やはりその状態になります。温かいと乳化しないので、肉を凍る直前くらいまで冷やして、摩擦熱がでないように氷水で冷やしながら混ぜて。

こうして乳化させた肉に、白滷水(バイルーシュイ:肉などを煮るために香辛料を効かせたタレ。色がは薄い)で炊いた肉や内臓を入れて、もち米を加え、炒めた香味野菜を入れてさらに混ぜる。そんな感じで作っています。

中国の地方料理って『ああ、この料理はこのエッセンスを加えたらもっとよくなるかも』と思うことがあって、このソーセージも結果的にウイグル、台湾、ヨーロッパの作り方を混ぜて作ってみました」

ということで、そんなウイグルソーセージを乗せた、自家製中華風シャルキュトリ&薫製料理のワンプレートがこちら。この味に魅せられ「売ってほしい」という声も続出というのも納得の味わいです。

ウイグルソーセージ(写真右)、大腸1本揚げ(中央)、うずら卵の薫製、鴨の舌の薫製(左)金柑ソースを添えて

人手ではなく時間を味方に!
自家製干し肉&発酵調味料の“いい仕事”

水岡さん曰く、こうしたものを事前にきっちり仕込んでおけば「勝手に旨みが増していく」ので、オリジナリティのある味わいでお客さまに喜んでもらえるだけでなく、提供時にかける時間を短縮できるため、昨今の料理人不足にも有効とか。

発酵調味料も同様に、レモン、タケノコ、らっきょうと唐辛子、パイナップル味噌…と、いい感じに漬かったものがずらり。これらが蒸しものや炒めものとしてフレッシュな食材と融合することで、荒木町生まれ・中国南方風味という唯一無二の味わいを生み出しています。

発酵筍、唐辛子とラッキョウの漬けものなど、自家製発酵食材がずらり。塩レモンは、サワー用と調理用に作り分けている。
1年間じっくり漬けたラッキョウと唐辛子。魚料理などの味付けに使用している。

11人は「海原雄山」がやってくる!?

今後は落ち着いて来たら7,000円くらいのコースも用意し、現在のエントリーコースとの差もつけていく予定とのこと。

もちろん予算に応じたアレンジも可能。すでに「1日1人は海原雄山(漫画『美味しんぼ』の登場人物)みたいな人が来るので気が抜けないですよ」と笑いますが、ご本人もこの状況も楽しんでいるのは間違いありません。

「将来的には干し肉や腸詰の加工場に立ち飲み場をつけたりして、人手をかけずに気軽に楽しんでもらえる場を作りたいですね」と水岡シェフ。荒木町で夢は広がります。

ヌーベルシノワの「メゾンドユーロン」、ミシュランスターに輝く「御田町 桃ノ木」を経て「黒猫夜銀座店」料理長時代に個性が開花。白金「蓮香」のサポート等を経て開業。

南方中華料理 南三(みなみ)

住所:新宿区荒木町10-14 伍番館ビル2F-B
アクセス:地下鉄丸ノ内線 四谷三丁目駅 4番出口から徒歩約4分(車力門通り突き当たりのビル)
電話:03-5361-8363
営業時間:18:00~23:00(22:00L.O.)※入店21:00まで
定休日:日祝
席数:17席(カウンター3席、テーブル14席)
おまかせコース5,000円(税込)
ワイン・紹興酒 各ボトル2,900円(税込)生ビール、レモンサワー等 各グラス 600~700円
※2018年5月中はカード払い不可
貸切:10名~要相談
オープン日:2018年5月7日

text & photo 佐藤貴子