上海・蘇州・無錫・嘉興・杭州などの都市を擁する江南地域は、長江の下流南岸に広がるエリア。その江南地域の人々が愛してやまない小吃といえば、餛飩(ワンタン)や葱油拌麺(葱油と醤油の和え麺:ツォンヨウバンミィェン)です。

これらは上海の代表的小吃といった印象が強そうですが、実は上海のみならず、江南広域の日常に欠かせない存在。

それを東京・大久保で食べることができる…!

そんな朗報は同郷者の間を中心にたちまち広がり、「帰郷せずともこの味を食べることができて嬉しい!」「懐かしさがこみ上げて故郷へ帰りたくなっちゃったよ〜!」との声多数。

12席ほどの店内に、喜びや嬉しい悩みの声が飛び交うその店は、東京・大久保にある「蘇園餛飩(そえんワンタン)」です。

大久保の路地裏に店を構える「蘇園餛飩」外観。

看板商品の餛飩は、蘇州出身のオーナー・李文娟(リー・ウェンジュアン)さんの懐かしき家庭の味をベースに、アイデアを重ねて誕生した「蘇園餛飩」のオリジナル。

彩り豊かで目にも美味しい「五色大餛飩」は、白はナズナ(薺菜)、黄色はコーン(玉米)、緑はキノコ(香菇)、ピンクはエビ(蝦仁)、オレンジはキムチ(泡菜)。

5色大餛飩の「茹で」。ひとつ100〜130円、8個から、追加2個単位で注文できます。

皮の色は着色料を使わず野菜から抽出し、餡の豚肉はモモとバラを包丁で刻み、機械で挽いたものとは異なる滑らかさに。さらに具材のバランスは季節によって調整するというこだわりよう。

食べ方は「茹で」「スープ」「焼き」から選択可能。スープは鶏ガラでとった優しい味わい。ひとつひとつが大ぶりでボリュームたっぷり、昔のお金「元宝」を象っています。

5色大餛飩の「スープ」。
珍しい焼き餛飩。

この大餛飩、江南地方の家庭では、春節や家族の祝い事など、縁起の良い徴(しるし)として団欒の主役なのだそう。

そして10月下旬からは「五色大餛飩」に加え、スープ入りの小ぶりのワンタン「泡泡小餛飩」も登場。ゆったり時間が取れないけれどきちんと食べたいときや、ちょこっと小腹を満たしたいときにも嬉しい存在ですね。

地味だが旨い!甘辛葱と醤油の香りが食欲を刺激する葱油拌麺

また、同時期にもうひとつ加わったメニューが葱油拌麺。このデビューには、多くの江南人が歓喜に沸きました。

そんな麺とは、一体どんなスゴいもの? 華やかな姿を想起されてしまいそうですが……

葱油拌麺。

実際の姿は、麺の上に焦がし葱、下に濃茶色のタレがちらりと見えるだけという、それは実に地味なビジュアル。

ですが、大喜びの同郷人は1碗食べ終えそうなところですかさず2碗目を追加注文したり、江蘇省出身という店近くに住む女子学生は、ランチに1碗食べた上に下校前に再び現れ、入り口の扉を開けるなり「葱油拌面〜〜!」と告げ、2碗目をペロリと平らげるという愛しっぷり!

しかし、なぜこの葱油拌麺が、こんなにも地元のお客さんを熱狂させるのでしょうか?

それは、麺へのこだわりです。

そもそも李さんは、埼玉県所沢市、小手指駅近くに「カフェダイニング蘇(スー)」を初めに出店。ここでより多くの人に故郷蘇州の味を伝え、喜んでもらいたいという想いから、東京への出店準備にとりかかりました。

と同時に、故郷に限りなく近い麺料理もあったらもっと喜んでもらえるのでは…と、麺をコツコツ探していたのだそう。

蘇州出身のオーナー・李文娟さん。

そして、ようやく郷里の味を実現できそうな製麺所を見つけ、試作を重ねた末、完成。小麦の香りをしっかり感じる、卵やかん水を使わないストレートな麺。これが葱油拌麺の大きなポイントなのです。

これまでも上海料理店などで葱油拌麺はよく見られましたが、いずれも卵やかん水を使った麺。そのため、ここの葱油拌麺なら、たちまち江南人が望郷の念に駆られてしまう、というわけです。

葱油拌麺は、目の前に運ばれたら、直ちに全体をグルグルしっかりかき混ぜましょう。

食べ方は、麺の下の葱油醤油タレを満遍なく麺に絡ませるのがコツ。白い麺が濃い茶色に染まるまで、しっかり混ぜましょう。

混ぜているときのふんわり甘辛い葱と醤油の香りが、なおさら「早く食べた〜い」という気持ちを加速させます。そして口にしてからはあっという間、一気に完食してしまうことでしょう。私もそうでした。

しかし、多くの江南人を魅了する麺とはいえ、「全中国が泣く」わけではないところも、中国の広さを感じるおもしろさ。

とある日、江南地域の出身者が他の地域の友人とともに来たときのこと。かたや感激しながら麺に食らいつき、かたやそのさまを不思議そうに見つめ…(笑)。

広大な中国。地方による食文化の違いを、改めて認識するひとコマに遭遇することもあるようです。

カフェメニュー、中華菓子、さらには蘇式湯麺も…!

また、この店の楽しみ方がもうひとつ。昼休みをゆっくりとれるときや、午後の小休憩など、李さんの手作りスイーツを楽しみながら、カフェとしても利用できるのです。

李さんは来日したての頃、大好きだった日本のケーキ作りの仕事を志し、手に職をつけるため、東京の製菓学校で学んだ経歴が。そこで身につけた技術を活かし、シフォンケーキなどの販売もしています。

そしてさらに、新たな挑戦が!

蛋黄酥(ダンファンスー:塩漬け卵入り中華パイ)、湯圓(タンユェン:白玉団子)、鮮肉月餅(シィェンロウユエビン:肉入り月餅)などの受注販売や、蘇式湯麺(蘇州式スープ麺)も始めるとのこと。

蛋黄酥(ダンファンスー:塩漬け卵入り中華パイ)

蘇式湯麺は「素交麺(豆腐とキノコと野菜の精進麺)」「雪菜肉絲麺(高菜と細切り肉の麺)」のテスト販売からスタートさせ、この後いくつかの蘇式湯麺を追加する予定だそう。「蘇園餛飩」の止まらぬ挑戦と進化、これからも目が離せません!

素交麺(豆腐とキノコと野菜の精進麺)。
蘇園餛飩
東京都新宿区北新宿1-7-20 プロスペリタ新宿102
電話:03-5330-1808
営業時間:11:00-22:00
※現在は無休、通し営業ですが、今後変更の可能性があります。

カフェダイニング蘇(スー)
埼玉県所沢市小手指町1-15-11 アゼリア5  1F
電話:04-2008-1188
営業時間 11:00-22:00

 


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。日本の中華のなかでも、中国人シェフが腕を振るい、郷土の味が味わえる“現地系”に精通。『ハーバー・ビジネス・オンライン』等でも執筆中。

★アイチーさんの記事は、毎月10日前後に公開となります。お楽しみに!(次回12月10日公開予定)

 

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