白湯(パイタン=白いスープ)というと、ラーメンに親しんだ日本人からすると、鶏を炊いた鶏白湯や、豚と鶏を合わせて炊いた、白濁したスープを思い浮かべる人が多いかもしれない。
しかし中国、特に南方では、魚でとる白湯、すなわち中国でいうところの魚湯(ユィタン)も珍しくない。魚がベースになると、コクがあるのに重たくなく、身体にいい感じもする。
2019年9月8日にオープンした「中国意境菜 白燕(バイエン)」は、そんな魚の白湯を使った贅沢な麺料理「魚貝スープワンタン麺」がランチで食べられる店だ。
素揚げの鯛×干し貝柱×アサリから生まれるリッチな味わい
さっそく黄色味がかったスープをレンゲですくって口に運ぶと、これがポタージュのようにとろりとした舌触り。大変リッチな味わいに驚いた。
なぜこんなにもしっかりとしたうまみがあるのか。オーナーシェフの白岩勝也さんに尋ねると、鯛の頭を素揚げして、貝柱や揚げネギを加え、水からしっかり炊いた魚湯を作っているという。
さらに仕上げる直前にアサリを加え、うまみと香りをさらに増幅。揚げた鯛の頭、乾燥してうまみや甘みを凝縮したホタテ、新鮮な二枚貝…。なるほど、これを煮ているんだからうまくならないわけがない。
また、日本のラーメンのように添えられた海苔は、シェフの奥様の出身地である福建省産。日本の板海苔とは異なり、空気をはらんで乾燥させた厚みのある海苔で、スープに溶けると、さらに海のうまみが増す。
そしてとっておきのワンタンは、つるりとした舌触りのよさを損なわないよう計算されたかの如く、口に入れるとほどける軟らかさ。
「妻の実家の福建省福州市の名物に、豚腿肉を主材料に、薄くのばして皮を作る扁肉蒸(ピィェンローヂォン:または太平燕)というワンタンの一種があって、本当はそれを作りたかったんです。昔は宴会などでこれがないと宴会にならないと言われていた料理ですね。でも、さすがに行程が多く、原価もかかり、難易度も高くて…(笑)」
そう白岩さんは笑うが、今、この一杯に込められたこだわりは、かなりのものだ。
ランチは麺+定番中華、ディナーは薬膳スープ入りのおまかせ
この「魚貝スープのワンタン麺」も含むランチは、日替わりの前菜2品と、日替わりのドリンク、そしてシェフの出身地である愛媛県産コシヒカリ「三間米」のごはんがセットになって1,200円(税込)。
メインの料理が黒酢の酢豚や麻婆豆腐等の場合は、スープもセットについてくる。
ちなみに夜のメニューは現在のところ、4,500円のコース1本のみ。敢えて高級食材ではなく、身近な食材にしっかり手をかけた料理を少しずつ出すスタイルで、中国で話題になったイノベーティブな料理から伝統的な料理まで、季節の中華を楽しんでもらう意向だ。
コースの中のおすすめを伺うと「季節の薬膳スープです。実は僕、若いころ心臓が弱かったんです。でも、香港で料理の勉強をしていたとき、通っていた中医学の先生に教わったことを日々のスープに反映するようになってから、発作が出なくなったんです。なので、夜のコースでは季節の薬膳的な要素も取り入れていきたいと思っています」と白岩さん。
店名に掲げた〈意境菜〉とは、伝統の調理方法や食材などを用い、中国料理の芸術的な側面をも表現する言葉。北京にある北京ダックの名店「大董(ダードン)」の料理にたびたびこの言葉が用いられるが、北京にも留学経験のある白岩さんがそれをイメージしたのは想像に難くない。
事実、今はとびきりおいしい北京ダックを焼く試作を重ねているとか。さまざまな想いと情熱を込めて、若きシェフが開業した「中国意境菜 白燕」。これからの挑戦も応援したい。
余談だが、白岩さんは子供のころからジャッキー・チェンの大ファンだそうで、いろんなエピソードをお持ちだ。ジャッキーファンの方もぜひ、足を運んでみては?
中国意境菜 白燕(バイエン) 住所:東京都台東区元浅草2-7-10 オルタンシアIV 2F(MAP) アクセス:銀座線稲荷町駅徒歩1分、都営大江戸線新御徒町駅口より徒歩8分、JR上野駅浅草口より徒歩10分 電話:03-6284-4588 営業時間:11:30~15:00(L.O.14:00)17:30~22:00(L.O.21:00) 不定休 |
TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)