吉祥寺で32年。1987年に開業した「知味 竹爐山房(ちくろさんぼう)」が、2019年12月14日(土)を以って店を閉めます。

「知味 竹爐山房」閉店の張り紙。

同店のオーナーシェフは、日本の中国料理界の生き字引的存在であり、業界きっての学究派、山本豊氏。

1960年代、東京文京区の湯島聖堂にあった書籍文物流通会の中国料理研究部に入り、研鑽を積んだ料理人のひとりです。

儒学の地・湯島聖堂。農業と薬の神様「神農」も祀られています。

日本の中華の歴史に名を刻む、湯島聖堂の書籍文物流通会

書籍文物流通会とは、第二次大戦後、中国から引き揚げてきた中国文学者の原三七氏が立ち上げ、彼の教え子である中山時子氏(のちにお茶の水女子大学名誉教授)をはじめとする、学者を中心とした中国文化の研究会。

山本氏が属した中国料理研究部は、その傘下にあった料理専門の組織。主に清朝時代の北京料理の文献を紐解き、料理を再現したほか、講習会の開催、料理のケータリングサービス、さらには研究成果を『中国菜』という冊子にまとめて定期刊行するなど、多彩な活動を行っていました。

要は最初の修行先が、いわゆる〈ふつうの店〉ではなかったのです。

料理人に一目置かれる山本豊氏の足跡

のちに山本氏は、千葉県柏市の「知味斎」を経て、1987年に「知味 竹爐山房」を開業。湯島聖堂仕込みの滋味深い料理がたちまち評判となったのはいうまでもありません。

土鍋入り獅子頭。

また、料理だけでなく、中国料理の歴史や文化にも造詣が深いことから、料理専門書の編集者からの信頼も厚く、後進の役に立つ書籍も多数執筆されました。

特に、木村春子氏の監修となる『乾貨の中国料理』や『野菜の中国料理』(ともに共著)は、山本シェフの持てる技術を余すところなく披露している名著。

『鮮 中国料理味づくりのコツ』など単独の著作でも、シェフの豊かな料理の世界に触れることができます。

『鮮 中国料理味づくりのコツ』の1ページ。(柴田書店 刊)

さらに講師としても各方面で活躍。1986年から中華・高橋の小売り分門「日本橋 古樹軒」で開催される料理教室「中国料理の友」の講師も長年務めていただきました。

「日本橋 古樹軒」の料理教室「中国料理の友」で教える山本豊シェフ。若手料理人も通っていました。2003年に撮影。

山本シェフの料理を味わい、活動に触れ、店の門戸を叩いた料理人も少なくありません。なかでも長く勤められた方は、人気・実力ともにある料理人に。経堂「彩雲瑞(さいうんすい)」の千脇幸夫オーナーシェフや、大阪「一碗水(いーわんすい)」の南茂樹オーナーシェフも同店で修行されています。

中国料理の滋味と伝統が味わえる乾貨の料理

そんな「知味 竹爐山房」の名物といえば、乾貨(乾物)を使った料理の数々。なかでも蝦子(シャーズ:川蝦の卵を乾燥させた調味料)の風味豊かな蝦子海参や、葱の香ばしさ香る葱焼海参など、ぷりんとして舌触りのいいなまこ料理は店の名物でもありました。

蝦子海参(川蝦の卵とナマコの煮込み)。薄切りの筍と干し椎茸とともに、ふくよかに煮込まれています。

シンプルな野菜の炒め、土鍋煮込みなども、山本シェフの腕が冴える滋味深い料理。

春雨と自家製腊肉(干し肉)、腊腸(腸詰)土鍋煮込み

そして特筆すべきは杏仁豆腐でしょう。スッキリと引き締まった味わいと、ツルッと舌の上を滑るような食感で、今では珍しい酒石酸を使ったシロップが特徴。

「湯島聖堂式シンレン豆腐」と呼ばれるこの一品は、酒石酸の酸味が、杏仁そのものが持つ清涼感をそっと後押しするよう。同店の食後を締めくくるにふさわしい、品のある味わいが思い出されます。

湯島聖堂式シンレン豆腐

まだまだ山本シェフの料理を食べたかった…と思っていた方もいらっしゃると思いますが、閉店はよくよく考え抜かれてのこと。現在のところ、昼夜ともに最終営業日まで予約で満席とのことです。


知味 竹爐山房
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-21-8 センチュリーホーム吉祥寺ビル2 B1
TEL.0422-23-3363
営業時間 ※最終営業日まで予約で満席です。
ランチ11:30~14:30(L.O.14:00)
ディナー17:30~22:00(L.O.21:30)
閉店予定日 2019年12月14日(土)


text & photo 佐藤貴子(サトタカ)

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