中国料理の秋冬の風物詩として食卓を彩る上海蟹。その専門店となる「蟹王府(シェワンフ)」が2020年12月12日(土)、東京・日本橋にオープンした。

場所は「三井二号館」の1階。「マンダリン オリエンタル 東京」の裏手、日銀通りに面した東京の一等地に、約330㎡、90席の客席という贅沢な空間が広がる。

「蟹王府」外観(店舗提供)

同店は上海の南京東路を本店とする「成隆行蟹王府」の日本店。中国国内では上海に5店舗を構えており、以前より日本人観光客にも人気の上海蟹専門店として知られる。

同ブランドの海外出店は日本が初。訪れて実感したのは、上海蟹をはじめとする食材、料理はもちろん、各種ドリンク、立地、内装に至るまで、贅を尽くしたレストランを目指しているということだ。

蘇州の刺繍をあしらったラグジュアリーな個室

店内に入ってまず目に飛び込むのは、カウンターと一体化した、天井まであるコの字型のワインセラー。目線の高さにはグラン・クリュのワインがずらりと並び、関心のある方なら上から下まで眺めてしまうことだろう。

調度品も見事だ。個室の壁一面に施された蘭や菊の刺繍は、各部屋の名前にちなんだもの。これらは蘇州の刺繍作家に特注しており、額装された刺繍作品も随所に飾られている。

4室の個室はすべて連結可能。なかでもソファを備えた個室は、中国の接待に使われる場を彷彿とさせる。全体的に、クラシックな雰囲気の上海本店よりもラグジュアリーで、より上質なイメージだ。

個室「菊」。左側には、蘇州の刺繍作家に依頼したという壁一面の刺繍が。店内に飾られた、額装された刺繍も見事だ。

月曜と木曜の週二便!太湖の自社養殖場より空輸で日本へ

料理の要となる上海蟹は、江蘇省と浙江省にまたがる太湖の自社専用養殖場で育てられたもののみを使用している。

その養殖場は、蟹が十分に身体を動かせる十分な広さを保ち、湖底を砂状に整えているというこだわりよう。どういうことかというと、湖底に砂が溜まっていると蟹が歩きにくくなることから、運動量が増え、丈夫でたくましい蟹に育つのだとか。

上海蟹料理は通年提供。活けの鮮度が求められる蒸し蟹のみ、8月から翌3月くらいまでの提供となる。

配送は月曜日と木曜日の週二回、生きたまま航空便で空輸されており、雌は150g以上、雄は200g以上を厳選。季節によっては250g以上が揃い、ちょうど今の時期はパンパンに詰まった雄蟹が食べごろになる。なお、上海蟹を蒸し蟹として提供する時期は、夏から翌3月くらいまでと他店よりも長めだ。

上海蟹料理のラインナップは目下日本随一!

気になる上海蟹料理は、定番の蒸し蟹はもちろん、上海の本店で名物となっている王府蟹醤(日本店料理名:特製氷結蟹味噌)や、蟹王府冰霜蟹(蟹王府特製氷結蟹)清炒蟹粉(蟹肉炒め ポーピン添え)などに加えて、上海蟹料理の定番である豆腐の蟹肉煮込み(蟹黄豆腐)や、板春雨の蟹味噌煮込み(蟹膏銀皮)などよりどりみどり。

特製氷結蟹味噌(王府蟹醤:手前)は、̠̠̠マイナス40℃で氷結させた上海蟹の味噌を固めた同店名物の冷菜。食感は口溶けのよいアイスクリームのよう。
蟹肉炒め ポーピン添え(清炒蟹粉)。ポーピン、とあるのは薄餅のこと。クリスピーに焼かれた生地の中に、蟹味噌で炒めた蟹肉を詰めていただく。
まるでソフトクリームのような!
蟹は剥いてもらえます。もちろん、蒸したて熱々を自分で開き、バキッと割って熱々の味噌や蟹膏をすするのもよし。脚だけ剥くのをお願いするという手もアリ。
南蘇名物 夫婦蟹味噌ソースかけご飯(禿黄油撈飯)。上海蟹が内包する油と味噌、コクのある卵、まったりとした精巣、それらすべて混ざり合ったものをごはんの上へ。うう…(無言)。※写真はコースの1品。

その他、極太で艶やかなフカヒレの金糸と上海蟹の味噌、蟹肉を炒めた贅沢なひと皿もあれば、蟹味噌入り小籠包などの軽食メニューもあり、上海蟹料理の幅は目下日本随一。

メニューは中国の高級店同様、分厚い写真集のような装丁になっていて、眺めるだけでも楽しい気持ちになれる。

グランドメニューは必見。中国の高級店で手にするような写真集スタイルです。

ランチセットから5万コースまでよりどりみどり

「でも、上海蟹って高いんでしょう…」と怯むことなかれ。材料が高価で、それにふさわしい内装の店であるだけに高級店であることに間違いはないが、手が届かない店ではない。

現在のところ、ランチは4価格帯を用意しており、最も手軽なセットは2,800円(前菜、蟹肉入り小籠包、蟹肉入り担々麺、デザート)。

3,800円はフカヒレと蟹肉のかけご飯または和え麺、4,800円はナマコの焼き葱煮こみかけご飯というラインナップで、ランチスペシャルコースは15,000円(上海蟹の姿蒸しを含む8皿)。ナマコがランチセットで用意されているなんて、なかなかだと思う方もいらっしゃるだろう。この煮込みソースが、実にごはんに合うのだ。※すべて消費税・サービス料10%別。

蟹肉入り焼き小籠包。単品で追加もできる。

一方、ディナーコースは25,000円、35,000円、50,000円の3価格帯。内容はその日の仕入れや季節によって変更があるが、最も高いコース「蟹尊」をご紹介すると、九種類の冷菜、南蘇名物夫婦蟹味噌ソースかけご飯、蟹爪と燕の巣入り燕皮雲呑蟹味噌酸辣スープ、吉品干し鮑と北海道干しナマコの煮込み、上海蟹の姿蒸し(雄または雌)、蟹味噌入りフカヒレの姿煮、潮州式和牛の煮浸し、蟹肉炒めポーピン添え、旬の野菜、蟹肉入り小籠包または蟹肉入り焼き小籠包、特選デザート2種類という品書きだ。

もし、過去の上海旅行でイマイチの上海蟹コースを食べてがっかりしたことがある方なら、海外に行けない今、ここで上海蟹コースに行く選択肢はありかもしれない。

蒸し蟹もいいが、個人的には多彩な上海蟹料理に刮目せよ!と言いたい。

また、上海蟹を食べ慣れている方ならば、アラカルトから食べたい料理だけを選ぶのもおすすめ。例えば、同店の高い調理技術を感じられるメニューとして、蟹爪入り燕皮ワンタンの蟹味噌酸辣スープ(酸湯蝤蠓餛飩)がある。

これは叩いた豚肉の上にでんぷん質をまぶし、薄い皮状にした生地(燕皮)で、蛋白かつしっかりとした食感がある上海蟹の爪肉を包んだスープ料理。燕皮はもちろん、蟹味噌の鮮やかな色彩とコクを持ちながら、口中をキリッと爽やかにしてくれる胡椒ベースの酸辣味は、なかなか日本では味わえない。

蟹爪入り燕皮ワンタンの蟹味噌酸辣スープ(酸湯蝤蠓餛飩)。技術力の高さに唸る一品。通好みだと思う。

聞けば、オープン時の厨房のスタッフ7人は全員中国の店舗から選別された料理人が来日。現在、厨房で陣頭指揮を執るのは、上海のレストラン5店舗を取り仕切る張志文(ちょう しぶん)総料理長だ。

張料理長は広東省出身。この日は皆の前で調理プレゼンテーションをしてくださった。

来日されたのは11月半ば。そこから日本の調味料や食材(上海蟹を除く)を使って、納得のいく味わいを出すのは容易ではなかったそうだが、結果的に日本の調味料を使うことで、日本の風土や日本人の舌にも合い、ここに長く暮らす在日中国人も納得する味になるように思えた。なにより、洗練と力強さを備えた上海蟹料理だった。

上海蟹が初めての人も、食べ慣れた人も、それぞれに楽しみ方が見出せそうな「蟹王府(シェワンフ)」。私なら、二度目はアラカルト狙い撃ち、季節が変わればスペシャリテが続々楽しめるコースで行きたいかと。


蟹王府(シェワンフ)

住所:東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井二号館1階(MAP
TEL:03-6665-0958
営業時間:11:00-15:00、17:00-23:00
日曜不定休
個室の利用:ランチは食事代1名15,000円以上合計金額60,000円~、ディナーは1名25,000円以上合計金額100,000円~
★公式サイト


TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)