中華好きにはすっかりお馴染みの、中華料理店ひしめく池袋駅北口〜西口エリア。駅前の密集地帯を抜け、劇場通りを渡った先の「池袋二丁目交差点」近くに、街の人々の胃袋をやさしく支える点心屋さんがあります。
店の名前は「章記点心(しょうきてんしん)」。小さな窓口の店頭にはメニューがびっしり貼ってあり、突如対面したら、圧倒されて迷ってしまいそうなほど。2021年9月下旬現在、イートインは休止中で、テイクアウトとデリバリーのみで営業されています。
「章記点心」を味わい尽くす3つのポイント
「章記点心」では中国のさまざまな点心が食べられますが、ここでは3つの切り口から店の楽しみ方をご紹介しましょう。
①中国の祝祭日グルメ「月餅」「青団」「粽」を楽しむ
中秋節には月餅を、清明節には青団を、端午節には粽を! 中国の伝統祝祭日(節日)にちなんだ行事食が気軽に楽しめるのはこの店ならでは。
毎年、節日を迎える少し前から販売を開始しており、手書きの愛らしい告知にも惹かれます。例えば、現在販売中の中秋節(旧暦8月15日。2021年は9月21日)の月餅ならこのように。
「人在远方🍁胃在家乡(人在遠方・胃在家郷)」
自身は遠い日本にいるけれど、胃袋は故郷へ。
月餅は、上海をはじめ江南エリアで食べられている味とかたちです。餡は鮮肉(肉あん)、蛋黄鮮肉(アヒル塩卵の黄身入り肉あん)、老式五仁(昔ながらのナッツあん)、低糖五仁(甘さ控えめのナッツあん)、芝麻豆沙(ごまとこしあん)の5種類で、一番人気は「蛋黄鮮肉月餅」。
さっそく鮮肉、老式五仁、芝麻豆沙を購入してみました。
写真は、上より時計回りに、白胡麻+ウサギ柄が芝麻豆沙(ごまとこしあん)、暴富(または象・章記)の文字が鮮肉(豚肉あん)、伍仁の文字+ウサギ柄が老式五仁(昔ながらのナッツあん)。
見た目で味の区別がわかるよう、上面の印字を変える工夫がされています。「暴富」とは、僅かな間にたちまち富を得て裕福になること。いかにも縁起物ですね。
注目したいのは、老式五仁(昔ながらのナッツあん)には青紅絲(チンホンスー)が入っていること。青紅絲は千切りにしたみかん、パパイヤ、大根などの皮を、緑や赤に着色し砂糖漬けにした中国の伝統的な菓子の材料。これは低糖五仁(甘さ控えめのナッツ餡)には入っていません。
芝麻豆沙はごまとこしあん。上部に白ごまがみっしりついているのが目印で、香ばしさを加えています。
鮮肉は、上海や蘇州など江南地方では定番の豚肉のあんです。甘口でしっかりとした味付けで、保存料は不使用。
さらに翌日、初訪時は売り切れだった蛋黄鮮肉も入手しました。蛋黄(アヒル塩卵の黄身)は、甘い月餅の中に入ると甘じょっぱい味わいの“しょっぱさ”を引き立てますが、鮮肉月餅では“しょっぱさ”に立体感を与えてくれます。
また、季節変わって清明節の前後には、青団(チントゥァン)という草餅が店頭に。清明節は先祖を供養する中国の伝統的な祭日で、日本のお盆に匹敵するもの。季節は春分の日の15日後、来年2022年は4月5日です。
青団のあんは2種類で、ひとつが咸蛋黄肉松(丸ごとアヒル塩卵の黄身と肉でんぶ)、もうひとつが豆沙(こしあん)。
月餅も青団も、主に上海など江南エリアで食べられている味わいなので、店員さんに「買いに来るお客さんはやはり上海など江南出身の人がほとんど?」と尋ねてみたら「出身地方関係なく、みんな大好きだよ!」と、ニッコリ。
ちょっとでも長く楽しんでもらえるよう、それぞれ節日を迎えた後も少し販売を継続しているそうです。なお、端午節(旧暦5月5日)に食べる習慣のある粽(ちまき)は、通年販売しています。
②普段のごはんやおやつに「肉まん」や「水餃子」を楽しむ
店を昼どきに訪ねると、近隣在住もしくは勤務の方と思しき人たちが、財布片手に行列をつくっていまました。そう、ここはご近所さんにとって、ランチや小腹を満たしたいときうってつけ。
品揃えは中華まんを中心に、ちまき、ワンタン、水餃子、粥、麺類まで充実のラインナップ。わたしも行列の最後に加わり、中華まんとあったかくほんのり甘い豆乳(あま豆乳|甜豆浆)を買って、近くの公園で青空ブランチを。
2個のうちひとつは、「酸菜肉まん」。割り開くと、漬け白菜の酸っぱい香りがふわり。豚肉と酸菜の相性は、中国で人気の料理「酸菜白肉(発酵白菜と豚肉の煮込み)」にもあるようにバッチリ。もうひとつは、「牛肉大根まん」を。長ねぎがたっぷり入り、存在感大。
さらに自宅用に「白菜肉まん」と「肉まん」も購入。家で少し蒸し直していただきました。基本の「肉まん」は玉ねぎとにんじん入り。基本と言えども充実のみっしり肉あんです。
③店主自慢の「塩鶏」や「干し肉」を楽しむ
さらに、店の前でメニューの貼り紙を上から辿っていくと…、下の方に「上海風塩鶏」を発見!
さっそく「塩鶏もください!」と告げたとき、「塩鶏、旨いよ!何故なら…ワタシ作ったからね!」と背後からキリリと語る声が。なんと、声の正体は店主さん。自ら作っていて、ちょうど商品を補充に来たところでした。
さらに引き続きメニューを辿っていくと、一番下に見逃せない告知が。
「干肠,咸肉,腊肉等要秋天开始制作」
ソーセージ、塩肉、醤油肉など(自家製の干し肉類は)、秋から作り始めます
いつ頃から予定しているか尋ねてみると、もう少し気温が下がってから。目安は気温が17度くらいとのことで、平均気温から判断するに、東京では11月くらいでしょうか。仕込んで干したあとに店頭に並ぶ予定です。楽しみですね。
ちなみに近所でラーメン店も経営なさっているそうですが、そちらはなかなか厳しい状況にあるそう。「今はテイクアウトやデリバリーで堅調な『章記点心』をしっかりやっていくよ!365日、休みなし!よろしくね!」と力強い言葉をいただきました。
その流れを汲んでか、板橋区大山で「製造本部」だったところが、「大山店」として間もなくオープンするそうです! 場所は、長いアーケードが続く商店街「ハッピーロード大山」を西方へ抜け、川越街道を北西へさらに徒歩数分。
内装はイートイン用の座席も設置していましたが、当面はテイクアウトとデリバリーのみ。緊急事態宣言の解除とともに、店内で食べられる日もそう遠くないかもしれません。
なお、主な商品はクロネコヤマトのクール便で、全国発送OK。注文票は日本語、中国語両方に対応。いろいろ楽しみたい方は、通販を活用するのもよいですね!
章記点心(しょうきてんしん)
住所:東京都豊島区池袋2-58-8(MAP)
TEL:080-4835-0426
営業時間:8:00-20:00
定休日:なし
章記点心大山店
住所:東京都板橋区大谷口上町4-12(MAP)
TEL:現在の連絡先は池袋と共通
★行事に合わせた商品の補充状況や、現在の大山店の臨時販売情報などは、お店のWeChatアカウントで適宜告知されています。
WeChat ID:sinoyyapple
text & photo :アイチー(愛吃)
『中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。中華料理にまつわるコーディネート、アドバイス、監修などを行う。一つの「食」を愛し、味も知識も徹底的に極めた「偏愛フーディスト」がプロデュースする期間限定レストラン『偏愛食堂』中華料理担当として、多彩な中華地方菜の楽しさを伝える。