「史記」にも記される中国最古の王朝・夏(か:紀元前1900年頃~紀元前1600年頃)から、ラスト・エンペラーの清朝まで、いくつもの王朝が入れ替わってきた中国大陸。

なかでも、殷(いん:紀元前17世紀頃~紀元前1046年)以降の古代国家が興った黄河中流域は、中原(ちゅうげん)と呼ばれる。

ここは国を統治する上の重要な地域として権力争いの場となり、文化の発祥地となってきた。そのことから、中原は転じて「中国」や「天下」の意味を持っている。地位や目的を狙って競う「中原に鹿を逐う(逐鹿中原)」という言葉もここから生まれたものだ。

現代中国において、中原は華北平原一帯となるが、その中心的ポジションにあるのが河南省(かなんしょう)。中国八大古都のうち、安陽、鄭州、洛陽、開封の四大古都を擁すエリアである。

前置きが長くなったが、今回紹介するのは、そんな中国古代史の主役となる河南省のご当地麺・烩面(燴麺|フイミェン|huìmiàn)が食べられる店。(注:この原稿では、簡体字の「烩面」と表記します)

烩(燴|フイ|huì)とは、複数の食材を合わせて煮込むという意味があり、現地では手打ち・手延べの幅広麺を、青菜や肉などと一緒にスープで煮込んだものが、専門店や家庭で親しまれている。

ちなみに日本では「ホイメン」「ホイ麺」などと表記されていることもあるが、ピンインをカタカナ表記にすると「フイミェン」とか「ホェイミェン」が近い。

注文ごとに製麺!ビャンビャン麺と似て非なる烩面(フイミェン)とは?

店は西日暮里駅から新三河島方面へ歩くこと約500m、細身の三角形のビルの一角にある「家庭料理 華氏家(かしや)」だ。

西日暮里駅からいくと、三角形のビルの一面に見えるこの看板が目印。

聞けば、女将さんは河南省の洛陽市出身。烩面は郷里と同じ作り方をしているそうで、強力粉を使い、一晩寝かせた伸びのよい生地を使用。

調理場には草履のような楕円形に整えられた生地がスタンバイしており、注文ごとに生地を伸ばして麺にしてくれる。

L字型のカウンターに8席のみの小さな店なので、目の前で手打ちの烩面を作るところをかぶりつきで見られる。
薄く伸びのよい生地。

生地は両手で伸ばした後、大きな輪をつくり、麺を2つに裂き、さらに2つに裂いて麺にしたら、煮え立つスープの中へどぼん。実はこの麺の作り方、現在日本で広まりつつあるビャンビャン麺の作り方と非常に似ている。

敢えてビャンビャン麺と烩面の違いを挙げるなら、麺の食し方だろう。ビャンビャン麺の王道の食し方が油泼(ヨウポー)と呼ばれる油和えなのに対し、烩面は白濁したスープで煮込んで提供されることが多い。また、烩面のほうがビャンビャン麺より細く裂かれるようだ。

ピロピロの手延べ幅広麺を濃厚白濁スープで召し上がれ!

食材をイチから煮てつくる、全部手づくりだよ!」と女将さんが自信をみせるスープは、店の寸胴鍋で豚骨や鶏などを炊いた自家製。強火で炊いて骨からもエキスを抽出しているため、まろやかで濃厚なうまみがある。

「ビャンビャン麺と勘違いして来る人がいるのですが、私ビャンビャン麺食べたことがないんです」と女将さん。
右端の寸胴鍋が自家製のスープ。河南省では羊のスープが多いが、日本人はクセがある香りを嫌う人もいるので、豚骨や鶏などでとっているそうだ。スープは左の中華鍋に取り分けて、1杯分ずつ麺を煮て仕上げる。

気になる烩面のメニューは、番茄牛肉烩面(トマトと牛肉フイミェン)と、牛肉烩面(牛肉フイミェン)の2種類。

番茄牛肉烩面(トマトと牛肉フイミェン)は、フレッシュトマトをスープと一緒に炊いており、トマトのうまみとほのかな酸味が溶け込んだ一杯。

口にすると、ひらひらと伸ばされた麺とスープが一体となったやわらかな舌ざわりにほっとする。麺を直接スープで煮込むため、軽くとろみのついた食感になるのだ。

具には木耳、押し豆腐の細切り(千張絲)、切り昆布(海帯絲)、うずらの卵(鵪鶉蛋)、香菜が入っているが、これは河南省現地で見られる王道の具の組み合わせ。香菜は苦手な人もいるので、要不要を聞いてくれる。

番茄牛肉烩面(トマトと牛肉フイミェン)900円(税込)。後から時間差で加えた食感のよい青菜もポイントが高い。香菜の有無を事前に確認してくれる。
きしめん状のピロピロとした麺の舌ざわりが心地よい。

白濁スープ×トマト×牛肉か、白濁スープ×牛肉か。味変は油辣椒と黒酢で!

ちなみにこの番茄牛肉烩面(トマトと牛肉フイミェン)、後半は小さな壺に入った油辣椒(ヨウラージャオ)を加えて食べるのが女将さんのおすすめ。これまでのやさしいスープから一転、花椒も効いた辛さが加わり、新たな味わいが楽しめる。

カウンターには専用の調味料置き場が設けられている。左端が油辣椒。
番茄牛肉烩面(トマトと牛肉フイミェン)の味変におすすめ。

一方、牛肉烩面(牛肉フイミェン)は、牛スネ肉の煮込みがたっぷりのって、スープのうまみをダイレクトに感じることができる一杯。

具は番茄牛肉烩面(トマトと牛肉フイミェン)と同じだが、こちらのおすすめ味変調味料はお酢だ。卓上には日本で流通している一般的な酢があるが、お願いすれば鎮江香醋(黒酢)を出してくれる。黒酢が入ると味わいがぐっと締まり、違った表情が楽しめるので、この味変もぜひおすすめしたい。

牛肉烩面(牛肉フイミェン)900円(税込)

烩面以外のメニューはちょっとした冷菜、点心、排骨麺などがあり、1人でふらりと立ち寄って楽しめる雰囲気。

タイミングがよければ、女将さん手づくりの包子(肉まんやあんまん)にもありつける。仕込む時間帯はその日によって異なるが、烩面を食べ、包子を持ち帰れば、翌日の朝ごはんにもちょうどよい。

「家庭料理 華氏家」の店名の通り、昼間はお子さんもやってきてごはんを食べていくなど、アットホームな雰囲気も持ち味。女将さん1人で切り盛りしているので、忙しいときは少し待つことになるが、大らかな気持ちで河南省の家庭の味わいを楽しもう。

日本の居酒屋的なメニューもあるが、下のゾーンの肉まんあんまんに注目したい。

家庭料理 華氏家(かしや)
東京都荒川区西日暮里1-49-9(MAP
TEL 03-3807-9955
営業時間 10:00-14:00 17:00-22:00
定休日 土日祝

※緊急事態宣言期間中およびまん延防止等重点措置がとられている期間は、営業日や営業時間に変更がある場合があります。また、酒類の提供も停止されることがあります。最新の情報は店に直接お問い合わせください。


TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)

参考文献:中国料理技術大系烹調法