北京ダックと成都ダック、その違いとは?

中国料理でローストダックといえば、誰しも頭に浮かぶのは北京烤鴨(北京ダック|北京烤鸭|ベイジンカオヤー|běijīngkǎoyā)でしょう。ダックの皮・白ネギ・キュウリを小麦粉で作った薄い生地(烤鴨餅)にのせ、味噌を塗り、くるりと包んでガブリ。パリパリッとしたダックの皮の繊細な食感が心地よい料理ですね。

『富麗華』の北京ダック。パリパリに焼けた皮の食感と風味は格別です。
小麦粉で作った烤鴨餅(薄餅)に、キュウリや白ネギ、味噌を巻いていただきます。何本でも食べたくなってしまいますね。

一方、冒烤鴨(成都ダック|冒烤鸭|マオカオヤー|màokǎoyā)は四川省成都市の名物。

焼き上がったダック(烤鴨|カオヤー|kǎoyā)を骨ごと大きめの塊にぶつ切りにしたら、麻辣味の熱々のスープで野菜たっぷりの具を煮た冒菜(マオツァイ|màocài)の上にどんっ! 〈烤鴨+冒菜〉というコンビネーションで、実に大胆かつ豪快な味わいです。

スープに使われる香辛料、そして烤鴨の香ばしさがいきいきと香り立ち、鮮やかなスープの赤色も手伝って、冒烤鴨は目の前に現れるやいなや、一気に食欲がわく料理です。テーブルに運ばれたら、先ずは大きな塊の烤鴨をガブリ。熱々で麻辣味のスープをまとったダックを頬張れば、美味くないわけがない!

冒烤鴨。骨付きのままぶつ切りにされた鴨肉は食べごたえ抜群!NHK『突撃!ストリートシェフ』で紹介されたのをご覧になっていた方もいたのでは?(初回放送2021年10月)
冒烤鴨が浸っている冒菜。麻辣味のスープの中には野菜をはじめ具がたっぷり。これだけでも食事になりそう。

ところで「皮のパリパリ感、なくなっちゃうのでは…?」とのご心配は無用。確かに軟らかくはなりますが、ローストした香ばしさを残しつつ、スープのスパイス香と相まって、それ単独にはない奥行きのある風味が生まれます。冒菜のたっぷりの具材とともに、飽きずに楽しめるのも魅力ですね。

そんな冒烤鴨を、東京で食べられる店が増えています。偶然ですが、どちらの店も2022年の冬に提供を開始。早速駆けつけました!

新小岩『楽串』で濃厚火鍋風味の冒烤鴨(マオカオヤー)をキメる

新小岩『楽串』の冒烤鴨。

2021年7月、麻辣風味の串料理である鉢鉢鶏(ボウボウジー|钵钵鸡bōbōjī)と冷串の専門店として開業した『楽串』が、2022年11月から冒烤鴨の提供を始めました。

現在のメニューは、冒烤鴨と自身で具を選べる冒菜の二本柱で、スープは重厚感のある麻辣火鍋タイプ。食べるときは白飯も注文し、厚切りのダックに濃厚な風味をしっかりと絡ませて、肉塊をごはんの上へワンバウンド! グワッと掻き込むのもまた一興。

ごはん茶碗の何倍もあるステンレスボウルで提供。冒烤鴨は1,980円(税込2,178円)、ごはん200円(税込220円)。ボリュームたっぷり!
ごはんの上でワンバウンド!ダックのエキスたっぷりの麻辣汁が絡んだ白飯もまた美味。

さらに冒菜の具材がたっぷり入っているのも嬉しいもの。数えてみると、秘制麻辣牛肉(秘伝の麻辣牛肉)、嫩鴨血(プルプルと柔らかに鴨の血を固めたもの)、鹵鵪鶉蛋(うずら卵のスパイス煮)、豆腐皮(干豆腐)、黒木耳(黒キクラゲ)、蓮藕片(レンコンの薄切り)、西蘭花(ブロッコリー)、小竹笋(姫筍)、豆芽(もやし)と9種類も! 肉も野菜もたっぷりとれて、食べごたえ十分ですね。

薬膳スープは昆布が決め手!高田馬場『花椒 SUGAR & SPICE』の冒烤鴨

高田馬場『花椒 SUGAR & SPICE』の冒烤鴨(マオカオヤー)。メニューに「四川風麻辣北京ダック」という日本語が添えてあるのは、日本人もイメージしやすい配慮からかもしれません。

2022年初めにオープンした当初から、冒菜や麻辣湯やを提供していた『花椒 SUGAR & SPICE』。冒烤鴨がメニューに載ったのは12月上旬頃で、これが開始早々に大好評! 30羽近く用意しても、夕方前に完売する勢いだったそうで、瞬く間に人気メニューとなりました。

私も初めて訪れたときは売り切れ、のちに電話で問い合わせたらやはり売り切れ、さらに臨時休業なども挟み、数回目のランチタイムでようやくありつけたという経験があります。

冒菜の汁は28種類のスパイスを組み合わせた薬膳スープがベース。そこへさらに昆布がたっぷり! だしがしっかりとした、ごくごく飲めるスープです。注文時、香菜とニンニクの有無、入れる場合は量を確認されるので、好みで追加してもいいでしょう。

結び昆布がいい仕事をしています。

スープは『楽串』の濃厚な火鍋風とは好対照に、サラリとした質感が持ち味。ここでも白飯を追加したのですが、ごはんを浸すようにスープ多めに注いで、雑炊風に食べるのがよし。

冒烤鴨は2,480円(税込)、ごはん100円(税込)。食べごたえあります!

冒菜の具材は、干絲(干し豆腐の千切り)、腐竹(乾燥棒湯葉)、鴨血(鴨の血を固めたもの)、香腸(ウインナー)、金針菇(えのき茸)、黒木耳(黒キクラゲ)、鵪鶉蛋(うずらの卵)、白菜、玉蕈(しめじ)、小竹笋(姫筍)、花椰菜(カリフラワー)、粉条(春雨)、豆芽(もやし)。こちらも盛りだくさんでした!

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冒烤鴨はどちらの店も大きなボウルや鍋で提供され、ボリュームたっぷり。店内を見渡すと、2~3名で1皿を囲み、各自ごはん片手にシェアしていたグループもちらほら見かけましたが、胃袋に自信のある方は、美味が詰まった冒烤鴨を独占して堪能しちゃいましょう! 残ったらお持ち帰りもOKです。両店それぞれ違った味わいを楽しめるので、ぜひ食べ比べもしてみてくださいね。

記事でご紹介したお店

楽串
東京都葛飾区西新小岩1丁目2-6 h.tビル1F(MAP
TEL 03-6657-7156
営業時間
平日 17:00-23:00
土日祝 11:30-15:00 17:00-23:00
無休
★冒烤鴨は1,980円(税込2,178円)、ごはん200円(税込220円)。

花椒 SUGAR & SPICE
東京都新宿区高田馬場3-5-6 月の雫ビル1F(MAP
TEL 03-5937-4989
営業時間 11:00-21:00
不定休(販売状況や仕入れにより、臨時で中休みがあります)
★冒烤鴨は2,480円(税込)、ごはん100円(税込)

※金額や内容等は取材時のものであり、変更の可能性があります。


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。中華料理にまつわるコーディネート、アドバイス、監修などを行う。一つの「食」を愛し、味も知識も徹底的に極めた「偏愛フーディスト」がプロデュースする期間限定レストラン『偏愛食堂』中華料理担当として、多彩な中華地方菜の楽しさを伝えている。★アイチー執筆・出演記事はこちら