立春を過ぎたが、寒の戻りで寒い日が続いている。鍋などで温まりたいところだが、鍋の具の定番、白菜を持て余してはいないだろうか。

そこで中国料理の出番だ。中国料理は、野菜をおいしく食べる技の宝庫。白菜ただ一種類でも、主役を張れる料理がある。なかでもすぐ作れて、断トツで白菜を大量に消費できるのが醋溜白菜(ツゥリゥバイツァイ|cùliùbáicài|白菜の黒酢炒め)だ。

たかが白菜4分の1、されど4分の1。

甘酢ととろみは永遠の友達。白菜と酸味は永遠の恋人。

醋溜白菜の醋溜(ツゥリゥ:cùliù)とは、酢の酸味が効いた(=醋)滑らかな食感(=溜)を意味する。味付けは、平たくいうと甘酢の一種だが、酢豚とは違い、甘さよりも酸味が立っている。

このほのかな甘みは重要なポイントで、砂糖の甘味が酸の角を和らげ、ごはんに合うおかずへとがっちりシフトさせている。冷たくて酸っぱい料理は酒のつまみや前菜のイメージだが、温かくて酸っぱい料理はごはん泥棒になるのだ。

東新宿「山西亭」の醋溜白菜。料理が一巡したあとに、またこの醋溜白菜を注文したくなる人は少なくないはず。白菜一種類の潔さと、山西老陳醋の酸味がクセになる。

また、なんでもない白菜をとろんと包み込むとろみも食欲を加速させる。醋溜は山東省や山西省など中国北方でよく見る調理法で、白菜はもちろん、卵と羊肉や牛肉をとぅるとぅるに炒めた醋溜木須(ツゥリゥムーシュ|cùliùmùxū)なども定番の一品。これまた瞬時に皿の上から消える飯の友だ。

白菜は酸味との相性も非常によい。中国料理には、白菜を酸っぱく乳酸発酵させた酸白菜(酸菜)という漬物があるが、こちらも鍋や餃子にすると箸が止まらないおいしさ。ただ、手軽さという点では、炒めてすぐに食べられる醋溜白菜に勝るものはない。

飲むように食べられる!中国の無限白菜、醋溜白菜(白菜の黒酢炒め)のレシピ

レシピは一度作ったら忘れないくらい簡単だ。ポイントは、醋溜という料理名のとおり、酸味を効かせた甘酢であること。そしてトゥルッと口当たりのよい食感に仕上げること。調味料と片栗粉をひとつの碗に合わせてから調味する、失敗のない作り方を紹介しよう。

<材料:目安:7寸皿1皿分 ※概ね2人分>

白菜 約400g(4分の1にカットしたものを5~6枚)
にんにく 1片→潰して粗みじん切り
しょうが 1片→小さく切る
唐辛子(乾燥)1~2本
油 大さじ1杯程度
ごま油(焙煎タイプ)あれば少々(なくてもよい)

合わせ調味料
砂糖 大さじ1杯+小さじ1杯
黒酢 大さじ2杯
醤油 大さじ3杯
水  大さじ3杯
紹興酒 大さじ1杯(なければ日本酒または水でもOK)
片栗粉 大さじ1杯弱

<作り方>
①合わせ調味料をつくる。

味の骨子は、砂糖、黒酢、醤油だ。合わせ調味料を作る際の割合は、砂糖:黒酢:醤油=1:2:3が目安(レシピ通りだと砂糖は1.3だが、覚えやすいよう1:2:3とする)。酢が優勢だが甘味もあるさじ加減ならOKだ。黒酢は中国四大醋のひとつで、中華食材店でよくみる「山西老陳醋」がおすすめ。

左から、砂糖(きび砂糖)、黒酢(山西老陳醋)、醤油(キッコーマンしぼりたて生しょうゆ)。中国のレシピだと黒酢が多いものもよく見るが、使う黒酢や醤油によって味わいの濃さや香りが異なるので、ゆくゆくは自分好みのバランスを見つけてみてほしい。
今回使ったのは、山西省が誇る「山西老陳醋」。複数の穀類を合わせて発酵させた「大曲」を用い、3年間熟成させており、アミノ酸が豊富に含まれた複雑な味わいが特徴。ブランドは水塔だ。
②合わせ調味料に水分と片栗粉を合わせる。

食感の決め手は片栗粉で決める。割合は、合わせ調味料(砂糖+黒酢+醤油):水:酒:片栗粉=3:3:1:1弱。酒がなければ水でも構わない。調味料に水分を加えた後、片栗粉を大さじ1杯弱を混ぜ合わせる。

調味料、水、酒、片栗粉を入れた状態。片栗粉は減らす分にはいいが、これ以上入れると固くなりすぎる。
③薬味を刻む。

中国料理らしい香りを下支えするのは、にんにく、生姜、唐辛子だ。にんにくは包丁の腹で叩き潰してから粗みじん切りにすると、香りが出やすく、口に入れたときに角が当たらない。

生姜は薄切りにしてから細かく切る(みじん切りにしなくてよい)。唐辛子は、辛さを加えたければ輪切りにし、辛さをほぼ加えたくなければそのまま使おう。

唐辛子は刻んで炒めるとまあまあ辛くなる。辛味が苦手な人は刻まずに使おう。
④白菜をそぎ切りにして、芯と葉を分けておく。

続いて、白菜をひと口大のそぎ切りにする。外側の大きな葉は、幅4~5cmになるよう縦に切ってから、根元側から斜めに包丁を入れていく。

4分の1カットで売られていた白菜を、さらに縦2分の1に。
根元の部分をそぎ切りにする。

実はこの切り方こそ、醋溜白菜の“溜”をさらに心地よくしてくれる重要なポイントだ。断面がブツッと90度に切れている白菜と、そぎ切りで60度くらいになっている白菜では、火の通り方や口当たりが全く異なる。そぎ切りでなければ失敗!といいたいくらい違うので、白菜は斜めに切る!と覚えておこう。

切った白菜は、白い芯の部分と葉の部分を分けておく。なぜなら、芯と葉では火が通るまでの時間が異なり、時間差で炒めたほうがよいからだ。

白菜の根元の部分(左)と葉の部分(右)。根元の方が火を通すのに時間がかかる。
⑤薬味を炒める。

中弱火でにんにく、生姜、唐辛子を炒め、香りを出す。この後白菜の芯を炒めるので、香りが出たら次のプロセスに進む。

この後比較的長めに炒めるので、焦がさないよう、香りが出たらすぐに白菜の根元を鍋に入れる。
⑥白菜の芯を炒める。

白菜の芯の部分を入れて中火で炒める。目安は、そぎ切りにした部分が半透明になるくらいまで。この分量と火加減だと、およそ2分程度が目安となる。白菜の厚みにもよるが、食べたときのとろっとした感じをより重視するなら、少々長めに炒めてもよい。

根元の部分をばさぁ。加熱前はピンとしている。
炒めてから2分20秒くらい。そぎ切りにした部分が半透明になり、全体に油が回り、うっすらと透明感がでている。
⑦白菜の葉を炒める。

芯の部分が半透明になってきたら、葉の部分を入れて炒め合わせる。水分を多く含んだ白菜の葉は、鍋に入れるとバリバリとした炒め音が出る。その音を料理のBGMに、油を全体に回すようにしながら、葉がしなっとなるまで炒めよう。目安は1分程度だ。

葉の部分は、調味料がなじみやすいようしなっとするまで炒める。
⑧合わせ調味料を入れて炒め合わせる。

白菜の葉がしなっとしたら、合わせ調味料を鍋の中に注ぎ入れる。片栗粉は水分に沈殿するため、必ず混ぜ合わせてから入れよう

片栗粉入りの合わせ調味料は、片栗粉が碗の底に沈殿しているので、必ず混ぜ合わせてから入れるのを忘れずに。

調味料を入れたら、ヘラなどで全体に味が絡むように手早く炒め合わせる。火加減は中強火。ぐつぐつと大きな気泡と黒酢の香りが立ち、全体がひとつにまとまってきたら盛り付けだ。

盛り付け直前に、小量の焙煎ごま油をたらっとたらしてフィニッシュしてもいい。万人受けする風味に仕上がる。

白菜の使い道に困ったら、この一皿で解決!

白菜だけだが、白菜だけと侮るなかれ。複雑みのある黒酢の香り、熟成した醤油のコク、砂糖の甘みがとぅるんとぅるんのとろみになって、白菜をおいしい湯気で包み込む。口にすれば、塩味や醤油味では見えなかった白菜の魅力が輝きだす。

醋溜白菜(白菜の黒酢炒め)

さらにこの料理のいいところは、スーパーやデパ地下の惣菜で買いやすい豚肉料理によく合うことだ。肉まんや餃子、肉団子を買い、家で醋溜白菜をつくれば、味のバランスも合う上、野菜不足も補えて一石二鳥!

酸味のある料理が苦手という方も恐れるなかれ。温かくて酸っぱい甘酢なら、想像以上に箸が進むこと請け合いだ。

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RECIPE & TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)