【宮保】gōng bǎo ゴン バオ
中国には、人名にちなんだ料理がいろいろあります。この「宮保(ゴンバオ)」もそのひとつ。諸説ありますが、清の時代の四川総督で、皇太子の教育係「太子太保」の称号を得た丁宝禎(ディン バオ ヂェン)のニックネーム、「丁宮保(ディン ゴンバオ)」が由来です。
その彼が愛した料理が、爆の技法で鶏を調理した「鶏とピーナッツのピリ辛甘酢炒め」。丁宮保がいつも頼む、ということで、いつしかこの料理は「宮保鶏丁(ゴンバオ ジーディン)」と呼ばれるようになりました。


そんな「宮保」が時を経て、一躍脚光を浴びたのが2003年のこと。世界では3番目、中国で初めて打ち上げられた有人宇宙船「神舟五号」に、なんと宇宙食として宮保鶏丁が用意されたのです。では、宇宙でも食べたい「宮保」とは、いったいどんな味付けなのでしょうか?
それは言うなれば、華やかな辛さ、軽快な食感、そして食欲をそそる酸味の融合です。調味のプロセスは、油に花椒を入れ、弱火でその香りを移して花椒油を作り、そこに唐辛子を入れ、赤黒く色づくまで弱~中火でじっくりと加熱。目と鼻に麻辣の刺激を受けるような薫り高い油ができたら、それを用いて食材を煽り、最後にナッツと甘酢醤油味のあわせ調味料で炒めたらできあがり。
食材は、鶏はもちろん、鶏と味が似ているカエルや、冬においしくなる牡蠣、コクのある白身がおいしい田ウナギ、海老など。淡白な味わいの肉や魚介と相性抜群。使える食材のバリエーションが豊富なのも、この調理法が中国全土に広まった理由かもしれません。

ちなみに、「宮保鶏丁」とよく似ている料理に、「腰果鶏丁(イャォグゥォ ジーディン)」がありますが、こちらは辛くない広東料理。味付けに花椒と唐辛子を使うと四川料理の宮保鶏丁になります。また、日本ではどちらもカシューナッツを使いますが、本場中国では「宮保」は辛くてピーナッツ入り、「腰果」は辛くなくてカシューナッツ入り、と覚えておくといいでしょう。
「宮保」な料理
![]() (宮保×鶏肉×賽の目切り) |
![]() (宮保×つぶ貝×薄切り) |
![]() (地名×宮保×エビ) |
![]() (エリンギ×宮保×牛肉) |
参考文献
『中国料理用語辞典 決定版』井上敬勝 著(日本経済新聞社 1997年)
『中国料理小辞典』福冨奈津子 著(柴田書店 2011年)
人民日報日文版
compitum(コンピトゥム)
wikipedia 丁宝テイ
Text 佐藤貴子(ことばデザイン)