【烤】kǎo カオ
烤とは、日本語漢字には無い中国語漢字のひとつですが、日本人なら誰でも知っている中国料理にも使われている調理方法を表す言葉です。その料理は何かと言うと、「北京ダック」です。中国語での北京ダックは「北京烤鴨 běi jīng kǎo yā」となるのです。
北京大董烤鴨店 (トリップアドバイザー提供)
炸(zhá)や、煎(jiān)のように油などを媒介とせず、直火または窯などで熱気を用いて加熱する調理法が、烤になります。
日本人の感覚で分かりやすい烤のイメージはというと、直火を用いて焼台で焼き鳥(烤鶏肉串)を焼いているところ。または網に乗せてスルメを炙っている(烤干鱿鱼)ところ。さらには直火でなくとも、窯(烤炉)の中の熱気でピザを焼いているところなども、烤に含まれます。
炎の熱や、炎で温められた空気を媒介として加熱する調理方法が「烤」。
窯の中にぶら下げる掛炉烤(guà lú kǎo)で作る北京ダックや、叉子(chā zǐ)という先端が二又になった棒状の器具で刺して炉の上にかざす叉烤(chā kǎo)で作る仔豚の丸焼き(烤乳猪)のウリは香ばしくパリッと焼けた皮ですよね。それは、油を使わずに高温で加熱できるうえ、炙り加減次第で食材の表面だけをパリっと仕上げることができる烤だからこその技なのです。きれいな焦げ目や香ばしい香りを与えるために、北京ダックや仔豚の丸焼きを出す高級店には、熟練の烤専門の職人がいるほどです。
また烤は、焼く状況によって加熱温度の調整が容易なため、中国の路上でよく見かける”烤羊肉串”(羊肉の串焼き)のような小さなものから、大宴会でもなければお目にかかれない”烤乳猪”(仔豚の丸焼き)のようなの大きなものまで素材のサイズに関係なく用いられる調理方法でもあるのです。
仔豚の丸焼き
「烤」な料理
北京烤鴨 (地名×焼く×カモ) |
烤乳猪 (焼く×仔豚) |
烤(kǎo) と焼(shāo)
烤を日本語に訳した場合「焼く」に当たりますが、中国語のメニューには「焼/烧(shāo)」という文字も目にします。この場合は「焼き物」ではなく、「汁の中に食材を入れて煮て、味を入れるためにある程度煮詰め」た料理となります。例えば「ふかひれ姿の醤油煮込み」は「紅焼(hóng shāo)排翅」となり、「エビのチリソース煮」は「干焼(gān shāo)蝦仁」となります。
さらに厄介なことは、広東料理(広東語)の場合の「焼/燒(siu)」は、日本語とおなじ「焼く」になるということ。であるにも関わらずシュウマイは「焼売(siu maai)」 と書いても、蒸し料理だという。でも「焼売」は、日本でもほとんどの人に認知されている料理ですので、そこは問題ないですよね。
中国の街角で見かけた「烤」な看板
参考文献
『中国料理技術大系 烹調法』社団法人日本中国料理調理士会 編(2000年)
Text 小杉 勉