同じ中国とはいえ大陸は広大。3シェフそれぞれが想いを馳せる、まだ見ぬ土地の中国料理とは…?

もう一度留学するならこんな場所

――ところで最近は中国の反日デモや尖閣諸島関連のニュースをよく耳にするようになりましたね。

陳 ――ご両親が反日感情を持っている家庭で育つと、どうしてもそういう意識は植え付けられていきますよね。みんなすごくいい人なんですよ。でも、そういう教育なんでしょう。また、流行るとみんなそっちに流れていくっていう国民性も、ああいう暴動に繋がるのかもしれません。レストランも、ある料理や店舗がちょっと流行ると、似たようなものが次々増えていきますしね。また、政治がごちゃごちゃすれば、反日感情も荒れてくる。僕、外に出て、何回も巻き込まれましたもん。何回喧嘩売られて殴られたかわからないです。

――インネンつけられた、と?

陳 ―― 一番すごかったのが、タクシーに乗ったら、いきなりタクシー開けて殴ってきた人がいたことです。

――全く関係ない人ですよね?

陳 ――「お前は日本人だ!」みたいな感じで言われて。「だから何?」って感じなんですけどね。別にチャラチャラした格好じゃないんですよ。普通のTシャツにジーパン着ているだけで。それで最初の頃はやり返してたんですが、野次馬もたくさんくるし、しばらくしてから、絶対やっちゃいけないってわかりました。

高木――旅順の203高地に行ったときも反日感情を感じたな。日露戦争の激戦地。


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――あのあたりも日本語しゃべっちゃ駄目だって言われますね。

高木――乃木大将の次男坊が戦死したところがあるんだよな。その写真が貼ってあるんだ。日本刀で首を落としているところなんかがさ。

忍者
忍者:wikipediaによると「鎌倉時代から江戸時代の日本で、大名や領主に仕え諜報活動、破壊活動、浸透戦術、暗殺などを仕事としていたとされる、個人ないし集団の名称」。明治以降、活躍の場を失った忍者は、のちに警察関係などの職に就いたそうです。

陳 ――しかし、冗談抜きで「日本には忍者がいる」って思っている人がいるくらいですから、わかっていない人も多いのは事実です。一方、しっかり教育を受けている子、海外へ留学している子なんかですと、そのへんは理解していますね。彼らに尋ねてみると、「正直なところ、やっぱり中国のそういうところは恥ずかしい」と言われます。

――そんな日中関係ではありますが、今後留学してみたい場所や、旅行でもいいので訪れてみたいところはありますか。

小林――僕は中国本土ではなく、シンガポールあたりに行ってみたいですね。あっちの人って感覚がいいって昔から言われているじゃないですか。コンラッド東京・チャイナブルーのアルバート・ツェさんもシンガポール出身ですね。

――新丸ビルの四川豆花飯荘も、もともとはシンガポールのお店ですね。

小林――そうそう。あとベトナムもいいらしいですよ。ベトナムのホテルの中に入っているチャイニーズとか、何かセンスがいいらしいです。味というよりは、高木先生がおっしゃられた盛り付けとか、プレゼンテーションのセンスが洗練されているみたい。

高木――僕はね、やっぱり中国全土を回りたい。夏にハルピンに渡って、10日くらいかけて南下してきたら東京に戻って1週間滞在する。そしてまた10日行って…っていう感じで。それが夢。


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陳 ――それ、やりたいですよね。

高木――やっぱり自分が中華で食ってきたわけだから。

小林――夏に北からスタートしたいですよね。

高木――冬にマイナス25℃くらいの冷凍庫入りに行ってもしょうがないからな(笑)。

小林――四川の冬ってどんな感じなんでしょうか。

陳 ――話ではすごく寒いと聞いていたんですが、実際そうでもないです。成都だったら東京よりちょっと寒いくらい。雪はほとんど降りませんが、最近になってちらつくようになったみたいです。
それと、ジメジメと空気の汚さがすごいです。冬はそうでもないですが、東京に比べたらかなり湿度は高いですね。大学の宿舎に住んでいたころ、洗濯物が3日くらい乾きませんでした。

高木――そして、湿度が高いから辛い料理食べる。

陳 ――汗をかいて、新陳代謝よくしないといけないですから。

――建太郎さんは、四川以外のエリアで留学してみたいところはありますか?

陳 ――中国は、休みを見つけてはちょこちょこと短期間で行っていましたけれども、特にここに行きたいとなると、結局僕は四川省になっちゃいますね。成都の周りは攻め尽くしたんですが、おじいちゃんの故郷よりさらに田舎、つまり「本当に田舎」っていうのは全然行けてないんです。あのへんって、ちょっと離れるだけでものすごく料理が変わるんですよ。
実は、まだ言葉がよくわからない頃に休みが2日間もらえたことがあって、「俺の田舎に来い」と誘ってくれた子がいたんです。それでついて行ったら、電車で10時間。場所は僕のおじいちゃんの田舎の宜賓(イーピン ※ページ下の地図をご参照ください)から、さらに電車で何時間か乗ったところ。駅に着いたら夜中で、電気も何もない。そこをロウソクを持って歩いていって、家に着いたら「ここは縄文時代か!?」って感じで。トイレも穴を掘っているだけです。 僕としてはごはん食べるのも怖かったんですが、そこで自家製のピータンが出てきたんですよ。


(A)成都市 (B)宜賓市 成都市と宜賓市は約268km。鉄道では約6時間半の移動になる。
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高木――それ、感動ものじゃん。

陳 ――でも、夏だったのでそれを食べるのが怖かったです(笑)。

小林――田舎のトイレとか見ちゃうと、もうねぇ。

――料理はどうでしたか?

陳 ――めちゃめちゃ辛かったですね。びっくりしました。あと、芽菜扣肉(ヤーツァイコウロウ)じゃないですけど、その家の父ちゃんが豚肉を家でブワーって揚げて、それを汚い洗面桶みたいなものに入れて、皿の上にひっくり返したものが出てきました。型はもうぐちゃぐちゃなんですけど、おいしいんですよこれが。皿にキティーちゃんらしき絵が描いてあったりしながらも、旨いなこれ、と(笑)。
中国に行くと、だいたい1週間くらいで、知り合いのところを挨拶して回って…ってという感じで終わってしまうんですが、本当はそういうところにもっと足を運んでみたい。だから、僕はまだまだ四川ですね。

芽菜扣肉(ヤーツァイコウロウ ):芽菜とは四川省を代表する野菜で、主に漬物として使用。担々麺のや肉類などの調味などに頻繁に用いられる食材。扣とは中国語で「容器を伏せる、被せる」という意味。料理用語としては、型に入れてひっくり返して皿に盛る料理全般を意味する。

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Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo (人物)林正 / (料理)80C編集室