資源を守って豊かになる、ホタテ漁のエコシステム。

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ホタテの水揚げ日本一!北海道最北の村・猿払の歩み。
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美味を生み出す「うまみの宝石」。猿払産干し貝柱ができるまで

猿払をはじめ、オホーツク沿岸のホタテ漁は「地まき」、すなわち海底に稚貝をまいて育てる漁業が主流です。イメージとしては、農作物を育てるような栽培漁業というと、わかりやすいかもしれません。

では、具体的にどんなサイクルで動いているのでしょう。猿払の場合、ホタテが生息できる水深60mくらいまでの海区を5つに分割し、毎年違う海区に、あらかじめ1年間育てた稚貝を放流しています。

海上で区分けされた漁場。分割した放流エリアは「輪採区」と呼ばれます。

区分けした漁場は「輪採区」と呼ばれ(上の写真を参照)。ここで順番にホタテを育ててます。具体的には、毎年3月に海底の状態を整備し、4月に稚貝をまき、丸3年間海底でじっくりホタテを成長させたのち、4年目に収獲するのが基本サイクル。

そこで環境やホタテの状況をみながら、収獲しているのは3年~5年もののホタテです。特に4~5年目のホタテは厚みがあり、大きくぷりっとしているのが特徴。厚みがあるということは、繊維が太く、さらに長くなるため、干し貝柱に加工したときも存在感がでます。

なかでも6月から11月頃までの漁期において、7月~8月はホタテがエサをたくさん食べて貝柱が大きく成長する時期。この時期に収獲されたものを干し貝柱に加工すると、大きく、より価値の高いものとなるのだそう。

ホタテの年齢は貝殻の模様でわかります。冬は流氷の影響で海水温が下がるため、帆立の成長が一旦停止。それで貝殻に年輪のような模様ができるそう。

年間145日は自然の定め。無理のないサイクルで豊かな海を育む。

また、漁に出ることができる自然条件も定められています。まず、波の高さは2m50㎝まで。さらに猿払限定の風速予報もあり、すべては状況を見ての判断です。しかし不思議なことに、例年、年間に漁師さんが稼動する日数は、145日前後に安定しているのだとか。

漁の準備をする幸栄丸。

漁に出る日は、漁師さんは朝4時に港に集合。各漁船は漁協が定めた漁場へと出港します。漁法は「八尺」と呼ばれる熊手付きの袋網をつけ、海底を引いてホタテを獲る桁引き漁法。仕事の早い漁師さんの場合、10時過ぎには港に戻り、水揚げをして仕事を終えます。訪れた日は残念ながら波が高く、収獲は見られませんでしたが、これもまた自然の定めです。

八尺と呼ばれる熊手付きの袋網。

参考までに、噴火湾や陸奥湾のホタテは「地まき」ではなく、稚貝を海中に吊るして育てる「吊るし」を採用しています。この方法は、貝が地底に着かず、砂を噛まないので、むき身にしてボイルホタテで出荷されることが多いそうです。

一方、猿払の「地まき」のいいところは、栽培調整をしながら自然発生のホタテも期待できるところ。「2016年から天然発生のホタテが出てきたんだよ。神様がサービスしてくれたね」。ベテランの漁師さんが顔をほころばせながら話してくれましたが、近年は水揚げのうち、約半分は自然発生したホタテとなっている点は見逃せません。

ホタテの水揚げ。収獲は1度の漁で3~4トンほど。クレーンで引き上げます。(画像提供:猿払村漁業協同組合)

40数年の時を経て、かつて枯渇した海が再び生命を育み始めた今。往年を知る漁業者であれば、感慨もひとしおでしょう。次のページでは、いよいよオホーツク海のホタテを用いた、干し貝柱製造の現場をご紹介します。

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