美味を生み出す「うまみの宝石」。猿払産干し貝柱ができるまで。

ホタテの汚れを落とし、殻、貝柱、ヒモなどを分け、乾燥して、干し貝柱を作る。こう聞くと、単純そうに感じるかもしれませんが、常に質の高い、商品としての干し貝柱を作り続けるためには、すべてのプロセスにおいて緻密なコントロールが欠かせません。

いったいどんなプロセスを経て、あの「うまみの宝石」ができあがるのでしょうか。順を追って見ていきましょう。

CONTENTS
ホタテの水揚げ日本一!北海道最北の村・猿払の歩み。
資源を守って豊かになる、ホタテ漁のエコシステム。
>美味を生み出す「うまみの宝石」。猿払産干し貝柱ができるまで(このページ)
①高温の蒸気を当て、貝殻と中身を分ける「一番炊き」

オホーツク海沿岸では、水揚げしてすぐ加工に入るところもありますが、猿払では水揚げしたホタテを1日置きます。それは、1日置いた方がよりうまみが乗ってくるためです。

殻付きのまま洗浄されるホタテ。

収獲の翌日、貝についた砂などの汚れを洗い落としたら、貝殻を開けやすくするために110度の蒸気で加熱します。これは「一番炊き」という作業。加熱によって、ホタテは貝殻と中の軟体部に分かれます。

「一番炊き」の後、口の開いたホタテを確認するプロセス。
殻から取り出された一番炊きのホタテ。
②手作業で貝柱のみを取り出す

殻から取り出されたホタテの身から、ヒモやウロなどを取り除き、貝柱のみに加工します。このプロセスは、すべて人による細かな手仕事。取り出された貝柱は、見た目の大きさで分類し、サイズ別に作業をすすめます。

貝柱からヒモやウロなどを取り除きます。
刺身用にホタテ貝柱として販売されているのはこの形ですね。

③干し貝柱の塩分を決める「二番炊き」

貝柱を取り出したら、分類したサイズごとに強めの塩水で炊く「二番炊き」を行います。塩分濃度は貝柱の大きさや煮汁の状態などを見ながら判断しますが、平均すると6.5%前後。10キロ単位で30~40分、味をみながら、中まで火が通るようにゆでます。

ちなみにこの「二番炊き」はこのまま食べても非常に美味。干し貝柱を作る日限定で、漁協直売所で一部を販売しており、漁協で「つまむとこれ1個では絶対に収まらない」と言われるほど。口にすると、浜の香りに、ぶりんとした歯ごたえ。日本酒好きにとっては、これ以上ないおつまみになるはず。

「二番炊き」した貝柱。干し貝柱を作る日に、漁協の直売所に一部売り出されます。賞味期限は2日間のみ。地元に住む人ならではの楽しみです。

さらに、二番炊きを一歩進化させたのが「ソフト貝柱」。1粒ずつ真空パックになっており、これもまたやめられない止まらない。ほたてはどの段階においても美味ですが、この二番炊き、ソフト貝柱を食べると、乾燥とともにうまみが凝縮されていくさまが味わえます。

「ソフトほたて貝柱」は漁協直売所価格
④高温で乾燥させる(焙乾)

塩気を吸い、ゆで上げてぷっくりとした二番炊きの貝柱ができたら、続いては焙乾装置で乾燥させます。温度は70~80度で、時間は約30分間。ここでも貝柱の状態を見ながら、全てが均一に乾燥するよう調整していきます。

二番炊きの貝柱を「焙乾」。
⑤低温で乾燥させ、寝かせる(焙乾・あん蒸)

焙乾後の貝柱を自然冷却したら、いよいよ仕上げのプロセスです。今度はぐっと温度を下げ、25~27度にキープした除湿乾燥機で12時間ほどじっくりと乾燥。さらに表面と内部の水分を均一にするため、湿度50~55%、温度16~18度に設定した室で、木箱にいれて寝かせます。

この、じっくりと乾かして(焙乾)、寝かせる(あん蒸)工程こそ、生の貝柱が干し貝柱になる決め手となる作業。貝柱の大きさや状態を見ながら繰り返し行うことで、貝柱は少しずつ水分を飛ばし、着々とうまみを蓄えていきます。

乾燥とあん蒸を繰り返すことで、貝柱が締まり、旨みが凝縮していきます。

干し貝柱はのうまみ成分は、複数のアミノ酸の掛け合わせによって生まれます。特に豊富に含まれているのが、グリシンやアラニンなど、甘味のあるアミノ酸(うまみ成分)。さらに昆布やトマトなどに含まれるグルタミン酸も多く含まれているため、相乗効果で“うまみ爆弾”となっていきます。

また、特徴的な成分が、人の肝臓や筋肉などに含まれているグリコーゲン。これは動物が体内で作る炭水化物の一種で、エネルギー代謝に必要な成分です。科学的には、海中にホタテの栄養源となるクロロフィルαが増えると、ホタテが大型化し、ホタテの中のグリコーゲンが増えることがわかっています。

しかし多すぎても、乾燥の過程で松ヤニのようなべたつきが生じてしまうため、塩分量の調整でコンディションを整えていくのだそう。こうしてホタテの様子を見ながら、1か月半ほどかけてじっくりと中の水分を抜いたら、いよいよ完成です。

焙乾の記録。
◎完成・選別

完成品の干し貝柱の重量は、生の貝柱の2.6~2.7%ほど。現在、北海道漁協組合連合会(以後「漁連」と略)では、干し貝柱の中に含まれる水分は16%未満にすることが規定で決められています。

また、製品規格も漁連が規定しており、サイズ(重量)は大きいものから順にGL、2L、L、M、S、SA、SAS、4S、B(ブロークン)の9規格。さらに割れ欠けなどの状態を判断する等級は3規格。つまり、サイズ×等級で27分別。高級品でもあるため、用途によって使い分けられるよう、かなり細かく決められています。

完成した干し貝柱の分類作業。

最も大きいGLは、1粒が13g~16g。「これは沖10マイルくらいのところで収獲されたものが多いね」と漁協の方が話してくれました。ちなみに現在業務用で最も流通しているサイズはSAで、1粒2.4~3gです。

完成した干し貝柱の分類作業。

また、なかには稀に赤い干し貝柱があります。これは通称「赤玉」と呼ばれ、1,000個に1個くらいの割合で見つかるレア玉。味は変わらないそうですが、もし入っていたらラッキーですね。

赤い干し貝柱は通称「赤玉」。写真の中にもいくつか見られますね。

干し貝柱は大きい粒ほど味が濃く、繊維がしっかりしていますが、価格も高価。例えば、ほぐして炒飯などに使うなら、小粒できれいなものよりも割れた干し貝柱を使い、形を生かして煮込み料理にするなら、大きい粒を丁寧にふっくら戻して使うなど、使い分けをするといいでしょう。

こうしてできあがった干し貝柱は、オリジナルのラベルとともに、日本国内および香港を中心とした海外へ輸出され、北海道ブランド、猿払ブランドとして乾物問屋などに渡ります。

このラベルが品質の証。

栽培漁業から格付けまで一気通貫。これぞ猿払クオリティ!

干し貝柱は、日本のみならず海外でも製造していますが、海外の市場で買ってきたものは、猿払産よりも少し軟らかめのものをよく見ます。こうした干し貝柱は、水分が多いためカビなどが発生しやすく、劣化が早くなります。また、使ってみると出汁があまり出ず、うまみが薄いと感じた経験がある方もいるのではないでしょうか。

その点、猿払では、浜から上げた翌日に産地で加工するため、移動が少なく、ホタテにかかるストレスが少ないことや、常にホタテの状態を見て、製品がベストコンディションになるよう調整しています。

ホタテの栽培漁業にはじまり、きめ細かな製造管理、検査、格付けの一連のシステムがすべて同じ場所で行われていることこそ猿払クオリティ。手にすれば、その違いは明らかです。

取材協力
猿払村漁業協同組合
株式会社ぎょれん北光
北海道漁業協同組合連合会

参考資料
高グリコーゲン含量のホタテガイから製造した乾貝柱の性状について(北海道立総合研究機構網走水産試験場加工利用部)
特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター

日本橋古樹軒で販売中
オンラインショップ 干し貝柱[S]100g干し貝柱[砕け]100g
日本橋古樹軒 楽天市場店 干し貝柱[S]100g干し貝柱[砕け]100g


TEXT サトタカ(佐藤貴子)
PHOTO キッチンミノル