順徳料理を食べる会 at 香宮」料理編

前菜編に続く料理編では、見た目に派手さはないものの、おいしいからこそ受け継がれてきた大陸的な料理のオンパレード。篠原シェフが順徳で感銘を受けた料理もここで再現。食材も多彩!

■料理

家郷蒸藕粉(とろとろ蓮根蒸し) 網油春花巻(魚肉の網脂巻き揚げ)
大良炒牛奶拼大良野鶏巻(ミルク炒め&豚肉のキジ風味)
六味炒長魚(タウナギの炒め) 冬菇燴魚腐(魚豆腐と椎茸の煮込み)
蝦泥蒸鯉魚(コイの蝦子醤蒸し) 古法彭公鵝(ガチョウの黒酢煮込み)

家郷蒸藕粉(カー ヒョン チェン ガウ ファン)

家郷蒸藕粉

見た目は地味だが印象に残る“味な奴”

順徳が位置する仏山市は、実は蓮の花の名所。デルタ地帯ですから、花のみならず、食用の蓮根も栽培されてきたのでしょう。この「藕粉粉」だけでなく、円形に整えて煎り焼きした「藕粉餅」など、この界隈には伝統的な蓮根料理がいくつかあります。

特にこちらの料理は、いかにも家庭料理という素朴なビジュアル。ですが、華やかさがないからといって、印象に残らないかといったらそうではありません。「この日印象に残った料理は?」というアンケートで、最も多く票を獲得した一皿がなんとこれ。すり下ろした蓮根に、クワイのでんぷん、干しエビ、ラードを入れて練り、蒸して作ります。

食感は柔らかく、匙ですくうとポテッとしており、干しエビのしみじみとした旨みがでんぷんに染みて、後味は甘く香ばしい。そう、これはラードの旨さですね。脂はたっぷり入っているのですが、それを感じさせない食べ心地。見た目は地味ですが、味は滋味な一品です。

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網油春花巻(モウ ヤウ チュン ファー ギュン)

網油春花巻

ザクッとクリスピー!脂を揚げた香ばしさがそそる

「春花巻」とは、豚の網油(内臓を包んでいる網状の油)を使って具を巻いて、整形した揚げもののこと。その歴史は古く、1887年(清代光緒13年)に記された、広東料理における重要書籍『美味求真』にも「春花」と記されているほど。昨今の健康志向から、今では衣が脂からパン粉に変わるなど、アレンジされたものもありますが、この日は伝統的な製法で網油を使用しました。

主材料は、度々登場している定番の魚・鯪魚(レンユイ)。そのすり身に、豚肉、ネギなど加え、網脂でロール状にまとめ、カラリと軽く揚げています。

具は魚と豚肉を合わせているので、重たくなく軽やか。ザクッとした網油の衣を齧れば、ネギの香りとともに、餡の中に熱い肉汁が対流しているのを実感できます。揚げた網油のクリスピーさと、口の中で汁が溢れるジューシーな餡のコントラストがたまらない一品です。

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大良炒牛奶拼大良野鶏巻(ダイ リョン チャウ シン ナイ ペン ダイ リョン イエ カイ ギュン)

大良炒牛奶拼大良野鶏巻

牛乳を炒め、豚をキジの味に仕立てる

大良」とは、古くから順徳の政治・商業・文化の中心となる鎮(町)の名前。そもそも「食材広州 厨出鳳城(食は広州にあり 料理人は順徳から出ずる)」の「鳳城」は、鳳山を擁するこのエリアの別名。中でもこの2品は、順徳大良発祥の料理の中でも、特に著名なものといえるでしょう。白くこんもりと盛られているのは、牛乳を炒めた大良炒牛奶(ミルク炒め)、周りに配してあるのは大良野鶏巻(キジ肉風味の巻き揚げ)です。

シャバシャバの牛乳をどうやって炒めるのか?というと、卵白を加え、たっぷりの油を使って、弱火でふんわりとまとめます。口に含むと、牛乳のほのかな香りと甘味がふわり。えも言われぬやさしい味わいに、「この日一番印象に残った料理」という方もいらっしゃいました。

素材の味を引き出す大良炒牛奶に対して、大良野鶏巻はキジ(野鶏=キジ)を使わずにキジの味を出す料理。主原料は脂の乗った豚肉と、脂の少ない豚肉、金華ハム、酒、砂糖、卵。「豚肉を使うのになぜ野鶏?」というと、元々豚の脂やクズ肉を寄せ集めて作られたもので、調味によってキジ肉の味に似る…ということから名づけられたのだとか。カリッと焼かれた肉は、繊維質ととろける脂が層になり、噛むと砂糖の甘味と豚の脂がジュワッと溶け出す仕上がり。最後には、肉の旨みのみが口中に残ります。

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六味炒長魚(ロッ メイ チャウ チョン ユイ)

六味炒長

順徳式タウナギ料理

タウナギは中国各地で食べられていますが、日本ではあまり見かけない食材。この日は順徳式にカラシ菜の漬物、塩、オイスターソース、陳皮で味付けです。

具はタウナギ、にんじん、セロリ、椎茸、筍、カラシ菜の漬物の「六味」。料理は漬物の酸味が味のポイントになっており、どこか家庭的な、しみじみとした味わいを醸し出しています。

なお、「六味」というのは、広東料理の煮込み等でも用いられる具の数。「六合」というと、天地と東西南北を意味します。

〈食材豆知識〉長魚(タウナギ)

タウナギというと鰻の仲間のようですが、タウナギ目タウナギ科に属する淡水魚で別物。形はウナギよりも蛇に似て、胴は円筒状で、尾にむかってそのまま細くなっています。中国で広く好まれる食材で、上海、四川、江蘇、淮揚、台湾料理など幅広い地方にタウナギ料理があります。

別称:黄鱔、鱓魚 ※長魚は広東料理ならではの呼び名と思われます。
英文:swamp eel、ricefield eel
学名:monopterus albus

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冬菇燴魚腐(ドン グウ ウィ ユイ フ)

冬菇燴魚腐

魚の豆腐=魚腐

魚腐は読んで字の如く、魚のすり身で作ったお豆腐のこと。こちらも順徳ではおなじみ、鯪魚(レンユイ)で作ります。魚腐は、ゆでたり煮たりすると、表面が滑らかな“はんぺん”のよう。一方、揚げるとふわっと膨らんで“がんもどき”のようになります。

篠原シェフが作った魚腐ははんぺん風で、舌の上からするりとすべる滑らかな食感が持ち味。一口大のすいとんのような形にしたものを、干し椎茸を使った香りのよいスープで含め煮にしています。とろみをつけているため、いっそう舌触りがよく、上品な魚腐でした。

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蝦泥蒸鯉魚(ハー ニー チェン レイ ユイ)

蝦泥蒸鯉魚

鯉の蒸しものは発酵の香りが決め手

「中国の鯉料理というと揚げて甘酢餡をかける料理は食べたことがあったけれど、蒸しものは初めて!」と中華好きの皆様を魅了したのがこちらの一皿。味の決め手は「蝦泥(※販売していた時の品名)」です。

蝦泥

「正確には順徳ではないのですが、同じ食文化といえる潭洲水道を挟んだ順徳の東側・番禺で、この瓶詰が売っていました。試食してみたところ、うまいんです。川エビの卵を発酵させたもので、味は塩辛のような感じも。これを使って何か作りたくて、川魚の蒸しものに至りました」とは篠原シェフの弁。

口にすると、鯉の皮目に「蝦泥」がしっかりと厚く乗っており、斜め切りにした分葱、太めにカットされた生姜とともに口にすると、塩気、旨み、薬味の辛みなどが相まってガツンと骨のある味に。鯉の身は至極柔らかですが、1匹1kgを5人で分け、たっぷりの身があるため、そのインパクトに負けることはありません。「蝦泥」を溶かさず、鯉の上にある程度まとめて置いたことで、ボケることなく味が決まりました。

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古法彭公鵝(クッ ファ バン コン オー)

古法彭公鵝

篠原シェフが順徳で惚れた思い出の料理を再現

彭公鵝は、珠江デルタ地帯に伝わる農家料理。黒酢や生姜等を使って、ガチョウを丸ごと照りよく煮込んでおり、コクとまろやかさ、さっぱりとした風味が後を引きます。

この料理は、篠原シェフが香港に渡り、最初に修行した順徳料理店「鳳城酒家」で初めて食べ、そのおいしさに感動したという好物料理。日本の水で作ると、中国で食べる時のようなパンチは少なくなりますが、ガチョウの皮の内側にあるたっぷりと乗った脂がさっぱりと食べられ、ボリュームがあっても不思議と箸が止まらなくなる味です。

発明したのは、料理名にもなっている彭氏。暑い季節にガチョウを調理するにあたり、酢と生姜を用いて煮込んだのが美味しかったことから広まったのだとか。彭氏が非常に長生き(なんと880歳!)だったことから、順徳では彼の誕生日である6月12日に、長寿を願って食べる料理でもあるそうです。

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続いてはデザート4品。シンプルな材料で形作る、技勝負の甜品尽くしです!
>「順徳料理を食べる会 at 香宮」vol.3 甜品編