順徳料理を食べる会 at 香宮(シャングウ)前菜編
2015年9月10日(木)、第1回目となる80C主催の中華イベントが開催されました。そのテーマは、広東省の順徳料理。手掛けたのは、今、日本で順徳を最も熱く語る男・篠原裕幸シェフが率いる「海鮮名菜 香宮(シャングウ)」チームです。
「ところで順徳って何?」という方はこちらをご覧いただくとして、篠原シェフといえば、80C(ハオチー)では生姜ミルクプリンの記事や、広東料理マニアックスシリーズでもおなじみ。
盆と正月の休みには、「広東料理のルーツを探る旅に出ます」と言っては順徳に飛び、順徳は広東料理人である自分が基本に立ち戻れる「心のふるさと」と公言して憚らない…。
であれば一度、「順徳尽くしの中華ナイトを開催してみては?」
…というわけで、この日の「香宮」は広東料理のなかでも順徳エリアに焦点を絞り、川魚と鳥類を中心とした17皿を提供。イベント前の夏、香宮のスタッフは順徳に渡り、さらなる研究を重ねられたこともあり、料理は《ガチ順徳》。そのコースのすべてをご紹介します。
■前菜
鮮沙薑切鶏(鶏の前菜) | 醤鯪魚(川魚の付け干し蒸し) |
金錢蟹盆(背脂サンド) | 鳳城魚皮角(皮を魚で作った餃子) |
鮮沙薑切鶏(シン サー ギョン チッ カイ)
鶏がなくちゃ宴会が始まらない!
一皿目に登場したのは「無鶏不成宴(鶏がなければ宴会が成り立たない)」という広東マインドで、おかしら付きのゆで鶏料理。小ぶりで皮にしっかりとした旨みがある香鶏と、沙薑(サーキョン)の素材感を活かした、ザ・広東な一皿が我々を迎えてくれました。
鶏はバフコーチンと烏骨鶏を掛け合わせた、栃木県産の香鶏を使用。「香鶏は今まで使った鶏の中でも、広東省で食べる鶏に近く、肉質は繊維がきめ細かくしっかり。広東料理は皮の風味と食感を大切にする料理が多いので、皮が厚くて旨みがあり、加熱しても締まりすぎないところがこの料理に適していると考えました」と篠原シェフ。
また、料理の香りづけに欠かせないのが、細かなぶつ切りにされた沙薑(サーギョン)。広東省の市場ではよく見かける食材で、口にすれば、生姜の辛みというより、芳香の強さが印象的。たれは順徳式に、沙薑、醤油、ざっくりと斜め切りにした分葱などを合わせたもの。しょっぱなから骨太な料理に、続く料理への期待が高まります…!
〈食材豆知識〉沙薑(サーギョン)広東省の市場でよく見かける生姜の仲間。日本で広く普及している生姜よりも丸っこく、小ぶりな形で、芳香が強く、漬け汁や合わせ調味料などにも使われます。沙薑を使った代表的な料理は「沙薑雛」(※こちらの料理の異名)。中国では広東省や広西チワン族自治区が主な産地です。 別称:山柰、三柰、山辣、三賴、土麝香、香鬱金 |
醤鯪魚(ジョン レン ユイ)
川魚を干した、淡白ながら後を引く酒のアテ
順徳の位置する珠江デルタ界隈でよく食されているコイ科の川魚、鯪魚(レンユイ)を醤油漬けにして軽く干し、シンプルに蒸して生姜を添えた一皿。ほどよい熟成香があり、そのまま食べられる塩加減です。
篠原シェフ曰く「これは香港ではあまり見かけない食材」とのことで、これまた順徳らしい食材。見た目からそんな気配がするかと思いますが、酒飲みにはたまらないアテではないでしょうか。一匹手に入れたら、しばらくこれで楽しめそうですよ。
日本で見かける魚のみりん干しや、海の魚を干したものよりもあっさりした風味ながら、旨みはしっかり。どこかで食べたことがありそうでないような、なんとなく懐かしい味も後を引きます。
〈食材豆知識〉鯪魚(レンユイ)広東省の広東料理本でも、この日の宴会でもたびたび登場する川魚。順徳を流れる珠江流域を中心に養殖されるコイ科の魚で、魚皮角、春花巻、魚腐など順徳料理には欠かせません。主にすり身にして使うことが多く、成魚は25cm~、重さ1~2kgほどで、水中の低層に生息しています。 別称:土鯪魚、鯪公、雪鯪、雪鈴、齡魚、魿魚 |
金錢蟹盆(ガム チン ハイ ハッ)
中国の古銭を象った背脂サンド
蟹とエビに椎茸や筍を加えた五目餡を、豚の背脂で挟み、片栗粉をまぶして揚げた料理。背脂と聞いて、あの重たいラーメンを思い出してはいけません。シャクッと軽やかに噛み切るやいなや、じゅわっと溶けて、まるで背脂感がない…。そんな“軽やかな背脂”がいい仕事をしています。
「金銭〇〇」という料理名は、円形の片にカットした豚の背脂で、具を挟んだもののこと。その大きさと形が昔の貨幣を思わせることから、そう呼ばれています。有名どころでは、鶏肉や鶏レバーを挟んだ窯焼き料理「金銭鶏」「金銭鶏肝」がありますね。
一方「金錢蝦盆」であれば蝦餡を挟んで揚げた料理のこと。(盆(広東語で盒)には「合わせる」「箱」といった意味があります)。その名前や形から、宴席にぴったりの一品。
鳳城魚皮角(フォン セン ユイ ペイ コ)
餃子の皮を魚で作ると…?
鳳城とは順徳(の中でも鳳山を擁する大良地域)の古名。この2文字を掲げる料理は、クラシックな順徳名菜と思っていただければいいでしょう。
こちらは読んで字のごとく、魚のすり身で餃子の皮を作るという、郷土色たっぷりの水餃子。「維基百科」によると、清代に「馮不記」という店で誕生した料理とされています。
魚は順徳の位置する珠江デルタ界隈でよく食されている、コイ科の川魚・鯪魚(レンユイ)を使用。実は順徳料理、この鯪魚を使った料理がたくさんあり、この後も随所随所にこの魚が登場します。
舌触りのよさは、浮き粉(蒸し蝦餃子ほか、広東点心でよく使われる小麦でんぷん)と、鯪魚のすり身を練ることで生まれるもの。口に含むと、つるんと心地よい食感で、上湯に浸っているため、どこかスープワンタンのような風情もあります。
餡は豚肉とエビを使用。ひと口で食べられますが、飲み込むのが惜しいほど上品なおいしさ。
次のページでは蒸しもの、炒めもの、煮込みなどの料理ご紹介。順徳を感じる7品とは…?
>「順徳料理を食べる会 at 香宮」vol.2 料理編