四つ足は机以外何でも食べる―今回ももれなく出てきたこの話題も番外編としてご紹介。

中国で出会ったステキな食べもの&ゲテもの

四つ足は机以外何でも食べる―――。
嘘か本当かわかりませんが、中国(主に広東エリア)の食文化の一側面を表している有名なフレーズですね。前回に引き続き、今回ももれなく出てきたこの話題。本論からは脱線した番外編としてご紹介いたします。

――最近は日本でも今まで味わえなかったような風味の中国料理が食べられるようになり、「陳麻婆豆腐」などはひとつの味として定着しつつありますが、現地の料理の味を再現する難しさはどこにありますか。

陳 ――言ってしまえば、どの料理も現地の味付けにはならないんです。料理は水も違えば、使っている食材、調味料だって違う。現地で食べた味を踏まえて、それを自分がどうするか?っていう話ですからね。そこには作り手の感性が出てきます。
それとは別に、調味料に関していえば、豆板醤の差は大きいと感じますね。僕たちが日本で使っているような上質の豆板醤は、中国ではほぼどこも使ってないですから。

高木――そうなの?

陳 ――ピーシェンの豆板醤工場に行くと、3年以上熟成させた豆板醤は完全にゾーンが分かれています。これらはもう完全に輸出用。ヨーロッパや欧米の華僑、それと日本向けです。現地で使っているところも多少ありますが、高くて使えません。中国で使われているのはだいたい半年から1年くらいの粗い豆板醤ですよ。この差は大きいです。逆に、あっちではその店の豆板醤っていうのがあったりする。店の規模が大きくなれば、自分たちで作っちゃうんですよね。日本のお味噌と同じような感じで。

四川省ピーシェンにある、清の時代から豆板醤作りを営んでいるという老舗豆板醤工場の風景。

高木――あと、あっちは豆腐が固い。崩れないもんな。

陳 ――豆腐はそのままじゃ食いものって感じじゃないです(笑)。だから、僕らが中国で料理するときは、最近は日本から米や豆腐なんかの食材を持っていきますね。あっちの食材で作ったら、やっぱり完全に別物になっちゃいます。

――また、同じ名前でもニセモノっていうこともあるのでは…? たしか四川省は松茸でも有名ですが。

陳 ――おっしゃるとおり、すぐニセモノが出て来ちゃいますから(笑)。おかしいと思って「何だ?これ」と聞くと、「松茸だ」って言うんですけど、絶対違うだろうと(笑)。

高木――俺、向こうに行ったとき、箱に小龍蝦(シャオロンシャー)と書いてあるから、伊勢海老にしちゃあずいぶん安いなと思って見たら、箱の中にいるのはアメリカザリガニ。そもそもザリガニをそう言うんだよな。あっちではザリガニの尻尾を炒めたり、強火でバッと揚げたりして食べてる。

小龍蝦
小龍蝦(シャオロンシャー): アメリカザリガニ。龍蝦は伊勢海老を意味するが、小がつくと全く異なる生物である。代表的な味付けは十三香(麻辣十三香)。複雑な辛味の効いた味付けで、独特のドロ臭さが消される。殻はしっかりしている割に食べられる部分は少ない。身には甘みがあり、頭にはミソがある。

陳 ――僕は小龍蝦(シャオロンシャー)というと夏を思い出しますね。飲食店が立ち並ぶマンションの裏あたりに人がたくさん並んでて、何だこれは…?と思って行ってみると、「小龍蝦」って書いてある露店があったりする。見ると、きれいな女の子たちがザリガニをむしゃむしゃ食べていて、突然地面にペッとはき捨てる。あれは衝撃でした。もう慣れましたが(笑)。

――他に印象的に残っている食べものはありますか。

高木――うちの店のスタッフに、山西省出身の子がいるの。で、一緒に山西省に行ったときにハクビシンを食べた。1匹1200元だったよ。


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――おお、それは第1回の座談会で、南條竹則先生がすごく食べたい食材として挙げていましたが…、どんな味でしたか?

高木――けもの臭だよ。あっちの人に「高木、これ食べろ」って言われたけど、細くてかわいそうでねえ…。もちろん「食べたいです」って言って、スープにしてもらったけど。

――「細くて」って、最初どんなカタチをしているんですか?

高木――そりゃまあ、生きているやつがあるから。

――へええええ!

高木――それをさばくからね。ところで私ね、若い頃、猿をテーブルの下から出して、脳みそを食べるというテーブルに立ち会ったことがある。ショックで倒れたよ。

座談会風景

――召し上がったんですか?

高木――俺は食わないよ。ハクビシンは食べたけど。まずね、テーブル上からすべての皿をなくすの。そしたら蓋が開いて、猿が出てくる。これが、涙を流しているんだなあ。その頭を切ってちょいちょいちょいと…。

――これまた前回の座談会で、新橋亭の田中総料理長から「若いときに猿を日本で料理したことがある」という話がありました。そのときはワシントン条約がなかったんだなと思いましたが。

陳 ――僕が四川省に行っていた時住んでいたマンションの隣では、犬を出しているところがありました。食べる前に吊るすようなんですが、「キューン」って声が聞こえると、ああ、やってる…って。

――グロいですね。

陳 ――グロいですよ。

高木――食べものはいろいろあるわね。

小林――食べちゃいますけどね。

――食べちゃいますか?

陳 ――行けば食べますからね。

高木――行けば食べちゃうといえば、重慶で火鍋食べた時の話。もう辛くて食えない!ってくらい辛かったから、次の日「今晩はあっさりしたのにしようよ」って話をしたのよ。でも、晩が近づくにつれ「もう一回行ってもいいかな…」「チャレンジしてみてもいいかな…」「ああ、やっぱりもう1回行こう!」ってなってね。結局、尻から火を噴くほどの痛みを、あそこで初めて経験することになった(笑)。
やっぱり中国は、気になるならもう食わないほうが安全だね。「ちょっとやばいんじゃないの?」と思ったらやめるのが一番安心。ええい食っちゃえ、となると必ずくる。それで明日はあっさりとしたものにしようと心に誓うんだ。でもまた行ってしまうという…。

――やっぱり重慶の火鍋には、噂の何かが入っているのでしょうか?

高木――なんなのか、中毒性のある味だね。

小林――辛いけど、うまくて、くせになるという。

陳 ――いえいえいえ、入っているわけないじゃないですか!入っていたらそれは国がやばいです(笑)。

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Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo (座談会)林正 / (中国風景)80C編集室