好評シリーズ第3弾は、日本を代表する中国料理店、Wakiyaグループでサービス部門を統括する萩原清澄さん。要人の密談から祝いの場まで、数々の現場を経験したサービスマンの視点とは――?
“お母さん”のような存在となるサービスを目指す
「サービスマンのブランドを上げる」という目標にむけて活動しながらも、実際に萩原さんが実務のサービスで心がけ、目標にしている人やコトはあるのでしょうか。尋ねてみると、
「僕は“お母さん”を目指しているんですよ。店を極力、家に近づけたい。脇屋にも『堅苦しいサービスや、格好つけたサービスはいらない』と言われています。サプライズでケーキを出したりとか、もちろんそれも素晴らしいサービスですが、もう少し本質に触れる接し方もあると思うんです」と萩原さん。
サービスの力でしか成し得ない、お客さまの呼び方・接し方とは
その“お母さん接客”効果か、店にはさまざまな常連が訪れますが、なかには席について「今日は何も食べたくない」と言う女性もいたとか。
「その方はたいそう疲れていらして、その日の最終便で海外に行く予定でした。とはいえ、少しは稼がなきゃいけません。帰りしな、うちのクルミの飴がけを包んで手渡しました。
値段はつけていますよ。勝手にやって怒るお客さまもいらっしゃいますが、そこは経験と関係性。やってみるしかないないですね。結果、『帰ってきたらまた来るわね』と言ってくださいました」
また、なんと5日連続で店に現れる方も。
「ふつう、5日連続で中国料理を食べたくないですよね(笑)。でも、家のお母さんがやっていることができれば5回6回ときてくださる。少しメニューを変えたり、微妙なバランスで対応するんです。それこそサービスでないと、できないことだと思います」
さらにサービスの幅が広いのも、中国料理店ならではの魅力と語ります。
「中国料理のアラカルトは、一番家に近い楽しみ方ができるんじゃないでしょうか。アラカルトでオーダーするスピード感、調整可能なボリューム、気を使わない楽な雰囲気。
イタリアンもそうかもしれませんが、フレンチや懐石にはできないこと。だからこそ、そこを上手にやれば、お客さまの来店頻度も上がります。
うちは接待のカチッとしたサービスもあり、オーダーバイキングの賑やかなサービスもあり、それはすごい振り幅です」
サービスマンは無限の可能性をもっている
そんな萩原さん流サービスの中でも、真似できそうなことが「レスを超速で返す」ということ。
「VIPのお客さまたちは、僕が凄く速く電話に出るから笑いますね。『今日入れる?』と聞かれてからの『もちろんです!』の返答もめちゃくちゃ速い。LINEでも『こんなに速い人いない』と言われます」
そういえば、世のお母さんのレスも速いもの。相手への思いやりが速いレスに繋がっているのかもしれません。
最後に、萩原さんにさらなる目標を尋ねました。
「近いところだと、サービスマンがもっと世にでるチャンスを作っていきたいです。例えばトーク番組に僕が出るとか。自分が出たいわけじゃありません。
シェフがあれだけ有名な人がたくさんいるというのに、道行く人に著名なサービスマンを尋ねても、ほぼ挙がってこないでしょう。僕はサービスマンの価値と知名度を上げたいんです」
また、サービスマンは長時間労働で給与もよくないと思っている若い人も多いですが、その現状も変えたいです。そのためには、店の外に出た仕事も必要。これからできることは無限ですね」
萩原清澄さんのいるお店
※在籍店は日にちと時間帯によって異なります。 Wakiya 一笑美茶楼 Turandot 臥龍居 Wakiya 迎賓茶楼 |
TEXT 大石智子
PHOTO 永田忠彦