仕掛けに満ちた「クリスタル前菜」と「竹筒入スープ」で五七五♪
冬薔薇の紅き花びら添へられり
●前菜で一句
さて、そんな6名が案内されたのは、東京タワーの夜景を望む窓際の個室。池袋駅直結という気軽なアクセスながら、一歩足を踏み込めば、そこは想像以上にラグジュアリーな空間でした。
そして、第2回中華句会の幕開けにふさわしく、気分を盛り上げるかのように登場したのがこちら!
こちらの盛り合わせは、中国語メニューで「水晶花様開味前菜」、日本語にて「クリスタル前菜」。中でもひと際目立つのが、菊花大根の酢漬けをあしらい、逆さに立てられた中央のグラスです。泥頭、この鮮やかさをさっそく句にしました。
「水晶」はメニュー名の「クリスタル」に着想を得た表現。要は「クリスタルグラス」ですが、「水晶の杯」と表現するとぐっと俳句っぽく、前菜のキラメキまでも表現できます。ここでの「大根」は「だいこ」と読むのが肝(キモ)。
そして、菊花大根の下側、グラスの中に視線を移すと、中には海老芋をキンモクセイで風味付けした小品がありました。これはなかなか面白い仕掛けですね。しかし、驚いたのはこの後です。料理を食べ終わるや、サービススタッフがやってきてグラスをひっくり返し、緑色の液体を注ぐではありませんか…!
それは、野菜と果物のフレッシュジュースでした。使われた食材を尋ねると「コールラビ、ほうれん草、大葉、にんじん、オレンジ、リンゴでございます」とホールの女性。素材の色鮮やかさとほのかな甘い香りが、いかにも身体によさそう…。
ちなみに「コールラビ」とは、日本語で蕪甘藍(かぶかんらん)または蕪玉菜(かぶたまな)と呼ばれる野菜です。味は甘みがあり、柔らかいブロッコリーの茎のような食感が特徴。さすが秦料理長、最初から野菜ソムリエらしい前菜に一同感激です。
コールラビ。語源はドイツ語で、キャベツ(kohl)とかぶ(rube)に似ていることから名づけられました。
さらにクリスタル皿の上に美しく盛り付けられていたのは、こんな品々。
合鴨の赤酒煮。奥には烤麩(こうふ)のピリ辛煮が隠れています。烤麩は焼いた麩(ふ)の一種で、煮込み料理は中国各地で家庭料理としてよく作られる常備菜。
さといらず豆の花豆腐。砂糖を使わなくてもいいほど甘い(砂糖いらず)食味から名づけられた、新潟県の在来種の大粒大豆「さといらず」を豆腐にし、彩りよく野菜をあしらった一品。
オーロラサーモンのオレンジジュレ。黒の蓮華にオレンジ色のグラデーションが映えます。
これら前菜が、すっかり我々の心を掴んだのは言うまでもありません。「いやあ、今まで食べていた中華のイメージ覆されたような感じですね」と漁太は感心しきり。ガラスの皿に散らしたミニバラの花びらも、なんと可憐なことか。
●湯(スープ)で一句
さて、続いて円卓に登場したのは、直径7~8cmほどの竹筒。器にはしっかりフタがされており、ネギと細切れになった中華火腿(ハム)を合わせた薬味が添えられています。
このように、竹筒の中に食材を入れて加熱調理をしたものは、湖南省を代表的する調理方法のひとつ。その背景には、湖南省では竹が多く取れるということもあるようです。ささ、さっそくフタを明けてみましょう。
これ、何だと思いますか?
答えは、鳩肉をベースに、豚肉を加えてミンチにしたもの。それらをゆるい団子状にし、竹筒の中で3時間蒸し上げたのが「金華竹鴿湯(湖南省伝統の鳩肉の竹筒スープ)」。中を覗き込むと、澄んだ黄金色のスープがキラキラと輝いています。
竹筒の中にふんわりと収まった鳩肉を、日本の古典文学「竹取物語」のかぐや姫になぞらえ、「かぐや鳩」と表現した句。竹を割ったら、中には光り輝く姫…ではなくて鳩の黄金のスープを見つけたわけですね。また、筒の中の香りを「嗅ぐ」と、「かぐや姫」の「かぐ」もかけているのもポイント。「をり(居り)」「けふ(今日)」は歴史的仮名遣いです。
一方こちらは「ぽっぽっぽ、鳩ぽっぽ♪」の歌にかけました。熱々の竹筒スープを飲んで、身体がほかほかとする様子を楽しげに表現しています。「ぽっぽという音がいいですね」とぴざ子。
新春標語っぽくもありますね。その背景は「鳩の歩く姿がどうにも苦手…」というまりもが、思いがけず鳩を食してしまったことを前向きに捉えて詠んだ句。苦手な鳩も、食べてしまえば新たな飛躍に繋がるか。
竹筒スープでリズミカルな句が出たところで、続いては肉料理、海鮮料理の登場です。
≫中華句会の遊び方
≫第1回中華句会「チャイニーズテラス ルウロン」編
Text:佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo:佐藤貴子(ことばデザイン)、小杉勉