四川料理といえば、赤く、辛く痺れて刺激的…!? そんな世間のイメージを大きく覆す、四川料理の専門書『現代に生きる 老四川 ―伝統四川料理を現代の技で継承する』が12月1日に発売されました。

『現代に生きる 老四川 ―伝統四川料理を現代の技で継承する』(旭屋出版)。表紙の料理は「清湯双燕綉球 」、燕の巣見立て 白身魚の毛毬仕立て 高級澄ましスープ。

「飄香(ピャオシャン)」井桁良樹オーナーシェフの集大成的一冊!

著者は、日本の中国料理のトップランナー「中国菜 老四川 飄香」の井桁良樹オーナーシェフ。

同書では、井桁シェフが従来から培ってきた技術を料理に加えて、今年、四川省成都市の「松雲澤」で新たに学んだ四川伝統料理を惜しみなく紹介。

辛い四川料理はちょっと苦手…という方も、この本で「こんな四川料理の世界があったのか!」と、視野が開ける一冊となっています。

2018年秋にオープンした「老四川 飄香小院」の「神仙鴨子」。揚げた鴨に筍と干し椎茸を入れて晒で巻き、6時間煮込んだのち、皿に広げて盛り付けている。

消えゆく「老四川」を、現代の技術で巧みに再現。編集者の視点とは?

編集を担当したのは、食の専門出版社「旭屋出版」のベテラン編集者、井上久尚さん。

中華料理本を数多く担当している井上さんですが、まず驚いたのは「“老四川”と呼ばれる四川伝統料理が、思いのほかつい最近までの料理だったということ」だったそうです。

「唐の時代? いや、もっと前? と思ったんです。しかしシェフから伺ったのは『1980年代までの四川料理』でした」。

そもそも17世紀半ばに中国に唐辛子が伝わるまで、四川省には辛くない、繊細な料理があったのです。そして1980年代までの四川省は、空路も発達せず、庶民の生活も質素な“秘境”。

それが1990年代以降、爆発的な発展と経済成長によって、料理も激変してしまいました。しかし、一部の店では、まだ料理が激変する前の“老四川”が受け継がれていたのです」(井上さん)。

「老四川 飄香本店」の肝油海参(伝統四川名菜 ナマコと豚レバーの煮込み)

そのなかでも、「飄香」がイメージする老四川は、文化大革命が終わり、世間が落ち着きを取り戻し、料理も輝きはじめた1980年代初頭で四川で食べられていた料理。

そこで本書では井桁シェフを追いかけること丸1年。当時の料理を、どのように現代の技術と調理法で蘇らせたか、レシピと解説をつけて丁寧に紹介することに。

巻末には、料理の基本となるスープ、漬け汁、香味油の作り方や、品種によってさまざまな味と香りをもつ唐辛子、香辛料についても紹介。知られざる四川伝統料理について、深く理解を深められる構成になっています。

本書は現時点における井桁シェフの集大成ともいえる一冊。80Cのインタビューと合わせて、ぜひお手に取ってご覧ください。


現代に生きる 老四川 伝統四川料理を現代の技で継承する(amazonにリンク)
著者:井桁良樹
出版社:旭屋出版
定価:3,800円(税抜)
ISBN-13: 9784751113400
B5判/208ページ


text & photo 佐藤貴子(サトタカ)
書影提供 旭屋出版