同一名称で展開する飲食店として世界最大規模を誇る「沙県小吃(さけんしょうきつ/沙县小吃:シャーシィェンシャオチー)」が、2018年6月9日(土)高田馬場にオープンして話題を呼んでいます。福建省沙県政府の協力のもと、日本1号店を開業した王遠耀さんに、開店の経緯と今後の展望を聞きました。

 

中国全土に約63,000店。世界最大の店舗数を誇る「沙県小吃」とは?

中国各都市どこにでもあるこの小吃(軽食)店が、日本でこれほど注目されるとは、いったい誰が想像できたでしょうか。

「早稲田松竹」の向かいにある小さな店は、多い日で50人を超す大行列。中国国営テレビ局CCTV(中国中央電視台)をはじめ、中国四大メディアも取材に来るなど、話題は中国にも広がっています。

2018年6月9日にオープンした「沙県小吃 高田馬場店」外観。

その店の名は「沙県小吃(さけんしょうきつ/沙县小吃:シャーシィェンシャオチー)」。沙県小吃とは福建省三明市沙県が発祥の小吃(軽食)および小吃店で、中国ではよく知られたファーストフード店です。

主力メニューは、ワンタン(扁肉:ビィェンロウ)、蒸し餃子(蒸饺:ヂォンジャオ)、和え麺(拌面:バンミィェン)などの炭水化物系が中心。

中国では家族経営の小さな店が多く、わざわざ目指していくものではないけれど、小腹を満たすか、ひと休みするかというとき、ふらりと入る気軽な店という存在ですね。

中国は北京市魏公村にある「沙县小吃」の店舗。赤い「パックマン」のようなロゴマークが目印です。

沙県政府がバックアップ。手に職をつけ、点心師は各地で開業

ユニークなのは、この飲食チェーンが民間企業によるものではなく、福建省の内陸部、三明市沙県政府の主導によって誕生したということ。

その起源は今から約30年前、90年代まで沙県に根付いていた頼母子講(たのもしこう)の破たんがきっかけ。お金に困った県民の自活のため、沙県政府が「手に職」をつけさせ、小吃店開業を支援したことにさかのぼります。

晴れて職人となった沙県民は中国各地に散らばって店を開業。現在は小吃職人のトレーニングセンターや、沙県小吃に欠かせない調味料を製造し、270種類を超すメニュー開発も行っているセントラルキッチンなども設立され、地域の一大産業へと発展しています。

今日、沙县小吃同业公会(沙県小吃の同業組合)に登録する店舗は約63,000店舗。参考までに2018年現在、世界最大の店舗数を誇るフランチャイズチェーンは、セブンイレブンの62,015店(出典:franchisedirect.com)。

すなわちセブンイレブンはもちろん、飲食チェーンのマクドナルドやケンタッキーフライドチキンをはるかに凌ぐ店舗数を誇るのが沙県小吃というわけです。

ふるさと福建省の食文化を日本へ。オーナーに開業の経緯を聞く

そんな沙県ブランドを引っ提げて、このたび高田馬場に「沙県小吃」をオープンさせたオーナーの1人が王遠耀(おうえんよう:ワンユェンイャォ)さん。

本業ではIT企業を経営するほか、全日本華僑華人連合会の理事や、日本福建経済文化促進会の常務副会長を務めるなど、多方面に活躍されているビジネスマンです。

沙県小吃を日本で開業した、オーナーの王遠耀さん。オープンにあたっては共同出資者がいます。

王さんは福建省福清市出身で、1987年に来日。横浜中華街の「揚州飯店」「順海閣」「龍鳳酒家」でのアルバイトを経て調理師免許を取得し、調理師をしながら専門学校で国際貿易と英語を学んだのち、大学に進学。

その後、日本のITビジネスに活路を見出し、事業を発展させていくものの、日本暮らしが長くなるにつれ「中国の文化を日本に伝える活動をしたい」と思うようになったそう。

そこで閃いたのが、地元福建省が誇る沙県小吃。「中国政府が文化の輸出に積極的だったことや、もともと飲食業に従事していた経験もあり、各方面の協力とメンバーに恵まれ、6月の開店へとこぎつけました」。

日本店が1号店!海外初の政府公認店舗

なお、今回の出店は日本のみならず、中国側にとっても特別な存在。なぜなら、沙県の国営企業・沙县小吃集团有限公司のお墨付きを受けてオープンした、初めての海外店舗がこの高田馬場店だから。

王さん曰く「正確なデータはありませんが、諸外国にある沙県小吃は3,000~4,000軒と言われています。聞くところによると、イスラエルやエジプトにもあるそうですが、このロゴを使っているのは当店が初です」。

「沙県小吃 高田馬場店」の看板。このロゴが正統派の証。ファザードにもロゴが配されています。

こうして各方面の協力を得て開店したこともあり「中国人だけ、または日本人だけが来る店ではなく、両国どちらのお客様にも沙県小吃を楽しんでいただきたい」というのが王さんの願い。

そのため、オープン前には中国人留学生や著名なラーメン評論家、ビジネスパーソンなど、100人ほどに声をかけて試食会を実施。広く意見を受け入れ、日本人にも中国人にも愛される味づくりをしていくのは、今後も目指すところです。

沙県小吃JAPAN、3つの保証

また、日本での開業にあたり、王さんが心がけているのは「3つの保証」。

「まず1つ目は、元祖の味を保証すること。正統な沙県小吃は、福建省沙県出身の者しか開業できないので、この店でも沙県出身で、10数年のキャリアがある職人を招聘しました。

また、2つ目は食品の安全管理、店舗の衛生管理をきちんと行うことです。店内外の掃除はもちろんのこと、服装を統一し、マスクと手袋をつけて調理しています」。

「沙県小吃 高田馬場店」のアルバイトさん。爽やか!

「そして3つ目は“実恵”、すなわち求めやすい価格で提供すること。中国だともっと安い地域もありますが、日本人、中国人どちらにも受け入れられる価格にしています」。

出身地によって異なる人気メニュー

さて、気になる人気メニューですが、福建省出身者はワンタン、福建省以外の中国人には蒸し餃子、日本人には拌面(バンミィェン:和え麺)が人気だそう。

実際、店内に入ると、拌面のタレに使われている花生醤(ピーナッツペースト)がふわりと香って鼻腔を刺激。口にすればしっかりと焙煎したピーナッツのコクがあり、ゴマだれ以上に箸が進みそう。裏技ですが「厨房のスタッフに伝えれば、タレ多め、葱多めといった注文にも応えられる」そうですよ。

沙県小吃の拌面(和え麺)。麺は5~6mm幅のつるりとした平打ち麺。運ばれたら一心不乱に麺を混ぜましょう。和えたての香りのよいところをずずずとどうぞ。

また、王さんのイチ押しはワンタン。ラムネ玉ほどの餡を、のど越しのいい皮で包んでおり、ひらひらとした部分を多く残す包み方は日式ワンタンにも通じるものが。一番のこだわりは注文を受けてから作りたてを提供していることで、餡は脂のない豚腿肉を使用するのが沙県スタイルだそう。

福建省ではワンタンを扁肉(ビィェンロウ)といいます。同店で1日300杯を販売しており、21時頃になると売り切れに。

「ラードなどは加えていないので、食べたら『ちょっとこれは違うぞ』と思っていただけるはずです。スープのベースは鶏と豚骨。これも沙県の味です」。

ワンタン同様、鮮度を重視しているのがスープ。寸胴で1日4回仕込みます。
ワンタンの味は、福建省より塩味控えめ。左から酢、辣醤、特製餃子たれ(蒸し餃子用)。奥には醤油もあります。

メニューを拡充し、日本の旗艦店出店を目指す

気になる今後の出店ですが「日本の旗艦店を作りたいです」と王さん。「そのためには基盤が必要です。まずは技術のある職人の確保ですね。この店で人材を育成して、新店に移動してもらうだけでなく、福建省にある沙県小吃のトレーニングセンターとの協力のもと、人材を紹介してもらうといったことも視野に入れています」。

ちなみに沙県のトレーニングセンターでは「一度に何千人という規模で、10日前後の研修を実施している」そう。もしかすると日本における料理人不足問題を、この沙県出身者で担う日も遠くない…!? 今後の展開も目が離せません。

 

沙県小吃 高田馬場店
住所:東京都新宿区高田馬場2-8-6

沙県小吃

アクセス:JR高田馬場駅から徒歩5分、東京メトロ東西線高田馬場駅から徒歩2分 ※早稲田松竹の向かい
TEL:03-6205-6225(2018年6月29日以降開通予定)
営業時間 11:00~23:00(売切次第終了)
席数:1Fカウンター10席 2Fテーブル席12席(食券式)

メニュー:バンメン(拌面)並盛480円、ワンタン(扁肉)並盛480円 大盛580円、蒸餃子(蒸饺)480円、あげワンタン(炸扁肉)480円、ワンタンバンメンセット(扁肉拌面套餐)860円、蒸スープ4種類(炖罐):海帯排骨湯、茶樹茹排骨湯、蓮子猪肚湯、当帰鶏肉湯 各480円

text:佐藤貴子
photo:佐藤貴子(日本国内)、小杉勉(北京)