あの「香港ワーホリ料理人」が世界を巡り、目黒区で開業!
2019年4月3日、恵比寿と目黒の中間に「サエキ飯店」がオープンした。オーナーシェフは佐伯悠太郎さん。数年来の80C(ハオチー)の読者なら、覚えがある方もいらっしゃるのではないだろうか。2016年に掲載した記事「香港ワーホリ料理人」の佐伯さんだ。
当時の記事を軽くおさらいすると、福臨門酒家大阪店、新宿三井ビル聘珍樓などで腕を磨いた佐伯さんは「広東料理の技と味が集結する香港で学びたい」と2014年、29歳でワーキングホリデー制度を利用して渡港。1年で4か所の厨房で働き、さらに広東省で料理店の厨房、鶏の卸業者でも料理や食材について貪欲に学んできた。
2015年の秋に帰国してからは、神宮前「楽記」の料理長として腕を発揮。退職後は都内各店で働きつつ、世界の食巡りの旅に出て、時にはアルゼンチン、時にはジョージア、そして時には香港で農業をしていたという…。ええ、こんな料理人はなかなかいませんね。
「ガチ広東じゃありません」の真意とは?
あの記事が出た後、80C(ハオチー)宛に「彼は今どこで働いているのか」「会ってみたい」という問い合わせをいただいた記憶が蘇るが、その佐伯さんがオーナーシェフとなって開いた店が「サエキ飯店」。
カタカナの「サエキ」の軽やかさと、クラシカルできちんとした中国料理店のニュアンスを持つ「飯店」を合体させた店名だ。
そして、その軽さとクラシカルさを併せ持つバランス感覚こそ「うちの料理はガチ広東じゃないんです」と念押しする佐伯さんが狙うところ。
料理の技は揺るぎなき広東だが、それを主張することなく、気負わず気軽に自分の料理を楽しんでもらいたいという想いがそこにある。
イメージは、香港人が作る賄い。
「料理は、自分の家に招いて料理を食べてもらうような感じです。私房菜っていうと、もうそのイメージがついちゃってるので使いたくないんですが、あえて言うなら、香港人の賄いを食べてもらうような感じですね。
あっちの料理人って、賄いにすごく力を入れるんですよ。例えば、鶏にどのタイミングで味を入れればいつ頃ちょうどおいしくなるとか、明日は食材が入るからあのスープをとろうとか。
店で出す料理以上に、賄いに気合いを入れてるんですよね。そして、どの料理も素材のよさを生かしているんです」。
そのイメージがあるからだろう。料理はシンプルで骨太だ。
例えば、白切鶏(ゆで鶏)や、豚耳を塩や滷水で煮たもの、広東料理で豊富なバリエーションがある土鍋煮込みはその真骨頂。
骨付きの素材もあるが、それは「うまいっ!」を最優先しているからこそ。ここでは気取ることなく手づかみでほおばり、しゃぶり付くのが正義だ。
そこに合わせるお酒は、世界を旅する道中で佐伯さんが惚れ込んだ、ジョージアのワインというのが洒落ている。
古来ゆかしいジョージアのワインは、甕に入れて“地球に埋める”製法で作られるのが特徴。ラインナップにはオレンジワインが多く揃う。また、ビール党には香港産のフルーティーな「鬼佬IPA」もおすすめだ。
さらにクラシックな点心も見逃せない。例えば、この日登場したのは揚げ大根餅。食べれば外はクリスピー、中はとろりとした広東の脆漿(チョイチョン)の技法で仕上げられており、その一粒は甘旨(あまうま)な大根のポタージュの如し。
そしてハタの料理は、広東=蒸し魚と思っているといい意味で裏切られる。
ぶつ切りのハタをしっかりと落花生油で揚げ、揚げにんにくと塩漬け豚バラ肉、柱候醤でしっかりと煮詰めた土鍋煮込みは、香ばしさがソースに濃縮され、どうにもこうにも米を呼ぶ味。その欲望に応えるかのように、炊き立てのジャスミンライスを用意しているのもニクい。
しかし、店でそんな蘊蓄は言わない。なにせ店にはコースの品書きもなく、家にいるように楽しんでほしいと、広東語のメニューも書かない。
目下、コースは5,500円(前菜と料理。麺飯・デザートなし※別途注文可能)のおまかせか、8,000円からの貸切(6名以上)のみ。2回転目があるかどうかはその日によるが、遅い時間ならアラカルトにも対応する。
「今日は広東っぽいかもしれませんが、明日は鹹魚でパスタ作ってるかもしれませんよ」と佐伯さんは笑うが、それでもきっと、そこには広東料理が見える気がする。
「香港ワーホリ料理人」から3年半。続きのストーリーは、ぜひこの店で、軽やかにして骨太な料理で体験してほしい。
サエキ飯店
東京都目黒区三田2-10-30 荒井ビル1F(MAP)
目黒駅から徒歩8分、恵比寿駅から徒歩13分(日の丸自動車学校の向かい)
TEL 03-6303-4735
営業時間 18:00~24:00閉店
不定休
カウンター6席 テーブル4席
TEXT & PHOTO サトタカ(佐藤貴子)