朝晩の肌寒さや、金木犀の香りを感じるようになると「さぁ今年もそろそろかなぁ!」と、楽しみな気持ちになる麺料理があります。それは、新高島平中國四川料理 剣閣』の火鍋牛肉麺です。

ゴロンと乗った牛肉のコクとうまみ、豊かな香辛料が織りなす重層的な香りに満ちた火鍋スープは、食べ始めるともう“欲罷不能(欲罢不能:止められなくなる)”なこと間違いなし。わたしもホールの皆さんを驚かせるほど頬を紅潮させ、汗を流しながら夢中で食べてしまいます。

提供期間の目安は平均気温15℃。開始は10〜11月、終了は3〜4月ごろ。毎年楽しみにしているリピーターも多く、10月に入ると「火鍋牛肉麺は、まだですか?」との問い合わせがジワリと増えてくるそうで、人気の高さがわかりますね。

外観
『中國四川料理 剣閣』外観。

四川・重慶の食べ歩きから生まれた火鍋牛肉麺

そんな火鍋牛肉麺は、オーナーシェフの塩野大輔さんが四川省や重慶市を食べ歩いてきた経験から生まれた一杯です。

コロナ禍以前は年に1~2回、料理人仲間と、時に一人で現地を訪ねていたという塩野さん。老舗の高級店もあれば、蒼蠅館子(苍蝇馆子:古びて見えても味は抜群!な人気店)、地域の住民にしか分からないような小径の屋台に至るまで、さまざまな料理を食べ歩いたり、市場を巡ったり。

こうした中で牛肉麺のおいしさが印象に残り、舌の記憶を辿りつつ、自身のアレンジも加えて作り始めるようになったといいます。

重慶市『余四妹牛肉面庄』外観(2018年6月撮影)photo by 『剣閣』塩野大輔
重慶市『余四妹牛肉面庄』の牛肉麺(2018年6月撮影)photo by 『剣閣』塩野大輔
四川省成都市『謝記火鍋牛肉麺』外観(2018年3月撮影)。photo by 『剣閣』塩野大輔
四川省成都市『謝記火鍋牛肉麺』の火鍋牛肉麺。筍たっぷり。(2018年3月撮影)。photo by 『剣閣』塩野大輔

アップデートを重ねながら、メニューとして初めて提供したのは、原宿『龍の子』勤務時代。常連客や知人に出してみたところ、これがとても好評!

のちに実父が営んでいた『剣閣』に入ってから本格的にレシピを考案し、秋冬の定番メニューとして登場するようになり、現在の牛肉火鍋麺に至ります。

当時を振り返り、「中国を旅するときに大切にしていたのは、現地の人々との交流です」と話してくれた塩野さん。

地域の人たちの盛大なおもてなしに応えるべく「干杯!」で酌み交わし、一気に打ち解け合った仲は強固なもの。再び現地を訪ねたときは、食べ歩きに限らず、店名にも掲げる四川省広元市の剣閣県へ連れて行ってもらったり、重慶市江津区にある花椒生産基地の視察へ招かれたこともありました。

その繋がりは今も続いており、コロナ禍で中国へ行けなくなっても、香辛料の手配などで困ることがなかったそう。現地との縁もまた、火鍋牛肉麺の根幹を成しているといえるでしょう。

重慶市内の市場(2016年10月撮影)。photo by 塩野大輔

刺激たっぷり、飲んで美味!火鍋牛肉麺のスープの作り方

そんな火鍋牛肉麺には、郫県豆瓣(ピーシェン豆板醤)、牛脂、唐辛子をはじめ、火鍋に使われる複数のスパイス、香味野菜などがたっぷり。ひとつひとつの工程にじっくり時間をかけて作られています。ここではそのプロセスをダイジェストでご紹介しましょう。

①唐辛子、花椒を油になじませる。(なじんだら取り出しておく)

②茴香(フェンネルシード)などのスパイスを、焦げる直前まで油へなじませて香りを出す。

③八角、桂皮(シナモン)、陳皮、丁子(クローブ)、香叶(ローリエ)、白豆蔻、香果、草果、篳撥(ヒハツ)、草蔻(ソウズク)などのスパイスを加える。

③葱、生姜、にんにく、牛肉、郫県豆瓣、香辣醤を加え、牛脂を加えながら、油が澄むまでしっかり混ぜ続けながら肉に火を通す。

もうこの時点で一品料理!美味しそう。

④水を加え、取り出しておいた唐辛子と花椒を鍋へ戻し、醤油、中国醤油、砂糖などで調味して、セロリの葉を加える。70分ほどじっくり煮込む。

セロリの葉はあえて炒めず、フレッシュな香味を活かします。

⑤肉とスープに分け、香辛料を取り出してできあがり。器に盛り付けていただきます!

こだわり満載の火鍋スープを飲み始めると、香りと濃厚な味わいに引き込まれ、つい止まらなくなりそうに!

そこに合わせる麺は、同じ板橋区内の『幸住食品』の佐野麺(平打ち麺)を採用。芳醇かつ濃厚な火鍋スープがしっかりと絡まります。

『幸住食品』は「東京大仏」近くの製麺所。地元企業も応援!

今季の火鍋牛肉麺がスタートして早々、既に2杯いただいた私。なのにもう「また食べたいなぁ」という気持ちが湧いている、クセになる一杯です。秋冬の4〜5ヶ月間は長いようであっという間。ぜひご賞味あれ!

中國四川料理 剣閣
東京都板橋区高島平7-32-5(MAP
TEL 03-3939-6750
ランチ 11:30-15:30(L.O.15:00)
ディナー 月~土17:30-22:00(L.O.21:30)日祝17:30-21:00(L.O.20:45)
木曜定休
official sitefacebookInstagram
★2022年の火鍋牛肉麺は10月16日から提供を開始しています。


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。中華料理にまつわるコーディネート、アドバイス、監修などを行う。一つの「食」を愛し、味も知識も徹底的に極めた「偏愛フーディスト」がプロデュースする期間限定レストラン『偏愛食堂』中華料理担当として、多彩な中華地方菜の楽しさを伝えている。★アイチー執筆・出演記事はこちら