35歳以下の若手中国料理人が1日料理長として鍋を振る「わかば食堂」。その第31回のシェフを務めた藤井寛さんの店は、港区三田にある。開業は2019年の秋。自身の出身校である慶応義塾大学のそばだ。

店外観。桜田通りから少し入ったところにある。実は右も左も中華料理店。左は「大連」。右は「高記食府」。

料理人になりたい。その気持ちに迷いがなくなったのは、大学を卒業して就職した後のこと。以前から憧れていた職業「料理人」になるために会社を辞め、築地で働きながら、料理専門学校で基礎を学んだ。

卒業後は、味わいのキレイな店で修行されている。

東京ステーションホテルの広東料理「カントネーズ 燕 ケン タカセ」を経て、ミシュランスターに輝く、日本橋のマンダリン オリエンタル 東京「SENSE(センス)」へ。ホテルでは焼物(窯焼き料理)を任された。いずれも言うまでもない高級店である。

とはいえ、藤井シェフが開きたかったのは、修行先のようなスタイルの店ではなかった。本格的な料理を値ごろに味わえる、多くの人が「あったらいいな」と思えるような店だ。

だから『漢』では、①丁寧な手仕事による料理が、②懐にやさしい価格で、③1人から楽しめる量で、④アラカルトで注文できる。あえていうなら、高級店仕込みの中華を、好きなペース&スタイルで楽しめる、週に何度も通える町中華。都内一等地でこんなスタイル、なかなかない。

「名物 大きな油淋鶏」950円。カリッと揚がってボリュームたっぷり、万人に愛される味付けだ。

NOT高級志向、YES日常使い。本格的な広東料理を手の届く金額で。

80C(ハオチー)編集部が訪れた日は予約にて満席御礼。開業以来、常連さんがじわじわ増加し、週に何度か来られる方もいるとか。聞けば「ここのところずっとこんな感じです」と藤井シェフ。そう、店は少しずつ“街の顔”になっているのだ。

メニューを開くと、広東料理店で修行してきた藤井さんだけあって、広東の香りが散りばめられている。

例えば、焼味(肉のローストなど)や手作りの広東風焼売、ジャスミンライスを使った炒飯や香港式のワンタン麺。中国野菜なども使った、野菜の前菜盛り合わせも気がきいている。

また、オペレーションが落ち着いてきた今では「香港ローカルシリーズ」と銘打って、鮮魚の蒸しものや土鍋煮込み、米粉でできた幅広麺の河粉炒めなども日替わりで提供するように。

担々麺やルーローファンなど広東料理以外もあるが、どの料理も気軽に楽しめるサイズなのもうれしい。

「漢のプレート 広東焼物5種盛り1名分」(800円)。3,500円~のコースにも含まれる。紹興酒(1杯400円)とともにぜひ。80C編集部一押しは「鶏の醤油煮込み香港スタイル」。チャーシューなど焼物はアラカルトで小皿500円~。

おすすめの焼売は1個200円、国産銘柄豚を使った叉焼は小皿で500円~。この価格も手伝って、初めて訪れてメニューを見たら、どれもオーダーしたくなってしまうかもしれない。

だから、迷ってしまう人はコースもいいだろう。3,500円のコースなら、おすすめの野菜の前菜、焼き物の前菜、点心、野菜の炒めや油淋鶏などの料理2品、〆の麺飯にデザートまでつくというおトク感。80C(ハオチー)編集部員が訪れたときは、このコースに春巻を追加。文字通り満腹満足!である。

左から時計回りに「カニ入り海鮮春巻」「香港式エビ豚焼売」「ニラ餃子」。一押しは焼売!
ワンタン麺のハーフサイズはコースの〆に登場。アラカルトでもハーフ(500円)で作ってもらえる。

また、お酒は紹興酒に代表される黄酒を豊富に取り揃えるほか、オリジナルの麻辣ハイボールなども。訪れた日も、ほとんどのお客さんがお酒と一緒に食事を楽しんでいた。

オリジナルの麻辣ハイボール。スッと飲めるが、後から痺れが広がるドライな一杯。

わかば食堂の思い出。

振り返れば、藤井シェフが「わかば食堂」の一日料理長を務めてくれたとき、スタッフからは「粗削りながらパッションと光るセンスが印象的だった」という声があった。

同食堂ではランチに25食を二回店、合計50食を提供する。

「あの時は『素麻婆豆腐』っていうベジ麻婆をやったんですよね。大葉と干し貝柱の炒飯も作って。いやー、すごく大変でしたし、めちゃめちゃ緊張しましたよ。初めて人の前で鍋を振り、自分の料理を食べてもらう機会でしたから。『カントネーズ 燕 ケン タカセ』に入ってまだ2年目でしたからね」(藤井シェフ)

あれから5年数か月。今は中華鍋、蒸しもの、焼きもの、麺とあらゆる仕込みと調理を1人でこなし、カウンターのお客さんを笑顔にさせている。

今後は様子を見ながらメニューや出し方も考え、よりよい店にしていくとのこと。飲んだり食べたりカジュアルに楽しめる場のはもちろんだが、若きシェフの挑戦を応援する意味でも、足を運びたくなる店だ。

この日は春節シーズン中ということでフォーチュンクッキーのサービス。ほぼおみくじである(笑)。
Chinese Restaurant 漢(かん)

住所:東京都港区芝5-15-2(MAP
TEL:03-6435-4850
アクセス:都営三田線三田駅から徒歩1分、都営浅草線三田駅から徒歩3分、JR山手線田町駅から徒歩5分
営業時間:ランチ 11:00-14:00(14:00L.O.)※スープがなくなり次第終了 ディナー 17:00-22:00(21:30L.O.)
定休日:日曜日
※カウンター席のみ
※コースは3,500円、5,000円(2名~)、8,000円(2名~)(各税別)。事前予約で仔豚の丸焼き宴席10,000円(12名貸切限定)を提供。

 

TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)