上海から西へおよそ300km、長江の下流部沿岸にある人口800万超の大都市が、江蘇省の省都・南京。

その南京で、名物となっている小吃が、湯包(タンバオ)。多くの人々に愛され、店の数は“満天星”の如し、と言われます。

そのなかでも、筆頭に挙がる人気店のひとつが「徐建萍湯包」。そこで修行経験のある麺点師(点心専門の料理人)が腕を振るう店が、東京・豊島区にあります。

「金陵一絶 王氏湯包」は2019年8月にオープン。東長崎は、池袋駅からわずか4分というのに、池袋の喧騒の余韻すらない閑静な街。

場所は池袋から2駅4分、西武池袋線の東長崎駅からすぐ。駅周辺に十字状に広がる、懐かしい雰囲気漂う長崎十字会商店街の一角。

看板にある「金陵」は南京の別称。「一絶」は、比べものにならないすばらしいものといった意味合いで、絶景や名所など、場所にもよく使われる言葉。

「金陵一絶」は、「南京名物」という表現ではもの足りない、という心情の現れなのでしょう。

スープを死守せよ!湯包(タンバオ)の食べ方のコツ

店名にもなっている湯包(タンバオ)とは、餡とともにスープがたっぷり入った小籠包、というと想起しやすいかもしれません。

しかし、見慣れた小籠包とは異なる見た目にビックリ!細かく寄せられた“ひだの山”が見当たらないのです。

「金陵一絶 王氏湯包」の湯包(タンバオ)。

その理由は、ひだや閉じ口のある面を下にして蒸すため。そうすると、中にたっぷり入ったスープを、逃さずしっかり包み込めるのだそうです。

南京の湯包が語られるとき、「湯包は、小籠包と違って…」のひと言が添えられることが多いのですが、実際に明確な分別の定義はなく、ひだや閉じ口を上向きにしてスープが入ったものも存在します。

また、南京では、湯包を食べるときの手順を示した一節があります。

「轻轻移,慢慢提,先开窗,后喝汤(軽軽移、慢慢提,先開窓,後喝湯)」

訳すると、そっと蒸籠からレンゲに移し、ゆっくり持ち上げ、まず皮を少し開け、スープを飲む。

これをメロディーに乗せて、歌うように言う人もいるのだとか。店では、この手順をわかりやすく、イラスト入りで紹介した食べ方ガイドが壁面に貼ってあります。

テーブルに沿った壁面にある「湯包の美味しい召し上がり方」。

皮の作りがしっかりしているので、箸で持ち上げ、レンゲへ移すのはスムーズにできます。しかし、注意が要るのはその後です。

箸で皮にちょこっと“窓を開ける(=开窗)”と、ドドっとスープがレンゲいっぱいに流れ出します。その勢いに驚き、レンゲを揺らしてしまうとスープをこぼす恐れが!充分お気をつけください。

箸でレンゲに移すのは楽勝。ここに箸で小さな“窓”を開けると…
スープがドバッ!この勢いに動揺してこぼさないことが肝心!

さて、このスープを飲んでみると…

「甘〜い!」

ですが、実はこの甘みこそ南京の特色。以前、80Cでご紹介した「蘇園餛飩」の蘇州人オーナー、李文娟さんが、江南地域の料理の甘みについて、おもしろい話を教えてくれたことを思い出しました。

「上海も甘いと思うけれど、西へ(内陸へ)向かうほど、もっと甘くなるよ。糖醋排骨(タンツウバイグウ:豚スペアリブの甘酢味)あるでしょ、あれを各地で食べるとわかりやすいの。上海より蘇州、蘇州より無錫、無錫でもかなり甘〜いと思うけれど、南京はもっとあんまいよ!」

各都市で糖醋排骨の食べ比べはまだ実現していませんが、振り返ってみると、上海で食べた糖醋排骨はもちろん、無錫で食べた蟹粉小籠(蟹味噌入り小籠包)は蟹味噌の存在感が消えてしまいそうなほど甘い味付け。

今回こちらのスープを飲み、実感とともに深く納得できたのでした。

1の「湯包の皮を横から少し破ります」が注意ポイント。

無事スープを飲んだら、残った包子(バオズ)は、黒酢につけていただきます。多くの店で小籠包を注文するとよく添えられる針生姜は、南京では一般的には使わないようです。

なお、店では蓋をした蒸籠のままテーブルに運ばれ、卓上で蓋を開けます。すると、開けた瞬間ブワッと湯気が広がり、おさまると湯包と対面。

スープの熱さでやけどしないよう気をつけつつ、ホカホカのうちにいただきましょう!

腕を振るうのは南京出身の兄弟料理人!

店で南京の特色ある一品を作っているのは、南京人の兄弟料理人。麺点師の王建東さん(弟)と健春さん(兄)です。

南京出身の王建東さん(弟)と健春さん(兄)。弟・建東さんが麺点師。写真の背景画(海・空・太陽など)は建春さんのお嬢さんが描いたものだそう。

弟の建東さんは、来日前、南京湯包の人気店「徐建萍湯包」での修業経験があるそう。

「徐建萍湯包」は、中国の主要都市に進出する南京湯包店の代表格「鶏鳴湯包」の創業者・居銀根氏の四女夫妻が営む店。

父である居氏が、自身の精巧な技術と、築き上げ根付いてきた南京の食文化を後代に正しく広く伝えるべく、四女夫妻に伝授したと言われています。いずれも数多ある南京の湯包店の中で、筆頭に挙がる人気店ですね。

その技を継承した「金陵一絶 王氏湯包」のメニューには、湯包のほか、長江下流域で広く食べられている糯米焼売(もち米入り焼売)もあります。

糯米焼売(もち米入り焼売)

ビッグサイズの焼売の中には、薄めでぷるんとした皮に包まれた、甘めの醤油味のチャーシューおこわがぎっしり!食べごたえがあります。

さらに、ボリュームある一食にできるように、エビワンタンスープやチャーハンの単品や、湯包と組み合わせたセットメニューも。

注文は券売機で。
エビワンタンセット。

セットを利用するもよし、糯米焼売をプラスしてもよし、湯包を2~3籠ひたすら堪能するもよし。

南京を旅するように、他ではなかなか味わえない(もしかしたら今のところ日本ではここだけ?!)個性的な湯包を、ぜひ東長崎へ行ってみてお試しを!

金陵一絶 王氏湯包
東京都豊島区長崎4-7-18
電話:080-4190-7317
営業時間:11:00-15:00、17:00-20:30
月曜定休

text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。日本の中華のなかでも、中国人シェフが腕を振るい、郷土の味が味わえる“現地系”に精通。『ハーバー・ビジネス・オンライン』等でも執筆中。

★アイチーさんの記事は、毎月10日前後に公開となります。お楽しみに!(次回4月10日公開予定)